九十九からの贈り物
「アイテムセーブ、グレイプニル。んでーアイテムロード、グレイプニル。これでよーし」
九十九の気絶により拘束は解かれ、所有者の変わった紐が今度は奴自身を縛り上げる。
皮肉な物だな。自分の切り札に封じられるとは。
「はー。……あっぶねえええ! 何なのさこのおじさん!? アタオカ過ぎるでしょ! これだから野良ネストはさあああああ!」
「かなりの熟練者だったな。アタオカなのは否定出来ないが……。しかし一人だったら危なかった。スグリのおかげだな」
「……そんな事言って一人なら作戦変えただけでしょ? よく即興であんなの思いつくよね」
ツンとした物言いだが、唐突に繰り出される太極拳は嘘をつかない。どうやら喜んでいるらしい。
だが今のは本音だよ。九十九はかなり場慣れしていた。
一瞬の混乱に付け入らなければ位置交換で避けられていただろう。作戦通りとはいえ紙一重の勝利だ。
何よりもグレイプニルは強力だった。アイテムの存在はこのゲームと切って離せない。もっと考えていく必要があるな。
————ガタッ。
「……見てくる」
瓦礫の方から音が聞こえ、即座にスグリが様子確認に向かう。
……マジかよ。まさか新手のプレイヤーか?
参ったなぁ、連戦の後でちょっと疲れてるんだよなぁ。ポイントも心許ないしなぁ。
でもま、仕方ないか。そういうゲームだしね。
「ゴブリンだった」
……なんだゴブリンか。ズルズル引き摺る音と共にスグリが戻ってきた。手にはゴブリンの足が握られている。
さっきまでの奴等と違う。寒そうな腰蓑姿ではない。
派手な服で着飾っていて、胸には骨で出来た様なネックレス。なんだか偉そうだな。
「逃げる時足を挫いたみたいでね、瓦礫の中に隠れてた。見つけた時アナウンスが聞こえたから、これがネストオーナーみたい。取り敢えず気絶させといたけどどうする?」
奇襲時に号令を掛けていた奴か。方角的に弓兵と一緒にいたのかな? ……うーん弱そうだ。スグリもそこまで警戒していない。
必ずしもネストオーナーが強い訳ではないのか? 元はオリジンだと言うが、個体差は大きいのかね。
「良い判断だ。ひとまず両脚折って転がせておこう。今ネストが消滅したら面倒だ」
今回のネストは歓楽街の路地裏だ。そんな所で縛られたおっさんと若い男女二人の状況とか犯罪臭しかしない。
そもそも外で九十九に顔を見られたら、いよいよ殺さなければいけなくなる。
「はいはい」
「————ンギャッ!」
スグリがゴブリンの脚を踏み砕き、その後雑に蹴り飛ばした。
苦痛の声が煩いが、距離が離れた為多少マシになった。
一応ネストオーナーだからな。機動力は落としたが用心しておこう。
「さて、ポイントも勿体無いしさっさと起こすか。————おい起きろ」
「————痛ぇ! ……ん? てめぇは………なっ!? …………ああ、負けたんだったな」
顔を引っ叩いたら、九十九はすぐに目を覚ました。
状況もすぐに理解したらしい。流石だな。
「そうだ。二人がかりで悪いが勝ちは勝ちだ」
「かーっ! あんなの読めるわけねぇだろ!? 本当初心者詐欺だよお前は!」
九十九はそう言いながらも、視線を不自然ではない程度に走らせていた。
コイツには位置交換がある。付喪神が九十九のモンスターならば、使用者が放棄した道具が起点になっている可能性がある。
一応周辺の道具は全て破壊し片付けておいたが油断は出来ない。
「……詰みか。本当に抜け目のない奴等め。そしてオジサンからポイントをガツガツ強請ろうって腹なわけだ。最近のガキは怖いねぇ」
「最近のおっさんも十分怖かったよ。まあ、そんな訳で1000ポイントだ。耳を揃えて払って貰おうか」
「……は? それだけ? ふざけてんのか?」
あり得ないといった表情で目を見開く九十九。隣のスグリもあり得ないと目を丸くしている。
欲張りは良くないだろ。ゴブリン分のポイントだって入るんだしさ。流石に使ったポイント+αくらいは請求するが。
「変にポイント奪ってお前に死なれたら困るからな。勝ち逃げされたら非常に悔しい」
「勝ち逃げ? 悔しいだと? ゲームみたいな事言いやがって……」
「これはゲームだろ? 俺にとっては楽しい遊びだ。……お前は違うのか?」
九十九は信じられない物を見たように固まった。
隣のスグリは肩を竦めて溜息をついている。
嘘をついてもしょうがないだろ? ゲーム元がいるなら楽しく遊ばせて貰っていますと手紙を贈りたい気分だ。
「……くはははっ! 確かにそうだ! まさか同類に会えるとは思いもしなかった! 気に入ったぜにいちゃん! スマホを出しな。小銭なんかじゃなく、もっと気の利いたプレゼントをやるよ!」
九十九は機嫌良く笑っている。ポイントだけでいいんだけどな。
まあスグリにあげれば良いか。貰える物は貰っておこう。
俺はスマホを出す。隣ではスグリが片腕を剣に変えて構えていた。何か動作があれば対処してくれるはずだ。
「よし! ————付喪神からケルベロスへ6480ポイントを譲渡する!」
————付喪神から6480ポイントが譲渡されました。
6480! 一気にお金持ちじゃないか! しかし何故こんな半端な数なんだ? ……まさかっ!?
「気付いたみたいだな? オジサンの全財産だよ。……負けたら死ぬもんさ。散々他人殺しといて手前だけ例外じゃ締まらねぇだろ? まぁ精々センパイからのプレゼントを楽しんでくれ……や……」
最期にそう言い残し、九十九の目から光が消えた。
——————ポイントの全消失を確認しました。Game Over!
「刃君離れてッ!」
スグリの声を受けて九十九から距離を取る。予想外の事に固まってしまった。
こんな手でくるとはな。本当にお前はアタオカプレイヤーの鑑だよ。
九十九の体からカタカタと音がする。見ると奴の体が錆色に変化し、その身を震わせていた。
————パキ。パキパキパキパキ。
鋼が砕け、剥がれていく。
剥がれ落ちた鋼が宙に浮かび上がり、何かを無数に形作る。
鋏。鉈。ナイフ。包丁。斧。ツルハシ。鍬。等々。
そして彼らは纏まり、人型となった。
刃物ばかりだ。随分物騒な付喪神だな。
「……ダンジョンではネストの上書きが出来ない。ある意味チャンスかもね」
スグリが笑い掛けてきた。お前は思ったより好戦的だよな。そういうとこ好きだぞ。
「チャンスって言葉は信用しない事にしているんだ。しかし本当に俺は運が良いな」
メインディッシュの次にメインディッシュが来るなんて。
奴を構成する錆色の切っ先が一斉にこちらを向く。
どこからかあの男の哄笑が聞こえた気がした。
“クハッ! まだ足りねぇだろ? もっと遊ぼうぜッ!”
————レイドバトル発生! プレイヤーの消滅によりオリジンモンスター、付喪神が出現しました。
望むところだよ御同輩。
勝ち逃げされたのは悔しいが、プレゼントに免じて許してやろう。
加えてポイントも潤沢だ。派手に遊べる。
「ケルベロス——三ツ首解放。PPブースト」
「アイテムロード、ダマスカスナックル」
その瞬間。俺たちの殺気に呼応する様に、飛来した大量の刃物が襲い掛かってきた。
さて、精々楽しませて貰うとするか。




