ゴブリン狩りデート
「……なんで私はダンジョンなんかにいるんだろう? 今日は二人でゲームして過ごす予定だったのにぃ」
「Monster/Battleは立派なゲームだ。嫌なら来なければ良かったのに」
ヒビ割れた街路。半壊した建物。瓦礫の山。
一言で言い表すならば“死んだ街”だろうか?
今俺たちはダンジョンの中にいる。
折角の自主休校だ。遊ばない手はないと野良ネストに向かおうとしたらスグリに止められた。危ないからなんとか。
当然聞く耳は持たない。だがスグリは根負けした様子で、今度は同伴を提案してきた。いずれ共に戦うなら丁度良い機会だと。
スグリには二食一晩の礼がある。僕はそれを断り切れず、ペア狩りを了承してしまった。
「だってさああ! しかもなんで野良なの? 管理ネストで良かったじゃん! ここはアタオカプレイヤーの巣窟だよ? 危ないよ?」
だから良いんじゃないか。俺はその危ないプレイヤーさんとお知り合いになりたいんだ。
「野良の方がポイント効率が良いんだろう? このままじゃ死んだ時、本当にケルベロスになってしまう」
「縁起悪い事いわないでよおお。あれ本当に焦ったんだからああ! ダンジョンクリアした翌日に死亡分のポイントがないとか思わないし!」
死亡分のポイントか……。そもそも死んだ後にポイントが必要というのも分からないな。
死ぬ事へのペナルティポイントが払えないとオリジンになる。だがどちらにしろ死ぬなら、なんの罰則にもならない。
————殺されてからずっとあの森で過ごしていたんだ。
……昨夜の夢が俺の頭をよぎった。もしかして死んだ先があるのか? オリジン化だけでは無く、払わない事に別の代償がある?
「どしたの? ぼーっとして? 刃君もプロトコルしないと危ないよ。ここはもうゴブリンの巣なんだから」
その通りだ。意識を切り替えてプロトコルを起動する。
ゴブリン。ファンタジー映画やRPGゲームでお馴染みの存在。
所謂雑魚キャラだが、このゲームでは分からない。
原典たるものが複数あり、伝承自体もあやふや。
どういう奴等かは来てみてからのお楽しみだ。
「すまない。ちょっと気が張っていたのかな。こんなに大人数から歓迎を受けるとは思っていなかったから」
「その顔でよく言うよ。……20匹はいるかな? 早い者勝ちでいいんだよね?」
呆れ声のスグリだが、その表情は楽しそうだ。
握った拳を右手で包み、嘲る様に顎を上げている。
「ああ。仲良く分け合うつもりはない」
俺はそう言って背を向けて歩き出す。スグリも同じ様に歩き距離を離した。
これは配慮だ。彼等が奇襲しやすい様にと気を利かせたのだ。
建物の中。瓦礫の影。知らない言語で書かれた看板の裏。などなど。
上手に隠れている様だが、俺たちは嗅覚動物なもんでね。
「————ギャ!」
大きな鳴き声がした。その声と同時に四方から飛び込んでくる緑色の怪物。それら全てが刃物を持ち、俺を殺しに来ている。その数は五つ。
残念。ただの刃物か。文化圏が違う様だからもっと特殊な獲物を期待したのにな。
「襲う前に叫んだら意味ないだろ」
一番近くにいたゴブリンの手背を蹴り砕き、ナイフを落とさせる。そのまま頭を掴んで小柄な体を振り回し、他のゴブリン達を薙ぎ払った。
————ゴブリンを撃破。40ポイントを取得しました。
どうやら首の骨を折ってしまった様だ。すまないね。
仲間の死体を見て、他の四つが崩れた体勢のまま後退りした。
「ん? ……おっと」
魔犬の聴力が風切り音を拾い、咄嗟に飛び退く。
俺のいた地面には多数の矢が突き立っていた。
それで後退りしたのか。案外知性的だね。
だが遠距離攻撃に好き勝手される訳にはいかないな。
もし流れ矢が当たったら彼等が可哀想だ。
「はっ!」
掛け声と共に瓦礫を投げてやる。それは放物線を描き、何かの潰れる音を辺りに響かせた。
————ゴブリンを撃破。40ポイントを取得しました。
ナイスボール。
「ギャアアアアアアア!!」
急な悲鳴のコーラスに耳が痛くなる。見るとゴブリン達が背を向けて駆け出していた。
……またこの展開か。掃討戦も二回目となるとわくわくしない。
結局他のゲームと同じで雑魚キャラだな。面白みはないね。
「シャアアアアアアアアア!!」
異質な声が聞こえ、視線を向けると大蛇が三匹のゴブリンを纏めて締め上げていた。
これは……スグリの変化か!
「ギギギギ……」
「シャアアアア…………締めるだけじゃ中々死なないね。なら手っ取り早く行こう」
————ブツッ!
威嚇音がスグリの声に変わったその瞬間。蛇の腹が刃物に変化し、ゴブリン達の胴体は真っ二つになった。
変化の応用か。面白い使い方をするな。
感心していると蛇の姿がぼやけ、スグリの姿に戻った。
右肩から先までゴブリンの血で真っ赤だが、気にした様子はない。
「便利な力だな。姿形は自由自在か」
「そうでもないよ。大きさや硬さには限界があるし、攻撃力も低い。刃君のケルベロスが羨ましいよ」
そうは言いつつも卑屈な感じはしない。
挑戦的な眼光。やり様はいくらでもあると言いたげだな。
まったく面白い。一緒に戦うならそんな奴じゃないと退屈だからな。
「……あらら、こっちも逃げ始めちゃったね」
輪切りにされた仲間を見てゴブリン達が逃げ出した。
誰だって死にたくはないという事だな。だが俺達を殺そうとした責任は取って貰おう。
「はぁ。追いかけ————スグリ」
「……うん。聞こえた」
遠くで声が聞こえた。俺を襲ったゴブリン達が逃げた方向だ。ギャアギャア煩い。コンスタントに処理されている様だな。
「ネストダンジョンではプロトコルのアナウンスはないのか」
「そうだよ。だから細心の警戒が必要なんだ。……私達は派手にやったからね。恐らくバレてるよ」
いいね。盛り上がってきた。
野良ネストはアタオカプレイヤーの巣窟らしいからな。
山道ですれ違う登山者の様には行かないだろう。
駄目だ。楽しみ過ぎて口角が戻らない。口の端から涎が……。
「…………やっぱり野良ネストにはアタオカプレイヤーが集まるんだね」




