出会い編 ぼくらの日々
やがてSさんと、同人誌の即売会などのイベントで、実際に合うことにもなった。
初めて直に向かい合った時のことを今でも覚えている。
彼女は長い黒髪に白や水色を基調にした服装が多く、清潔感があって、とても好感が持てた。
造作のことを言うのは野暮だとは思うのだが、ほっそりしたスタイルに目が大きく、どう見ても美人だった。
それも突き刺さるような派手さではなく、おっとりした物腰が優しげな、穏やかな風貌をしていた。
おとなしそうな見た目通り普段は控え目にしているのだが、時折オタク的にぶっ飛んだセリフを放つなどのギャップもあり、「これは、オタクの男達から死ぬほどもてるだろうな」と思わずには居られなかった。
彼女は私よりも少し年上だったが、少女のように屈託のない時もあれば、年上として私を気遣ってくれることも多かった。
そして時に、オタクらしいアバンギャルドな発言で驚かせてもくれた。
私は、かつて人に抱いたことのないほどの好感を彼女に向けて感じていた。
そのように外見も人格もとても秀でていた人なので、私は、いずれ、この人を好きになってしまうのではないかと思った。
私は、いまだ訪れぬその日に怯えた。
あんないい人、好きにならないわけがない。美人だし。あと美人だし。
その日が来たら、どうしたらいいのだ。
私は今の彼女との関係が気に入っているのに。
何より、彼女が私を男性として評価しているとは到底思えない。そんな私が彼女に恋慕しているとなったら、彼女を失望させるのではないだろうか。
彼女と私の間に、男女のしがらみなどという不純物を持ちこみたくなかった。
今だって既に大好きなのだ。
一度彼女に対して恋愛感情を抱いてしまったら、それを私が隠しおおせるとは思わない。
どうしよう。
弱った。
しかし結論から言えば、それは杞憂に過ぎなかった。
私が女性としての彼女を所有したいと思うことは、ついになかった。
ただ、たとえようもなく大切であるというだけだった。
私たちの関係を、なんと言えば良いのか、いい言葉が見つからない。
平たく言えば「友達」なのだが、私にとってはただの友達ではない。
詳しくは次章に譲るが、彼女の存在は、私の精神を何度も暗黒面から救ってくれた。
Sさんがいなければ、きっと私は者の考え方も性格も、きっと今とは――悪い方に――違っていたことだろう。
私の小説作品には、時々、当たり前のように異性間の友情が存在する。
学生時代から、「そんなものは幻想だ」と何度も言われてきた。
しかし、私と彼女の間にあるものは、目には見えないけど、幻想ではない。
そう信じさせてくれたことに、私はずっと感謝している。
以前親に「僕が結婚式を上げる時は、彼女にだけは来てもらいたい」と言い、「お前は結婚式に女呼ぶ気か。馬鹿」と呆れられたこともある(異性の友人を呼ばないものだとは、知らなかったんですよ)。
気がつけば、長年患っていた、私の女嫌いは消え去ってた。
理由は、「Sさんが女性だったから」という、それ以外には思いつかない。




