Side 稲上蘭華
「それで野良ネスト一つ潰してPKとオリジンまで倒してきたと……」
「そうそう! 本当刃君格好良かったよ! ……ちょっと、いやかなり頭ぶっ飛んでたけどそれも良いっていうか? そもそも顔が良いっていうか?」
「……本当に初対面の男泊めやがった事に、私はドン引きなんだけど」
学校が終わり、蓮華を連れてスグリの家にやってきた。
このまま駄弁ってゲームして夕飯食べて帰るのがいつものルーティン。そこにスグリの配信やアプリ加えたものが私達の日常だ。
「まあスグリは惚れっぽいからねー。人見知りだから切っ掛けがないとまともに話せないけど」
「スグリは私達に感謝するべき。……どうせこのムッツリの事だからやってるとこの動画とか撮ってるはず。見せろ見せろ」
「撮るわけないじゃん! ていうかやってないし! こうなるから話したくなかったのにぃい!」
二人が喚きながらスマホを取り合ってる。いつものじゃれ合いだ。
スグリには申し訳ないと思う。でも流石にアプリ関連は放置出来ないかな。先輩とよろしくやってるだけなら別に良いんだけどさ。
しかし大分仲良くなったみたいだ。
良かった良かった。ステュクスの誓いだけでは不安だからね。握れる手綱の数は多いに越した事はない。
「でもま、ネストでも大暴れだったわけだ。あれが初心者だなんて信じられないなー」
「付喪神のPKは強かったよ。戦い慣れたベテランって感じ。それでも私の変化を利用してあっさり騙し討ちにかけた。猫又の力を知ってすぐだよ? ありえないよね」
「……あれは初心者詐欺。多分何回か人生やり直してる」
それは漫画とか映画の見過ぎだろう。でもそう言いたくなる気持ちは分かる。私だって折角したためた作戦を突破されたわけだからね。あれは一種の力技だけど。
「それより雷の方が気になるねー。私達相手に出し惜しみしてたってのはちょっとムカつくけど」
「……ケルベロスが炎や雷を使うのは創作でのイメージ。伝承上ではそんな力はないね。解釈できる様なエピソードも見つからなかった。やっぱり雷関係のアイテムじゃない?」
確かにオリジン戦でマンドラゴラの根を使ったとスグリが言っているし、蓮華の言う通りアイテムを使っただけってのも十分あり得る。
「だからあれは茉莉花の技だよ! ……根拠はないけどさ。刃君に聞いても煙に巻くだけだったし」
茉莉花の技……カース・ライトニングか。
狙った場所に雷を落とす力。バーバ・ヤーガの自然を操るという逸話を雷操作と解釈したスキル。
しかしこればかりは実際に見てみないと分からないな。
「まー必要があれば使ってくれるでしょ。今は味方なんだから頼もしい限りじゃない。……それより警戒が必要なのはあいつらだ。これから話し合いなんだから変に挑発しないでよねー」
「あいあいさー」
「……挑発するのはいつも蘭ちゃんだけどね」
黙らっしゃい。私のは作戦のうちだからノーカンなの。
さて、そろそろ時間だ。急に呼び出しとは腹が立つが、茉莉花の代役についても話しておきたい所だったし丁度いい。
「んじゃ行くよ。ポイント使用————ジャンプゲート。対象三名。行き先。フォルセティの宮殿」
リビングに黒い球が出現する。相変わらずの異物感だ。
ゲートを使うと、日常が蝕まれている様な気持ちになるから嫌い。
しかも一人当たり100ポイントも使う。それを三人分。これだけで二回もプロトコルが出来てしまう。ぼったくりか。
呼び出した奴らにはきちんと請求しないとね。
「あああああ! だからリビングでゲート開かないでよおおお!」
「大丈夫。ちゃんと皆の靴を持ってきた」
「そういう問題じゃねえんだよおお! 床が汚れんだよおお!」
「あーもううっさいなー! 向こうについたらしゃんとしてよね!」
二人の掛け合いを背にしてゲートに飛び込む。
はー、ほんとメンドイなー。
「よっと」
ゲートを通り問題なく着地する。遅れて二人も現れた。
転移した先は管理ネストの“フォルセティの宮殿”。その庭園だ。
「…………はぁ」
ここに来る度に溜息が漏れてしまう。
宮殿の屋根は全て黄金で出来ている。日の光を受けて眩き輝く姿がとても美しい。ちなみに中の柱も銀製だ。
私達のお気に入りの場所。蓮華とスグリも荘厳な光景に見蕩れている。
これを見る為と考えれば300ポイントの価値はあるな。
だけど待ち合わせにこの宮殿を指定したのは綺麗だからじゃない。ちゃんと理由がある。
——カァンッ!
