↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/33

古賀楓


「いや助かったよ。連れ回し案件になってしまう所だった。デートの邪魔をしたのは申し訳ないけどね」


「あー! やっぱりお姉ちゃん達付き合ってるんだー! すきぴなんだー!」


「僕らは兄妹だよ」


「従兄妹です! 従兄妹!」


 一気に騒がしくなったな。声を掛けたのは迂闊だったか。

 元気いっぱいの女の子はスズ。小学三年生らしい。姦しさの9割はこの子だ。

 そして隣の席でコーヒーを飲んでいる女性は古賀楓(こがかえで)。

 灰色に染めた長髪に藍色のスウェットとジーンズ。派手目な外見だが、本人の雰囲気も相まって落ち着いて見える。


「……刃見過ぎ」


 薊から窘めるような視線を感じる。だが気になるのは仕方ないだろ? だってこの人白衣を着てるんだから。

 さっきは気付かなかったが間違いなく白衣だ。遊園地に白衣? ミスマッチ過ぎる。


「気になるかな?」


 古賀が白衣の襟をぱたぱたと開く。

 まあ気になる。まさか遊園地の常駐医でもあるまい。

 

「不躾ですみません。……でもそうですね、医者なんですか?」


「そうだよ。しがない町医者だけどね。白衣を着ていると分かりやすいだろう? 道で急病人が出てもすぐに声が掛かる。……あっ、ちなみにこれは私服だよ。仕事中はスクラブ……まあ仕事着とは分けてるから、いつもちゃんと清潔だ」


 変わった奴だ。プライベートの日まで人命の事を考えているのか。まあ余暇の日に迷子の世話をするぐらいだしな。

 というか休日に一人で遊園地というのも度胸がある。大方コラボ目的だろうけど。


「やっぱりお医者さんだったんですか。まだ若いのに凄いですね」


「ただの若作りだよ。こう見えて君の倍は生きてるんだ。でも嬉しいな、ありがとう」


「嘘ッ!? あっ、……いえ」


 薊が笑窪を作りながら視線を逸らす。古賀は美人だからな。こいつの医院では仮病の患者が多い事だろう。


「しかし母親と逸れたなら迷子センターに行けば良いのでは?」


 この規模の遊園地だ。保護施設もあるし、マニュアルも整っている筈だ。家族が既に待機している可能性も高い。

 すると古賀は肩をすくめて言った。


「何度も提案しているんだけどねぇ」


「だめ! ママが悪いんだもん! わたしに黙ってパパと電話してた! わたしだってお話したいのに! だからハンセイするまでお姉ちゃんと遊んでるの!」


「……との事だよ。ちなみに強行したら、次の遊びは鬼ごっこになると宣言されている」


「50メートル9秒だよー!」


 我儘に付き合ってやっていると言う事か。だが血相欠いて探している母親が見たら危ない状況だ。それも織り込みなんだろうが……本当にお人好しなんだな。

 対するスズは頬を膨らませてご立腹な様子。子供の説明ではなんとも分からないが家庭事情は複雑そうだ。


「君達さえ良ければ一緒にまわってくれないか? スズちゃんは実にエネルギッシュでね、三十半ばの体力では大変なんだ」


「お姉ちゃん達も遊ぼうよ! 次は観覧車に乗るの! あれ楽しー!」


「いいよ、観覧車は私も好きなんだ。みんなで一緒に乗ろうか」


 薊の顔色を確認するまでもなく次の予定が決まった。

 僕もお前が良いなら構わない。少々喧しいが、二人とも付き合ってて煩わしいタイプじゃないからな。


「ありがとう。ではその前に…………少々場を離れても良いだろうか? 早速のところ悪いんだが急用があってね」

 

「急用?……ああ、どうぞ」


「すまないね」


 頬を軽く掻いて古賀は席を立った。まあスズとずっと一緒だったらしいからな。目も離せないか。


「お姉ちゃんどこ行くの? 一緒に観覧車乗ってくれるんだよね? わたしを置いてかないよね……?」


「安心して。古賀さんはトイレに行くだけだから」


「なーんだ。おしっこかー!」


 お前らな……古賀が早歩きになったじゃないか。

 スズは薊にも懐いた様でお喋りが止まらない。薊は面倒見が良いからな。

 しかしそれを踏まえてもスズは警戒心が薄過ぎる。保護したのが古賀で良かったな。


「お姉ちゃん……まぎらわしいなー。あざみちゃんって呼んでもいいー?」


「いいよ。スズちゃんの好きに呼んでね」


「やったー! じゃああざみちゃんと……じん!」


「何故僕は呼び捨てなんだ……?」


 大体お兄ちゃんで差別化出来ているじゃないか。まあ妹は薊だけで良いが。


「えー? じんはじんっ!って感じだもん。……駄目なの?」


「いやいいけどさ……」


「やったー! じんじんじーん!」


 スズは大喜びで薊とハイタッチしている。本当に明るい子だな。僕がこれくらいの頃はどうだっけか?

 昔の僕は捻くれたガキだった気がする……。あまり思い出したくはないな。


「ただいま。待たせたね」


「お姉ちゃんおそーい! あっ、もしかして……」


「よし! 早速観覧車に向かおうか。昼時だし空いてるかもしれない」


「いくーーー!」


「あっスズちゃん待って!」


 手を叩いて会話を切るとスズが椅子から降りて駆け出した。それを薊が急いで追いかける。

 しかし本当に遅かったな。まあ、あまり考えるべき事ではないが。

 そう思っていると古賀はちょんちょんと僕の肩を叩き、耳元で囁くように言った。


「……実はインフォメーションセンターに電話を掛けていたんだ。スズちゃんのお母さんもいて直接話した。観覧車が終わったら合流する手筈さ」


 なるほどな。スズは観覧車をとても楽しみにしている。

 その後ならクールダウンしてそうだし丁度いいかもしれない。


「良い人ですね、本当に」


「いい大人なだけさ」


 変わり者だとは思うが尊敬出来る女性だな。年長者として及川にも見習って貰いたい。


「あー! お姉ちゃんとじんがイチャイチャしてるー!」


「は!? 刃どう言う事?」


 あー面倒な所を見られたな。特に薊に。

 古賀を見るとウィンクして笑い、肩を叩いてきた。

 ……はぁ。本当にいい大人だな。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。