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不信電話


「で? 料理が得意な知り合いって?」


 楓との夕食も終わり、その後何事もなく帰宅。

 風呂に入って寝るかというタイミングで薊が部屋に入ってきた。極めて不信そうな眼をしながら。


「……お前が上がったのなら僕だって風呂に入りたいんだが? それにもう9時だ。寝る時間を過ぎてるぞ」


「今はお母さんが入ってるよ。それと明日は休みだし、多少遅くなっても大丈夫。そんなことより刃の知り合いについて聞きたいな。お(・)泊(・)ま(・)り(・)する程仲がいいんでしょ?」


 母さんから聞いたのか。……参った。薊は僕の女性関係に口煩い。

 年頃だし気持ちは分かるけど。


「仲は……まあ悪くはないな。面白い奴ではあるよ。配信者でさ、料理系のチャンネルやってるんだ。身バレを気にしてるからこれ以上は言えないけど」


「……ふーん。その人だけ? 料理上手は沢山いるんでしょ?」


 尋問でも受けてる気分だ。とは言え実態は妹からの可愛い嫉妬だ。言える範囲で答えてやろう。


「あとは及川だな。……知ってるか? あいつ寿司握るの滅茶苦茶上手いんだ。聞いたら人生賭けてるレベルで寿司に本気なんだよ。あのキャラでだぞ? 笑えるだろ」


「えっ……ほんとに? 全然見えないんだけど」


「あんな見た目で意外だよな。でも話してみるとお喋りだし面白いぞ。寿司好きゲーム好きで、あとブラコンだ。ちなみに私服だとドラゴンの絵が描かれたダサいシャツを着てる」


「やば……それウケる」


 くすくすと薊が表情を崩す。

 スグリは兎も角として及川は同じ学校の教師だ。あいつの家に泊まった事は知られてるし、この程度は話しても問題ないだろう。

 それに今日は薊にとっても大変な日になってしまった。日の最後で嫌な嘘は付きたくない。


「まあそんなわけだ。及川は勿論の事、配信者の奴とだってそういう仲ではない。嘘言ってないのは分かるだろ?」


「そうだね、嘘付いてはいないみたい。でもその子がどう思ってるかは分からないよね? ……刃は暇潰しみたいに女の子と付き合ったりするからさ。そういうの可哀想だし心配」


 母さんみたいな事を言うな。そして痛い所を突いてくる。

 確かに今までの女性関係は暇潰しだ。

 だが不誠実な事はしていないし、告白するのも別れを切り出すのも全て向こうからだ。興味が無いのが透けて見えたのかも知れないが。


「……まあ実際告られたよ。だけど断った。よく知らないうちに付き合いたく無かったからな。薊が心配する事はないよ」


「……本当にその人の事気に入ってるんだ?」


 驚いた様子の薊。告白を断ったのになんで気に入ってる事になるんだ。まあその通りではあるけど。


「ちょっと配信者の人の事教えてよ。興味出てきた」


「駄目だ。さっき言ったと思うけど、ちょっとした有名人みたいでな。……それにあいつは好戦的で喧嘩っ早い。髪だって金髪に染めてるし不良寄りだ。お前に悪影響を与えかねない」


「刃がそれ言うの? ……まあ知り合いの件はいいや。次の協議に移ります」


 次があるのか……。尋問じゃなくて裁判だったのかこれ。


「……いつの間にか古賀さんと名前で呼び合ってたよね? ……タメ口にもなってた。お寿司屋さんで私が連絡先交換する前から刃とは交換してたみたいだし……どういう事?」


 どういう事だろうね。楓がこれを聞いたら腹を抱えて笑うに違いない。

 やれやれ、言い訳を考えるのが大変だな。





「ふぅ。……おやすみなさい」


 眠気を我慢していたのか、薊はスイッチが切れる様に眠っていった。僕のベッドの上で。

 流石に高校生にもなって添い寝はマズいと思い、部屋まで運んでやった。今日はお姫様抱っこに縁のある日だな。

 それに明日は友人と約束があると言っていた。

 今日は疲れただろうし、自分の部屋の方が目覚めはいいだろう。

 さて、フラれてしまったな。明日は何をしようか。


 ——ブブブブ、ブブブブ


 ポケットのスマホから振動を感じる。これは通話の着信だな。こんな夜更けに誰だ?

 自室に戻りスマホを開く。


 [及川一郎]


 及川から? 用事があるならトークアプリで良いだろうに。取り敢えず通話に出る事にする。


「……こんな時間になんだ? トークじゃ話せない内容なのか?」


「トークは文章を考えるのが面倒だ。通話の方が手っ取り早い」


 こいつは本当に現文の教師なのか? いや本当の教師じゃなかったわ。


「なら手っ取り早く用件を話せ。今日の僕は疲れてるんだ。夜更かししたくない」


「それは遊び疲れだろう。ゲーム仲間が増えた様だからな」


「……学校の教師がこそこそと覗き見か?」


 ……こいつ何処まで知ってるんだ?

 蓮が校門で張ったネストに、こいつも気付いていた可能性はあるが。2人との接触も見られていた? ……その後の戦いも監視されていたかもしれないな。

 何にせよ及川は信用出来ない。こいつは恐らく茉莉花の正体を知っていた筈だ。それでいて僕が襲われているのを眺めていたわけだ。

 僕(・)を(・)茉(・)莉(・)花(・)に(・)喰(・)わ(・)せ(・)よ(・)う(・)としていた可能性もある。


「私は教師ではないからな。……まあ本題に入ろう。明日の予定は空いているか? 少々話がある」


「……構わない。丁度僕にもお前に言いたい事があったんだ」


 こいつとの関係は受け身だった。初心者だから仕方がないがな。

 だがゲームについてはある程度知れたし、こいつ以外の繋がりも出来た。そろそろ攻勢に転じても良い頃合いだろう。

 誰かの掌の上に居たんじゃ安心して眠れないからな。

 

 

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