第五十四話:古代魔法兵器
ガーディアンの残骸に夢中になっている担任を置き去りにして、第九階層へと続く階段へ向かって歩き出した。
「こら待てルーク! 置いていくな!」
僕の後ろから、背嚢をガシャガシャと鳴らしながらレイモンド先生が慌てて追いかけてくる。振り返ると、先生の背中の荷物は来る時よりも明らかに膨れ上がっていた。
「……先生、その荷物なんですか?」
「決まっているだろう! 私の長年の研究対象だぞ?! これだけ綺麗に第八階層の装甲の破片が残っているんだ、持ち帰らない手はない!」
完全に趣味の世界に入り、遺跡探索を満喫している担任に呆れつつ、僕はいよいよ第九階層のフロアへと足を踏み入れた。
――ビーーッ! ビーーッ!
けたたましいアラーム音と共に、第九階層のだだっ広い空間の中央に、新たなガーディアンが立ち塞がった。
「あれは……」
「ほう、今度の奴は随分と物騒な見た目をしているな」
現れた第九階層のガーディアンは、四本足の獣のようなスマートな金属の下半身に、まるで古代の魔法兵器そのものといった無骨で巨大な『砲座』のような上半身を備えていた。
砲身や装甲の表面には幾重にも複雑な魔法陣が刻み込まれ、さらにその幾何学的な紋様をなぞるように、色とりどりの巨大な魔石が神々しいほどに飾り付けられている。
「見ろ、あの装甲に刻み込まれた魔法陣と、異常な数の魔石! 間違いなく、広範囲に極大の魔法を放ってくる『魔法特化型』の古代兵器だ。ルーク、警戒しろ!」
先生の言葉に、僕は大剣を強く握り直した。
魔法特化型。遠距離から厄介な攻撃を仕掛けてくるタイプだろう。
次の瞬間、ガーディアンの足元からシュゥゥゥンッ! という駆動音が鳴り響いたかと思うと、その姿がフッと掻き消えた。
「なっ……速い!?」
残像が残るほどの凄まじい高速移動。ガーディアンは僕の周囲を竜巻のように旋回し、四方八方から魔法陣が刻まれた砲門を一斉に僕へと向けた。
「来るっ!」
ま
全方位からの魔法の一斉射撃。僕は咄嗟に大剣を盾のように構え、全身の筋肉を硬直させて衝撃に備えた。
ガーディアンの全身に飾り付けられた魔石と魔法陣が一瞬だけ赤く明滅し、一斉に魔法が放たれ――
――プスッ。
「……えっ?」
砲門の先から、小さな線香花火のような火花がチロッと漏れただけで、魔法は発動しなかった。
ガーディアンはピタッと動きを止めると、まるで「あれ?」と言わんばかりに自分の砲身を見下ろしている。
そして再びシュバババッ! と高速移動をして僕の背後に回り込み、違う魔法の構えをとった。
――プスゥゥゥ……。
ほんのり冷たい風がそよぐだけ。
シュバッ! 上空から?!
――パスッ。
シュバババッ! 死角を取られた?!
――ポスッ。
「…………」
「…………」
僕とレイモンド先生は、虚無の空間で高速で反復横跳びを繰り返しながら、必死に不発の火花を散らしている魔法兵器を、ただ黙って見つめていた。
「……先生。あいつ、何してるんですか?」
「は、ははぁんっ、なるほど! そういうことか!!」
レイモンド先生がポンッと手を打って、呆れたように笑い出した。
「本来なら、あいつはあの圧倒的な機動力で敵を撹乱し、四方八方から魔法陣を展開して弾幕を浴びせる『超高速・全方位魔法爆撃機』なんだろう! だが……ガーディアンといえど、この『魔法が使えない結界内』では魔法は発動しない! つまり、いくら魔法特化の強力な兵器だろうと、今の状況では……っ」
「ただ速く動くだけの、的ってことですね」
僕は息を一つ吐くと、野球のバットのように大剣を構えた。
そして、律儀に僕の目の前へ高速移動してきて「プスッ」と火花を散らしたガーディアンの胴体へ向けて、フルスイングで大剣を振り抜いた。
ガガァァァァァァンッッ!!!
「――――ッ!?」
重厚な金属音が響き渡り、古代の魔法兵器は壁まで一直線に吹っ飛んでいくと、あっけなくバラバラに大破して沈黙した。
「……なんか、今回も拍子抜けでしたね。ちなみに先生、こいつの『攻略の弱点』って本来は何だったんですかね?」
「ん? ああ……機動力は高いが、砲身に展開される魔法陣の起爆点――むき出しの魔石を正確に狙い撃てば、魔力暴走を起こして自滅する仕組みとかじゃないかな? ……おおっ、素晴らしい! 見ろルーク、この装甲の裏側! 魔石から魔法陣へ魔力を流す古代の伝導回路がこんなに綺麗な状態で残っているぞ!」
「…………」
僕の質問には適当な相槌を打ち、すっかり倒されたガーディアンの残骸に夢中になって撫で回している担任を見て、僕は再び深いため息をついた。
「つまり、敵がが持ち込んだ『魔法を消し去る結界』のせいで、厄介だったはずの強敵が、勝手に役立たずのポンコツに成り下がっていたってわけですね……」
「先生、次がいよいよ最下層です」
「む? ああ、そうだな」
「今回の元凶である『楔』があるはずです。気を引き締めていきましょう」
「わかっているとも! さあ、第十階層にはどんな古代のロマンが眠っているのか……!」
絶対分かっていない気がするけど、これ以上相手をするのは諦めて、僕たちはすべての元凶が待ち受ける最後の階段へと足を踏み出したのだった。




