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負けず嫌い


 付喪神が人型を崩し、奴を構成する刃物の群れが俺たちに襲い掛かってくる。数が多い。さながら魚群の塊だ。

 速いが避けられない程ではないな。大きく横に跳び回避する。

 だが目標を外した刃物達は木の葉の様に宙を舞い、渦を巻いて移動し空中に点在した。


「やばッ!」


 四方から刃物の雨がスグリに向かって降り注ぐ。

 数を減らしに来たか。バーバ・ヤーガの時もそうだったが、脳筋の化け物ではないらしい。

 スグリは建物の中に逃げ込む。しかし地面に刺さった刃物は宙に浮き、再度獲物を追い掛けて廃墟の中に入っていく。

 堪らずスグリが建物から出て来るが、追跡者の勢いは止まらない。


「くっ、しんどおおおおお!」


 スグリが障害物を利用して、猫の様にすばしっこく避けていく。良い反応だな。

 しかし俺に攻撃が向かないなら好機だ。

 奴は自らを飛び道具に攻撃してきた。

 だが体の中心にあった強く錆びた鋏だけは移動せず、元の位置に停滞させている。あれが付喪神の核なのかもしれない。狙ってみる価値は十分にある。


「そのまま引き付けてくれ!」


「ちょっ……がんばる!」


 意図を察したスグリが、体を小さな鼠の姿に変えて走り出す。

 的を小さくして回避に専念するつもりか。全く頼りになる相棒だ。

 奴との間はそれ程離れていない。ここから狙えるな。


「……フッ!」


 飛びあがり一瞬で距離を詰める。取った! このまま殴り砕いてやる。

 

 ————ヒュン


 狙いを定めた瞬間。俺の耳が風切り音を捉えた。

 そう甘くはないか。だがこのまま押し切ってやる。

 俺は左手で首だけを守り、そのまま右拳を撃ち下ろす。  

 インパクトの直後、不快な音の二重奏が聞こえた。


 グチャリッ————バキャッ

 

 〜〜〜ッ! とても痛い! 右腹に金属片が刺さっている。これはさっき破壊したゴブリン武器だ。道具を操る事も出来るのか。

 そして今の一撃は浅かった。痛みで狙いが逸れた。俺の拳は僅かに擦り、辛うじて持ち手が割れたのみ。

 それも他の金属片が集まり、すぐに修復してしまった。

 鋏は遠く後方に離れていて追撃も叶わない。何より俺のダメージも重い。

 

「ぐっ……、リペア」


 傷口とその周囲が発光し、逆再生の様に俺の体が修復されていく。抜け落ちた金属片は地面に落ち、風化して消えた。

 九十九からのポイントがなければやばかったな。そのおかげでこの状況ではあるが。


「今こっちへの攻撃がおさまった! やっぱりそれが弱点だよ!」


「……やはりか。ナイスだスグリ!」


 これで攻撃目標が定まった。半端な攻撃では修復してしまう事も分かった。一撃で粉々にしてやる。


 キィイイインッ!


 甲高い音と同時に離れていた刃物が鋏に集まり、再び人型を形成した。

 鋏はそれらに埋もれて姿が見えない。バレた自覚はあるらしいな。


 ——パァン!


 突如奴の左腕が破裂し、こちらに刃物群が飛んできた。全てナイフだ。殺意が高い。

 後ろに跳ね大きく距離をとる。自在に操るなら細かい回避動作は意味をなさない。

 俺は近場に刺さっている看板を引き抜き、ナイフ達を打ち落とす。

 その後距離を取るが、ナイフは追撃する事なく地の上で沈黙していた。

 

「……こいつ苦手だ!」


 鎧に視線を戻すとスグリを執拗に追い掛け回していた。

 人型だが関節も何もない上に、どの部位からも鋼の弾丸が飛んでくる。格闘術が効かずやり辛そうだ。


「刃君ヘルプ! って標識持って何して…………それだッ!」


 スグリがこちらに向かって駆け出す。そして大きく跳ねたかと思えばその姿がブレ、巨大なハンマーに変身していた。


「とっ……オモッ」


 回転するハンマーを何とかキャッチする。これでブン殴れって事か。


「重くないもん! ……って違う! 私を使って鎧をぶっ壊そう! 持ち手に大事なトコ集中させてるからそこには当てない様に。そこ以外ならリペアで何とかなる!」


「分かった! 思い切り振ってやる!」


「…………ちょっとは躊躇して欲しいな。あと…………になるから。あまり痛くしないでね! よろしく!」


 ハンマーさんから小声で作戦を受け取る。口も無いのにどういう仕組みかは気になるが、それは後だ。

 俺たちの意図に気付いたのか鎧が宙に浮かび始めた。

 空に逃げるつもりか。だがまだ高度は低い。やれる!


