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9/14

あの夏 編 コミティアにて

 夏。


 私は新刊を持って、東京ビッグサイトでのコミティアにサークル参加した。

 コミティアとは、一次創作オンリーの同人イベントである。

 売り子には、仲のいい後輩が来てくれた。

 私は自分のブースで本を頒布するのも楽しいが、サークル巡りもまた格別の楽しみにしていた。

 数十分もブースを留守にするのも珍しくない。

 後輩ゴメンである。


 この日も、昼前の時間帯、私は売り子を後輩に任せ、ふらふらと館内を巡っていた。

 この頃にはそれなりの数のサークルさんと顔見知りになっており、挨拶回りなど済ませながら、よさげな同人誌を物色する。

 昼。

 私は、自分のブースへ戻ってきた。

 後輩が笑顔で迎えてくれた。

「クナリ先輩、お帰りなさい」

「ただいまー」

 私もへらへらと返事する。


「そうそう、さっき、Sさんて方が見えましたよ」


 私の体が、ぎしりと音を立てて止まった。


「今席をはずしてますが、いずれ戻りますと言ったんです。そしたら、『あ、いいんです』と言って、……先輩?」

 なごやかだった後輩の顔色が、みるみる変わって行った。

 そうさせた私の顔色がどんなものだったのかは、彼しか知らない。

 だが、きっと今までに見せたことのない表情をしていたのだろう。

「Sさんと言ったの? その人?」

「……はい」

「髪が長くて、ほっそりしてて、白っぽい服装だった?」

「……はい」


 間違いない。

 そもそも他に同じ名前の知り合いはいない。

 それでも、人違いであって欲しかった。

 あんまりだ。こんなすれ違いは。


「ごめん……今戻ってきたところで、凄く悪いんだけど、俺……」

 後輩は謝りながら送り出してくれた。

 彼は何も悪くないのに。


 落ち着け。

 Sさんは今どこにいる?

 ここは同人イベント会場だ。

 そして、私と彼女の共通の知り合いも多くいる。

 まだ昼時だ。会場してからそれほど経っておらず、まだイベントは前半といったところだ。

 買い物をしているはずだ。もしくは、同人仲間とおしゃべりでもしているだろう。

 そうに違いない。


 私は、さっき挨拶を済ませたばかりのあるサークルに向かった。

 私もSさんも懇意の仲の同人作家さんである。

「すみません」

「あ、クナリさん。また来てくれたんですか」

「Sさん来てませんか」

「え、Sさん? 今日来てるんですか? ここには来てませんけど」

 一番の本命のはずだったのだが。


 私は別のサークルに向かった。

 私とSさん両方と仲良くしているサークルはそう多くはない。

 その全てに、私は足を向けた。

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