その後 編 さよなら同人
それから程なくして、私は別の事情で、ネットでの交流を断つことになった。
なんだか大仰だが、生活の都合上のことで、無理すれば続けられないわけではなかったのだが、無理をして続ける必要もあるまい……と諦め、HPの更新も止めた。
Sさんとは、その後連絡を取れずにいた。
心残りではあったが、踏ん切りをつける必要もあると思った。
絵を描く必要もなくなった。
というより、これはある特殊な事情により、アナログでは自分の描きたいようには描けなくなった。コピックも使えない。これではもう描く意味もない。
幸い無事に就職し、いちおうは社会人生活を送ることになったので、そういう意味では真人間ではあったのだが。
冒頭にも書いたが。
私は子供の頃から、勉強もスポーツも嫌いだった。
音楽も美術も、語学も手作業も嫌いだった。
人付き合いも物づくりも嫌いだった。
障害や病気があるわけでもないのに、私は何ひとつ人並み以上にできるものがないどころか、人並みですらない。
ずっと「普通」に憧れていた。
多くの人にとって最低ラインである「普通」は、私にとって、人生をかけて到達すべき、いと高き目標だった。
時折、「普通ではない者への迫害」という形で、「普通」という言葉が人を圧迫するのを見る。
しかし私にとっての「普通」は、ずっと見上げ続けてきた、世を照らす太陽のような憧憬の対象だったのだ。
自分以外の全ての人が持っていて、私だけは持っていない、人生の許可証のようなもの。
私は「普通」をそんな風に見ていた。
そんな私が、ようやく人並みに就職し、「普通」に手が届くようになった。
だから、絵などという、特に描いても描かなくても死にはしない趣味に、こだわる必要はない。
漫画も小説も、TRPGに出会ってからはそこそこ読むようになったが、これからは距離を置こう。
何かを面白いとか、楽しいとか、そういう感情はもう自分には必要ない。
何かを作ったり、没頭して見聞きしてすることが楽しかった頃を思い出せば、辛くもなるのだから。
あれほど望んでいた「普通」に、自分はなろうとしているのだから。
思い込みすぎのようにも見えるだろうが、この時はそれくらいの決意が必要だと思った。
これからは仕事に打ち込み、仕事を楽しいと思って、仕事のために生きるのだ。
自分を人間だと思うからいけない。
自分は仕事をする砂なのだ。
砂は遊ばないし、楽しまないし、喜ばない。
それくらい割り切れば、きっと「普通」に生きていけるだろう。
もともと私など、生きていようが死んでようが、特に喜ぶ人もいないのだ。
この時はそう思った。