「……うわああああ速ッ! ジェットコースターは苦手なんだよおおお!」


 気の抜けることを言うんじゃない! 俺は駆け出し、助走をつけ瓦礫に飛び乗る。そしてその勢いのまま廃墟の屋根の上に飛び移り、さらにジャンプ。

 空中からハンマーを構える。狙いは真下の鋼の鎧だ。


「くらえっ!」


 バキャンッ!

 魔犬の膂力×スグリの体重による破壊力。

 鎧は無数の破片に砕かれた。

 破片に核の姿はない。だが俺達の狙いはここからだ!

 ハンマーの姿が一瞬ブレる。見た目には何も変わっていない。しかし、


 カタカタカタカタカタッ!


 突如奴の体が剥がされ、勢いよくハンマーに吸い付いた。ネ(・)オ(・)ジ(・)ム(・)磁(・)石(・)のハンマーに。

 超強力磁石だ。本当にスグリは便利な力を持っている。

 そして左脚の部分から錆びた鋏が飛び出してきた。ちゃっかり位置をずらしていたのか。だが無意味だったな。

 右手をハンマーから離し鋏に狙いを定める。これで終わりだ。

 拳が鋏に当たる。その寸前、


「なっ!?」


 錆びた鋏の姿は消え、代わりにナイフが現れた。


「ぐっ……!」


 ナイフの切っ先が拳に刺さる。

 やられた! 位(・)置(・)交(・)換(・)か! 俺が落としたナイフを退路にされた!

 捨てられた物を自己と認識して交換するなら自身でも可能な筈だ。考えが至らなかった。


 カタカタカタカタカタ


 ハンマーに吸着した刃物が動き出した。

 マズい。不意を打てたから封じる事が出来ただけだ。磁石だけでは攻撃を抑えられない。足場の無い空中では回避も無理だ!


「刃君ッ!」


 ハンマーの持ち手がブレ、盾状の金属に変化した。


「やめっ」


 無数の刃物が盾となったスグリに刺さった。

 馬鹿が! 持ち手は大事な所じゃなかったのかよ!


「ぐっ!」


 上手く着地出来ず衝撃を逃せなかった。

 落下と同時に変化が解け、血塗れのスグリが現れる。

 刺さった刃物で腹が剣山の様になっているがまだ生きている。


「スグリッ! 喋れるか? 出来るならすぐにリペアを使え!」


 体は震えているが、目に力があるし喉もなんともない。肺がやられていなければまだ間に合う筈だ!


「…………りぺ……あ……」


 か細い声が聞こえた直後、スグリの全身が発光し傷は消失。刃物も塵と消えた。


「……よし」


 刺さった状態からの追撃はない。俺の時もそうだったが、刺さった物は所有扱いになるのか? ふざけているな。

 カタカタと音を立て、上空彼方で付喪神が鎧を再形成している。今の攻防で警戒度を上げたのだろうか。あの高さでは手出し出来ない。


「……ガチやばい。私達と相性悪いよ。蘭ちゃん達がいればなぁ」


 確かに蘭華のスコルなら広範囲に攻撃出来る。蓮のハティがいれば核への奇襲も楽に出来そうだ。だがここに二人はいない。

 俺たちだけで倒さなければならないが、それには幾つも障害がある。

 

 一つ、敵は空高く近接攻撃は届かない。

 二つ、核を攻撃しなければダメージは与えられない。

 三つ、核は自由に他の部位と位置を変える事が出来る。


 位置交換は逃亡と見なされない為、ケルベロスの能力で阻止は出来ない。

 攻撃手段はある…………だがどうやって当てるか————、


「……ギャッ」


 その時場違いな声が聞こえた。振り向くと脚の折られたゴブリンが痛みに喘いでいる。

 …………待てよ?

 付喪神。鋼。上空。ゴブリン。アイテム。……行ける! 

 いや五分も無いか? だがそれでも構わない。分の悪い賭けなんか今更だ!


「……ゴブリンを殺してネストを解除しよう。アイツはその後ネストを張るだろうから、蘭ちゃん達を連れてきて倒せばいいよ!」


 天啓を得たかのようにスグリの声に力が入る。確かにその方法の方が手堅いかもな。

 だが天啓を得たのは俺も同じだ!


