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先輩からのレクチャー


「いや先輩が頷いてくれて助かったよ。クランバトルまで日がなくて焦ってたんだ」


「面白そうな事にはとりあえず参加するタイプだ。ところでクランバトルってのは何なんだ? それもゲーム外システムだよな?」


「クランバトルは蘭華が適当に言っただけ。単にクラン同士の決闘だよ。場所はダンジョンの中」


「分かりやすいじゃん? クランバトル。まあ厄介な奴等に目をつけられててさー。単純な抗争とかなら良いんだけど……ほんと面倒。殺しは厳禁正々堂々! 勝負が終わった後は礼をして握手! みたいなノリの相手なんだよ。影響力もあるから闇討ちも出来ないし本当困ったよー」


 僕とは合いそうもない奴等だな。そういう考え方も理解は出来るが。

 真っ当な社会で育った人間が、嬉々として殺人を犯せる筈もない。モンスター討伐という逃げ道もある。

 力を持った集団が秩序を作ろうとするのは、ある種必然だろう。迷惑な話だが。

 しかし何でそんな連中に目を付けられたんだ? これから戦う相手でもある。一応聞いておこう。


「どうして戦う事になったんだ? 蘭華ならその辺上手くやりそうだけどな」


「あー……うちらは同時にアプリに目覚めたんだけどさ、その時面倒みてくれたのが茉莉花なんだよね。んで茉莉花は頭がヤバいプレイヤーとしてちょっとした有名人なわけ」


「私達は不本意ながらヤバ魔女のヤバ弟子扱い。だから向こうのクランの下で更生させたいんだって。勘違いも甚だしい」


 それは勘違いなのだろうか? 初心者を騙し討ちにした挙句、奴隷契約を強要してきたのがお前等だけど。

 クランの下というと、決闘で負けたらそいつらの傘下に入るという話か。

 だがそれでは僕自身も目を付けられるのではないか? 嫌だぞそれは。


「身バレとか大丈夫なのか? 戦うのは歓迎だがそんなのと関わりたくはないぞ」


「先輩って本当に初心者なんだねー。ダンジョンでは認識阻害が働くから大丈夫だよ。元々の知り合いでもない限り身元の情報は持ち帰れないから。忘れちゃうんだよね、顔とか背丈とか。覚えているのは名前だけ」


 それは及川にも聞いた。故にダンジョンではモンスター名を名乗るのだと。

 だが入り口の前で待ち伏せされたら終わりだ。現にトロールダンジョンの入退室を他の奴に見られている。


「……待ち伏せとか心配してる感じ? まあ先輩がクリアした様な野良ネストならそれもあるけどね」


「ポイントを使って専用ダンジョンに行けるんだよ。それを管理ネスト、先輩がクリアした様なのは野良ネストって呼ばれている。野良ネストは高難易度ばかり。行くのは初心者と物好きくらい。あと殺人鬼」


「ジャンプって言うんだけどさ、力が馴染まないと使えないんだ。本当に初心者殺しのゲームだよねー」


 野良? 管理? ジャンプ? 聞いていない。聞いていないぞ及川。

 野良ネストとは街に点在している奴か。 コイツらと話していると知らないワードばかり出てくるな。

 及川依存のアプリ知識がどれだけ危険かが分かる。

 アイツは始めて二日目の俺を高難易度ダンジョンに放り込んだわけだからな。楽しかったし許すけど。


「管理ネストとはどんな所なんだ?」


「ふっふー、先輩の私がしっかり教えてあげましょー。まず野良ネストとの違いを説明すると……」


「ポイント使用————ジャンプゲート。対象四名。行き先。ノーム鉱山」


「は?」


「ちょっ」


「……むにゃ?」


 突然テーブルの上に謎の物質が現れた。

 真っ黒い球体。周囲の空間がまるで蜃気楼の様にぶれている。例えるなら……ブラックホール?

 体が引かれる感覚がある。これマジでブラックホールなのか!?


「行った方が理解が早い。レッツゴー」


「え? ……ゲート? 待っぎゃああああああああああ!」


 蓮がスグリの腕を掴んでブラックホールに飛び込んだ。

 安全なのかあれ……。


「はぁ……短絡的な妹で困るなー。仕方ない、先輩も行こう。向こうで色々と教えてあげる」


 蘭華が手を伸ばしてきたので掴む。毒を食らわば皿までだ。出された料理は美味しい上に栄養満点だったがね。


「ああ、頼むよ先輩」


 蘭華が楽しそうに微笑み、——俺をゲートの中へ投げ飛ばした。


「なっ!」


「流石に裸足じゃマズいっしょー? みんなの靴持ってくるから先行っててねー」


 華麗に柔術決めやがって。近接もばっちりいけそうじゃないか。石礫避けた時の挙動は芝居かよ。

 そんな事を考えながら、俺の体は謎の球体に吸い込まれていった。







「ぐえっ!」


 空中に投げ出されたと思ったら、何か柔らかい物の上に落ちた。これはスグリか。


「すまない。不可抗力だ」


「いいよお……どうせ私ってこんなんばっかりだし……」


 なんか不憫な奴だな……。スグリに体重が掛からない様にゆっくりと体を浮かせ、立ち上がる。

 前方には狭く長い通路が続いていて、どこを切り取っても岩肌が見える。

 所々に光を発する石が配置されており、周囲の色や形もはっきりと分かった。洞窟……いや鉱山か。


「大丈夫。イケメンにのし掛かられてスグリはちょっと喜んでる。ムッツリだから。すぅ…………ぷはー」


「だから私はムッツリじゃねって言ってんだろおおお!」


 声に振り返ると、蓮が壁に背を預けて煙草を吸っていた。いや何かパリポリ食ってる。あれココアシガレットだ!


