遊園地に行こう
「……わぁ、凄い人だね」
「今日は連休初日だ。ここは全国区でも有名だからな」
中心にある巨大な観覧車。うねるように配置されたジェットコースターのレール。コミカルな動作の着ぐるみと笑顔の従業員。そして軽快なBGMと人々の笑い声。
郡空ドリームランド。
ご当地感丸出しの名前の遊園地だが、古ぼけた名前とは裏腹に開設されたのは僅か数年前の事だ。
町興しの一環として県の補助を受けて作られたらしい。
その甲斐あってか観光客は増え、県の人口は僅かながらも年々回復傾向にあるとか。敏腕知事だな。
「しかし、……うん。……眠い」
「着いて早々のセリフがそれ? ……ていうかお墓参りまで付き合わなくても良かったのに」
薊が呆れがちに言うが、なんだか機嫌は良さそうだ。
幾つになっても遊園地は心を躍らせるものだと言うからな。薊も例に漏れず楽しんでいる様だ。
「さて、まずはどうする? 疲れないうちにジェットコースターに乗るか?」
「絶対ヤダ。まずは土産物コーナーでタヌルポさんのコラボグッズを買いに行くよ」
いきなり土産物かとは思ったが、それが目的で来たのだからと納得する。
タヌルポさんとは薊の好きなゆるキャラだ。たぬきを模したキャラクターで、やる気のない顔と溶けたバターみたいな体が特徴。正直僕には良さが分からない。
「それは残念だ。まあデートで順番待ちのアトラクションに乗ると失敗するらしいからな」
「……デートじゃないし」
薊はそう言うと俯いて黙ってしまった。
……ちょっと揶揄い過ぎたか? 薊ももう高校生だ。寂しいけどこういう冗談は控えた方がいいかもしれない。
「しかし物販も混むからな。荷物にはなるけど今のうちに買うのはありかもしれない」
「……うん。携帯のコラボストラップは確実に買っておきたいし」
「スマホの事携帯って言うのお前だけだぞ……。よし、そうと決まれば急いで向かおうか」
「あっ……ちょっ、手……」
薊の手を引いて物販センターに向かう。こいつは地図が読めない。逸れて迷子になったら面倒だ。
さっきは少し微妙な空気になったからな。それなら今日一日は兄らしい態度で妹の遊びに付き合ってやるさ。
「これは凄いな……」
物販センターは人で溢れかえっていた。
ポールから伸びたベルトで入口と出口を分けており、従業員が忙しなく誘導している。
建物の前にはタヌルポさんとその仲間達のポップがあり、多くの人がスマホで撮影していた。
マジかよ……この混雑はコラボ効果か? そんな人気があるのかあの狸。
「ヤバッ! 売り切れちゃう!」
薊が僕の手を握り、駆け足で列に並ぶ。
焦り過ぎだ。こいつの大声なんて久々に聞いたな。
従業員の案内のもと、買い物の終わったグループと入れ替わるように店内に入る。
早歩きで土産物を物色する薊。どうやら店内にコラボグッズを点在させているみたいだ。売り上げよりトラブル防止を優先させたのか? 他の商品を見て貰う為とも考えられるが。
「あった!」
お目当ての物を見つけたのか薊の速度が上がる。
真っ直ぐに進み、フックに吊るされているストラップに手を伸ばした。
「あっ……」
「おや……?」
黄色いタヌルポさんのストラップには、二人分の指が掛けられていた。
ぽかんとした顔の女性が薊に視線を向け、薄く笑いながら指を離した。
「失礼。私が欲しかったのは隣のストラップだったんだ。間違えてしまったね」
「いえ……私こそすみません」
女性は隣の黒いストラップを手に取ると去っていった。
黄色いストラップは残り一つだ。譲ってくれたのか。
薊はお目当ての物を手に取り笑っている。その頬には笑窪。
これは恥ずかしがってる時のサインだ。
「あの女性には黒色の方が似合うよ。だから素直に喜んどけ」