「俺は本当に運がいいなッ!」


「グェッ!」

 

 ゴブリンに近寄り首を握り締める。スグリがホッとした様に息を吐いた。だがすまないな。俺は負けず嫌いなんだ。日に二度も負けて堪るか!


「アイテムロード、マンドラゴラの根」


「えっ?」


 首を離し、大きく息を吸おうとしたゴブリンの喉にマンドラゴラを突っ込んでやる。根っこは吐き出される事なくゴブリンの腹に収まった。

 九十九での敗北を早速活かそうと思う。一か八かになるが構わない。ギャンブルは得意なんだ!


「ちょっ……なんで……やば……」


 スグリが頬を紅潮させ、ゴブリンを熱っぽく見つめる。

 息を荒くさせ、こちらにじり寄ってきた。

 マンドラゴラの根は超強力な媚薬だ。身に付けた者に対する魅力効果がある。

 気持ちは分かる。俺だって相当我慢しているんだ。今すぐ抱き上げて、この潰れた顔に口付けをしてやりたい。

 だが情欲なんかじゃ、このゲームの面白さには勝てない。ゴブリンの首根っこを掴み、付喪神の位置に近い屋根の上まで移動する。

 さあ! 大博打の始まりだ!


「やあ! さっきはぶん殴って悪かった。お詫びにいい男を紹介しに来たんだ。光り物が大好きなナイスガイだ。君にピッタリだろう!?」


 付喪神に見せる様にゴブリンを掲げたその瞬間。鎧は解け、金属の群体が猛スピードで襲来してきた。その中には核であろう鋏の姿さえある。

 大当たりだ。マンドラゴラの魅了はオリジンにも効いた。


「ははっ、モテモテじゃないか! ほらっ、高嶺の彼女にキスしてこいッ!」


「ギャアアアア!」


 俺はゴブリンを頭上に蹴り上げる。真っ直ぐに上昇した彼の体に、四方から無数の鋼が近寄ってくる。

 色々な所に分散させていたのか。危なかったな。


「ギッ! 」


 付喪神の死の抱擁。無数の金属が刺さり、ゴブリンは原型すら分からなくなった。

 弾けた血が花火の様に飛散する。


 ————Congratulations! ネストオーナー、ゴブリンリーダーの撃破に成功しました。達成プレイヤーには特別ポイントが贈与されます。オーナーの消失により、まもなくネストダンジョンが消滅。入場プレイヤーは強制的に退去されます。


 ——さて、ここからだ。

 俺は左腕を頭上に掲げる。

 急がなくてはならないが、手の震えが止まらない。緊張と高揚で胸が滅茶苦茶になっているからだ。

 なんせ初めての必(・)殺(・)技(・)だものな。素面ではいられない。

 こんな様子では命中するか不安になるがそこは大丈夫だろう。

 丁度よく頭上に敵がいるからな。それも血液塗れのおまけ付き。

 あ(・)と(・)は(・)落(・)と(・)す(・)だ(・)け(・)だ(・)。


「イリーガル発動。————カース・ライトニング」


 茉莉花からの贈り物。俺の両腕を襲った光。

 感慨深いものがあるがそれはそれ。

 天空から落とされた雷が、ゴブリンの体ごと付喪神を焼いた。

 白熱した鋼は光の中に消え、遅れて辺りに轟音が響き渡る。


「ちッ!」


 腕に激痛が走った。見ると雷が腕に帯電していた。

 被弾してしまったか。しかしどういう現象なんだ?


 ドサッ。黒焦げのゴブリンが落ちてきて思考が止まる。視線を戻すと既に雷は消えていた。……まあいいか。


 ————Congratulations! オリジンモンスター、付喪神の撃破に成功しました。達成プレイヤーには特別ポイントが贈与されます。


 付喪神も問題なく始末出来た様だ。

 九十九も含めて強敵だったな。

 相性というのはどうにもならない。その対策にアイテムを集める必要もあるか。

 今回の気付きはきちんと活かしていこう。


「刃君ッ! 今のなに!? あれって茉莉花のだよね!? まさか出し惜しみしてたの!? 私命懸けだったんだぞおお! というかゴブリンに興奮した事実がキツ過ぎぃい! 責任とってよおお! 上書きしてよおお!」


 追いかけてきたスグリのマシンガンが耳に痛い。

 ゴブリンについては本当にごめんな……。

 でも上書きしようとしたらゴブリンの顔が浮かびそうだからパスで。


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