「……ッ!」
突如として甲高い音が響き、スグリと蓮華がスマホを構える。
それを手で制すると、二人は不満そうな顔で警戒を解いた。
確かに私は今攻撃を受けたが問題はない。このネストではあらゆる攻撃が無効化されるのだ。
フォルセティの宮殿。またの名を——正義の宮殿"グリトニル”。
ここでは言葉以外の戦いは意味をなさない。
「ご挨拶だねー。ネズミちゃん」
「……私の名前はムシカだっつってんだろ。ネズミ呼ばわりするんじゃねぇ」
攻撃のきた方向に声を掛けると、庭の生垣から不機嫌そうな少女の姿が現れた。
長い黒髪に灰色のコート。手には拳銃が握られている。
「あらごめんねー。いっつも鼠色でお洒落キメてるから意識してるのかと思ってた。正直お似合いだよ、こそこそ噛み付いてくる所なんか特にさ」
「てめぇッ!」
ムシカが拳銃を突き付けてくる。本当にこの子は短気で扱いやすい。向こうのクランで浮いていそうで心配だ。
「————ムシカッ!」
「……ひっ!」
大声に身を縮ませるムシカ。ほらほら怒られちゃった。
声の方を向くと宮殿の入口から男が出てきた。
大学生くらいの優男。いつも薄笑いを浮かべていて気味が悪い。私的にはナシよりのナシナシ。
だが今はその端正な顔から一切の表情を消している。相当怒っているみたいだ。
「……そのっ、今のは冗談みたいなもので……そもそもここじゃダメージ与えられないから」
「そういう問題ではないね。彼女達は仲間になるんだ。その前に遺恨を残してどうする? それにさっき一発撃っただろ? 弾だって仕入れるのにはリスクがあるんだ。前から言っているが、君はその短絡的な所が欠点だよ。まず彼女に謝罪をしなさい」
「…………はい。すみません、スコルさん」
ムシカは拳を強く握りしめて俯いている。言葉と裏腹に一瞬チラリとこちらを睨んできた。おー怖。
「いいよー、見ての通り無傷だし。……こんにちは、朱雀さん。お元気そうでなによりだね」
「ああ、こんにちは。スコルさんも健勝そうで。……後ろの二人は今日も言葉を交わしてくれないのかな?」
「二人ともシャイなんだ。ごめんねー」
いつも話すのは私だけ。指示がない限り敵とはお喋りしないのが私達のルール。交渉や挑発は私の役目だ。
私はスマホを取り出してつまらなそうに表情を作る。
「……ところで呼び出した理由は何かな? 拳銃で怖がらせるのが目的だったなら帰るけど。これでも忙しいんだよね」
「それは本当にすまない。立ち話もなんだから……いやこの場で話そうか。それで良いかな?」
朱雀の言葉に首肯して応じる。私の嫌そうな顔から察してくれた様で何よりだ。
面倒事はさっさと済ませて、早く帰ってスグリ飯を食べないとならない。土日の配信の計画もたてなきゃだし忙しいんだよこっちは。
「よし。だけどその前に————朱雀からスコルへ1000ポイントを譲渡する」
————朱雀から1000ポイントが譲渡されました。
「呼びつけたのは僕だ。タクシー代くらいは出そう。少し多いのはさっきのお詫びだ。改めてすまなかったね」
「……ありがとねー」
これでチャラにしろってか。折角ネズミちゃんが突ついてくれたのになー。まあポイントは貰いますけども。
「では本題だ。……バーバ・ヤーガが死んだ様だけど来週の決闘はどうする?」
「もちろん続行するよ。元々バーバ・ヤーガの参戦は難しいって話してたよね。……だから新メンバーを探してたんだよ。そして見つかった。問題なくクランバトルは開催出来るね」
茉莉花は正体不明のプレイヤーに襲われていて決闘どころではなかった。拳銃で撃たれたという話だったけど……まあ珍しい武器ではない。
「……そうか、なら安心したよ。ではステュクスでの取り決め通りに行こうか。——来週末のこの時間、場所はウルの小島。我々と君達で4体4の決闘を行なう。僕らが勝ったら君達はこちらのクランに所属してもらう」
「そして私達が勝ったら純金製のアクセサリーを500g分貰うよ。最大重量で50g、捌きやすい物にしてね」
朱雀には色々と伝があるそうで、ポイントの現金化も難なく行なう。
だがその現金も綺麗な物か分からないし、大きな貴金属は売るのも大変だし目立つ。このやり方で長期的に捌くのが安定なんだよね。
「……君達は能力の割に俗物的だよな」
「お金大好きだもーん。私達の欲望は世界一のお金持ちになる事だし?」
その上でこのゲームは最高だ! 貴金属に鉱石に取り放題。アイテムの価値だって果てしない。
今みたいにプレイヤーとだって交渉出来るし、お金稼ぎには最高のアプリだね。
「……あまり囚われ過ぎない方がいい。月並みだがお金では買えないものもあるよ」
「はあああ!? そのお金で買えない物だって維持するのにお金がかかるんだけどおお!?」
「……お金舐め過ぎ。自分がどうやってそう無駄にデカく育ったのか全然分かってない」
「えっ、いや……すまない」
スグリと蓮華が半ギレながら朱雀に詰め寄る。
だから喋んなって言ってるのにもー。
「はい、どーどー。話し合いの邪魔だよん。そこのトリガーハッピーを見習って静かにしなさい。……でも他人にあーだこーだ言われる事でもないね」
「それもそうだ。……だが他人でなければいいんだろ? これ以上の話は決闘の後にしよう」
本当舐めてるなー。確かに私達だけでは分が悪い。朱雀の余裕にも頷ける。
だが先日ジョーカーを引いたばかりだ。
クラックさせてやるから覚悟しておいてよね。
「……勝つのは私達だよ」
「そうこなくてはね。では————†黎明に蘇る漆黒の騎士団† vs 森の動物さん達。どちらに女神が微笑むのか? 決闘の日を楽しみにしておこう!」
私だってその薄ら笑いをボコボコに歪めてやるのが楽しみだよ。というかそもそもさー、
そんなクソダサな名前のクランになんか入ってたまるか!