「はいはい、お待たせー。蓮華ったら考えなしなんだからさ。裸足で鉱山歩いたら血塗れになっちゃうよ」


「管理ネストについて教えるならここが一番いい。金になるし」

 

 蘭華が靴の入った袋を持ってやってきた。そのまま靴を各々に渡していく。

 靴が行き渡ると三人は柔軟を始めた。

 なんだ? 金になる? というかネストに入ったのに何故プロトコルを起動しない? そして金になるとは一体……?


「アイテムロード、ハイカーボンピッケル×4」


 蓮がアプリからピッケルをロードする。そして三人は一本ずつピッケルを手に取っていく。

 まさか……掘るのか?


「ふふっ、腕がなるねー!」


「今日は雌猫より稼ぐ」


「蓮華いつもビリケツじゃん。ていうか雌猫言うな!」


 ……なるほど。モンスターを倒すだけがアイテムを入手する手段ではないと言う事か。


 

「ほら、先輩もツルハシ持って。ケルベロスのパワーならめっちゃ掘れる。一山当てて億万長者も夢ではない」


「出たアイテムはオークションでポイントに出来るよ。物によってはお店で売ってお金にしてもいいけど」


「あ、途中でモンスターがいても攻撃は御法度だよー。このダンジョンには敵性モンスターがいないから。こちらから殴らない限りは安全なんだ。なんかプレイヤーに攻撃しない様に決まっていると言うか管(・)理(・)されてるみたいなんだよね。まあ例外はあるけど」


 三者三様に説明をしてくれる。

 それで管理ネストか。要するにゲームでいうノンアクティブモンスターというわけだ。


「それなら倒し易いと思うが、攻撃が御法度なのは何故だ?」


「私等に絡んできた奴らみたいな自治クランってのは沢山あるの。そいつ等が敵意のないモンスターへの攻撃を禁止しちゃったわけ。倫理観が歪むからって。バレなきゃ良いけどバレたら面倒な奴らに詰め寄られる。そして大層面倒な事に、それがプレイヤー全体のルールとして認知されちゃっているんだよね」


「破ったら襲われる口実になる。正義や平和を謳いつつ、他のプレイヤーへの攻撃機会を窺っているんだ。大体のプレイヤーがそう。本当に最高のゲーム」


 そこは現代社会と変わらないな。むしろ命懸けな分、より顕著だろう。

 なんかしょんぼりするな……。こんなデスゲームにまでついて回るのか、倫理。

 まあ破ったら団体客が遊んでくれそうだし、それはそれでいいか。


「管理ネストが全部非戦モンスターの集まりではないけどねー。むしろ分布で言えば半分くらいだよ。まあ野良と区別つけるために総称として管理ネストって言ってるけど」 


 そしてこのダンジョンにいるモンスターは非戦というわけだ。

 裸足で入場するくらい安全なのだと。いやプロトコルすれば靴はなくても大丈夫だが。

 しかし慣れているな。説明も澱みないしベテランって感じだ。


「同時期に目覚めたって言ってたけど、三人はいつからこのアプリをやっているんだ?」


「んー中1の時からだから……三年前くらい?」


「……三年前?」


 今年からではない? 行方不明者が増えたのは七月からだ。

 プレイヤーやダンジョンがその理由なら、何故今になって急増したんだ?


「……今年の夏から始まった物だと思っていたよ」


「んなわけー……ああ、行方不明者と紐付けたの。それは夏からプレイヤーが増え出したからだね」


「プレイヤーが増えるとオリジンも増える。討伐されなかったオリジンは産まれた場所にネストを張るんだ。それがダンジョンになる。失踪の連鎖だね」


 マンドラゴラもトロールも元はプレイヤーだったと言う事か。それならトレント等の雑魚どもの由来も気になるが……。

 まあ今はいいか。スグリが待ち切れなくてピッケルの素振りを始め出したし。


「ありがとう。話の腰を折ってすまないな」


「いいよー。色々教えてあげるって言ったしね。……んじゃ採掘の説明するよー。プロトコルしてピッケル振って進むだけ。途中でアイテムに当たっても自動でスマホに入っていくから問題なし。出てきたモンスターは殴らない。以上」


「即金いるなら私が出たアイテムを買い取ってあげる。先輩の力なら時給1000ポイントは堅いね」


「金とか宝石も出るよおお! 早く掘ろうよおおおお!」


 ……やっぱり戦いはないのか。おまけに1000ポイントじゃ赤字なんだけどな。まあ面白そうだし偶には良いか。


「よし、やるか。2000ポイントは稼いでやるよ」


「いいね! それじゃ————プロトコル起動。スコル」


「今日のトップは私————プロトコル起動。ハティ」


「稼ぐよおおおおお! ————プロトコル起動。猫又」


 三人の圧に潰されそうになりながら、僕もプロトコルを起動する。いきなり起動しやがって。せーのでやれせーので。

 しかし今度は採掘対決か。自慢じゃないが運には自信がある。パチンコと幸運は切って離せないからな。

 採掘が終わってからお前等の顔を見るのが楽しみだよ。




 

 ビリケツだった。

 

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