その後の話
警察への事情聴取は恙無く終わった。
精神を病んだ男が元妻を襲い、娘を攫おうとした。
しかし幼い子供を連れたまま逃げる事は叶わず誘拐は断念。男は娘を置いて逃げ、それを俺たちが見つけた。
そう言うストーリーになった。
男がスズの母親を暴行した姿が防犯カメラに映っており、奴が激昂した様子でスズと共にいた所も従業員が見ていた。表面上は疑われることは無く、俺たちは警察から解放された。
「…………ふぅ」
注文したアイスコーヒーで喉を湿らす。……苦い。格好付けて砂糖を断るんじゃなかった。
夕方に差し掛かり、昼ほどフードコートは混んでいない。ゆっくりと慣れない苦味を味わう。
スズの母親は病院で目を覚ましたそうだ。命の別状はないとの事。流石に迎えには来れず、祖父母が来るそうだが。
それまでの子守りを引き受けたは良いが、僕は疲れてしまった。薊達に押し付けてコーヒーブレイクというわけだ。
「相席いいかな?」
「……どうぞ。なんだ、楓も逃げてきたのか」
「そりゃね。刃だけ狡いよ。私の歳で子供のパワーに付き合うのは大変なんだ。スズちゃんはカンカンに怒ってるし」
32歳はまだ若いだろうに。まあ両親への怒りを撒き散らすスズの相手は何歳でもキツい。
スズは何ひとつ覚えていなかった。
一般人はネストでの記憶を持ち帰れないらしい。だからスズには両親は急な仕事で帰ったと伝えてある。
両親に裏切られた彼女の激情は筆舌しがたい物があった。
……まったく、怒りの矛先を間違えているぞ。
————ゆるさないゆるさないゆるさない! 返せ! 返して! ……うわあああああああっ!
「……そういえばポイントの件は助かった。貯まり次第返したいから連絡先を教えてくれ」
あの戦いの後、有無を言わさず楓が僕に対してポイント譲渡を行なった。額は3000、大金だ。
助かるが借金生活は落ち着かない。早く返済したい所だ。
「連絡先を教えてって……ナンパかな? 気持ちは嬉しいけど歳の差がなぁ……私は構わないけど」
楓が自らの胸を抱きしめ、潤ませた瞳でチラチラとこちらを見てきた。悪質な冗談だ。
「……お前なぁ」
「ふふっ……なんてね。ポイントはそのままあげるよ。君にばかり負担を強いるのも面白くないし。それにこれでも真面目に貯金するタイプでね。ポイントには困っていないんだ」
「助かるよ。ありがとう」
楓がいなければ戦えたかどうかも怪しい。人質にされてしまった事もあるし、負担というならそちらも大きいと思うけどな。まあ貰える物は有り難く貰うのが僕の主義だ。
「でも連絡先は交換しておこうか。このアプリにおいて信頼できる友達ってのは貴重なんだ。それにお姫様抱っこのやり直しがまだだしね」
そういえばそんな事を言ってた気がする。安請け合いしてしまったな。
まあそのくらい構わない。お姫様抱っこはタダだしな。僕は損しない。
友達……というのは違う気もするが、楓は強いし信用出来る。連絡先くらいは構わないだろう。
「はいはい。じゃあ登録するか」
「うん……ッ!」
楓が僕のスマホを見て固まった。何かおかしい所でも…………ああ、見ているのはストラップか。
僕のスマホにはオレンジ色のストラップが付けられている。アクセサリー部分は割れてるし傷だらけだが使えなくもない。
勿体無いから拾ってきた。
「……新しい物を買ったらどうかな? 指を怪我したら大変だよ」
「帰ったら多少の補修はするさ。傷だらけの犬なんて格好いいじゃないか。それに僕は思い出の品ってのを大事にするタイプなんだ」
「…………そうか」
楓がワシワシと僕の頭を乱暴に撫でた。揶揄ったり子供扱いしたり忙しい奴だな。
ひとしきり僕の髪をボサボサにし、楓は僕と連絡先を交換した。
「そうだ! お近付きの印に夕食でもどうかな? 薊ちゃんも誘ってさ。お姉さんが回らないお寿司をご馳走してあげよう! 近くに行き付けの名店があるんだ。週一で通ってるけど全く飽きない最高の寿司さ!」
楓が大袈裟に手を叩いて提案する。僕らは元々外食する予定だから構わないが……寿司ときたか。
「……ははっ、寿司か。寿司ね、いいよ。ご馳走になろう。赤シャリを使った本格寿司かい? それともゲテモノの乗った創作寿司かな?」
「え? なんか変な事を言ったかな?」
笑い出した僕の姿を見て、楓はキョトンとした表情で頬を掻いている。
なんでプレイヤーは寿司好きばかりが集まるんだろう。僕も好きだけどさ。
なんだか無性に可笑しくなってしまった。
笑い過ぎて涙が出そうだ。




