表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/14

その後 編 ネットカフェにて

 未練を断つため、画材を捨てた。

 使い始めていたリキテックスも、ペーパーパレットも、面相筆も捨てた。

 食費を切り詰めて買いそろえた、百本を超えるコピックも捨てた。

「コピックは色ムラが出るから使い方に限界があるよ」と言われ、ムキになってその色ムラを抑えたり、逆に色ムラを生かす塗り方を追求したのも、今となっては無駄なことだった。

 上質紙、イラストボート、ケント紙、キャンバス地、全て捨てた。

 褪色しないように直射日光を避けて保存していたカラー原画も、折って、破って、捨てた。

 徹夜して作ったオフセットの同人誌も、真ん中から破いて捨てた。

 生原稿も破いた。

 キャラクタの頬の線が気に入らずに何度も書き直し、ホワイトが盛り上がって立体的になってしまった、重い漫画原稿用紙を捨てた。

 絵を描き始めた頃、さらにずっと下手だった、でももう二度と引けない、勢いだけの線と形のかたまりのような絵も捨てた。

 イベントでいただいた差し入れのお菓子の、もったいなくて捨てられずにとっておいた箱も、潰して捨てた。

 自分の心と思い出を、自分の手で握りつぶすようで、辛かった。

 しかし、すぐに何ともなくなるだろうと思った。

 私ごときが作ったものが、そんなに大層な意味など、持つはずがないのだから。



 数年が過ぎた。

 私はイベントにも出ず、絵も描かず、本も作らず、漫画も小説も読まず映画も観ず、基本的に休日のない社会人生活を送っていた。

 忙しい日々は、余計な趣味に時間を割く必要もなく、貴重なプライベートはニュースと専門知識を仕入れる時間にあてて、それなりの「普通」の職業人を営んでいた。


 感情の浮き沈みは小さくなり、昔を思い出すこともなくなった。

 高校時代のTRPG研究会など、本当にあったのだろうか。

 自分は漫画研究会なんて、本当に入っていたのだろうか。

 本当に同人誌を作って、イベントになんて出ていたんだろうか。

 当時の思い出が妙に空虚で、嘘っぽかった。


 すっかり自分は砂になれた。

 そう思った。


 そんなある日、私は、ネットカフェに行く機会があった。

 必要に迫られてのことだったのだが、その必要な用事は早々に済んだので、時間を持て余してしまった。

 ふと、昔交流のあった同人作家たちのことが気になった。


 今更私は、同人サークルをやろうとは思わない。

 過去の知己がどうしているのか、見るくらいはいいだろう。

 私は別に、喧嘩してみんなと絶交したわけではないのだから。


 はるか昔に放置した私のHPへ行った。

 掲示板は宣伝業者のコピペ文で埋め尽くされ、あの頃競うように書き込んで交流した形跡はもう、見る影もなかった。

 ただのネット掲示板の言葉の羅列なのだが、荒涼とした廃城を見るようだった。

 あの頃、このHPは確かに、私の城だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