「……フォローの仕方が最低なんだけど」
薊はストラップを手に取ったまま、レジのある方向へ向かった。
「他の買い物はいいのか?」
「帰る前にもっかい寄るからいいの。荷物嵩張ったら楽しめないし」
背中越しの声は少しだけ不機嫌そうだった。
……この年頃の女子は難しい。とは言っても同年代だが。スグリくらい分かりやすければな。
僕はオレンジ色のストラップを手に取り薊の後を追いかけた。
「……美味いな、このホットドッグ。ちょっと高いけど」
「コラボ商品だから。というか元々遊園地のごはんは高い物だし。でも美味しいね」
薊が包み紙を見せながら言った。紙には猪を模したゆるキャラが描かれている。
あの後、いくつかアトラクションを回って現在11時。少し早いが、フードコートが混まないうちに食事を摂る事にした。
「それにこのソーセージには猪肉が使われているらしいよ」
「……猪キャラのコラボ料理で牡丹肉ってのはどうなんだ?」
シュール過ぎるだろ。ゆるキャラ自体がシュールなデザインをしているけどさ。
しかし美味いが量が足りないな。もう食べ終わってしまった。ケチらずもう一本買っておけば良かったか。
追加しようにも屋台は既に長蛇の列だ。並ぶのはちょっとな。
「……はい。一応おにぎりだけ作ってきた。刃はそれじゃ足りないでしょ? 二個とも食べていいよ」
タイミング良く薊が鞄からおにぎりを出した。
本当によく気が効く。学校ではモテるだろうな。
「ありがとう。相変わらず用意がいいな。薊は食べないのか?」
「私はこれで充分だから」
普段のお前はもっと食べるけどな。
深くは聞かない。そう言う日もあるだろう。
僕は有難くおにぎりに手を伸ばした。
美味い。中身は梅干しか。梅干しは良い。保存性を上げてくれるし何より美味い。僕の好物の一つだ。
「相変わらず料理上手だな。僕だったらこう上手くは握れない。一生掛かっても出来る気がしない」
「おにぎり一つで大袈裟だなぁ。まあ刃の料理スキルは壊滅的だからね」
確かに僕は料理だけは出来ない。それ以外は何でも出来るのに不思議な事だ。
きっと料理の神様に嫌われているんだろう。
「そこは追々克服するさ。いつまでも薊の世話になる訳にはいかないからな。幸い料理上手な知り合いは多い。先生には困らないだろう」
「私はずっとお世話していても…………え? 料理上手な知り合いって何?」
口を滑らせた。薊にはアイツらに関わって欲しくはない。
薊は胡乱気な目付きで僕を見つめている。こうなると頑固な妹は中々納得してくれない。
さてどうやって誤魔化すかな。
「ヤダッ! ママが悪いんだもん! ママにはハンセイさせるの! お姉ちゃんが代わりに遊んで!」
「そうは言っても私達は初対面だしねぇ。というか私的には逮捕一歩手前の危機的状況なんだけど……?」
後ろの席から大声が聞こえた。そちらに顔を向けると幼い少女と女性が何やら揉めている。女性には見覚えがある。あの人は……チャンスだな。
「薊。あそこで困ってそうな人はさっきの女性じゃないか? 物販店に居た時は子供を連れていなかった。訳ありみたいだし話を聞いてやろう」
「あっ……うん、そうだね。ストラップ譲って貰っちゃったし、困ってるなら放っておけないよ」
和気藹々としているし、そこまで深刻な問題ではないだろう。
軽く話を聞いてやるだけだ。それで有耶無耶にしてしまおう。
——ブブ。
スマホが震えた。画面を見るとトークアプリに通知が来ている。相手は……薊? 何故?
《斑目薊》
料理上手な知り合い
夜聞く
メモ帳代わりかよ……。薊は席を立ち二人に向かって歩き出した。
やれやれ、上手い言い訳を考えておかないとな。




