第五十三話:試練の塔
レイモンド先生が過去に調査したという第七階層までは、何事もなくあっさりと到達した。
道中には、かつての調査隊が倒したとされるガーディアンの残骸が転がっているだけで、動く敵は一切現れなかった。
そこで、ふと疑問が浮かんだ。
「先生。そもそもガーディアンが魔力で動いているんだとしたら、結界で魔法が使えない今の状況なら、敵も動けないんじゃないですか?」
僕の問いに対し、レイモンド先生は早口で答え始めた。
「ガーディアンの動力は古代文明で作られた未知の機関らしくてな。動力に魔力は使われていないらしいんだ」
(魔力じゃない……前世の僕の世界にあった、エンジンみたいなものなのかな?)
そう考えている間にも、先生は一人で動力に関する蘊蓄をブツブツと唱え始め、いっさい会話が成立しなくなってしまった。
断片的に理解できた話を要約するとこうだ。
昔、倒したガーディアンの瓦礫を回収して調査したものの、再起動はできなかった。さらに、研究に携わった学者たちが相次いで謎の体調不良に陥ったため、「これは呪いの魔導具だ」と結論づけられ、研究ごと封印されてしまったらしい。
ずいぶんフワッとした話だな……と思いつつも、僕たちは第八階層へと続く階段に到着した。
「先生、第八階層のガーディアンはどんな攻撃をしてくるんですか?」
「それが……第八階層の奴には魔法が一切効かなくてな。まともな戦いにすらならず、調査隊は撤退を余儀なくされたんだ」
物理攻撃も効かなかったらどうしよう…‥
「だが案ずるな。階層を移れば奴らは追ってこない。最悪の場合は逃げればいい。それに、この階段部分の安全地帯には近寄ってくることも、攻撃してくることもないんだ。……つまり、この階段にはガーディアンの行動を抑制する何らかの仕掛けがあると思うんだよな……ブツブツ……」
階段の壁や床を這いつくばるように調べ始め、完全に自分の世界に入ってしまった担任を置いて、僕は一人、大剣を構えて第八階層へと足を踏み入れた。
――ビーーッ! ビーーッ!
階段から一歩踏み出した瞬間、鼓膜を劈くようなやかましいアラームが鳴り響いた。
侵入者を警告するアラームなのか?
警戒しながら歩みを進める。
そもそもこの地下空洞、てっきり迷宮か何かを想像していた僕だったが、目の前に広がるのは、対角線上に次の階層への階段が設置されているだけの、だだっ広いフロアの連続だった。僕が想像していた迷宮探索とは違い、少し拍子抜けした。
天井と地面は上の階層と同じようにぼんやりと発光しており、行動に支障はない。
「まあ、読書には適さない明るさだな」
独り言をこぼしながら周囲を見渡す。どうやら、このだだっ広い空間にいる『階層ボス』を倒して先に進むのが正規ルートだよな。
というか、元々ここは塔だったんだよね? ゲームとかだと、塔って上に登るほど敵が強くなるよな? それが逆さまに埋まってるってことは、下に行けば行くほど敵は弱くなるのかな?
そんな都合のいいことを考えていると、だだっ広い空間の中央、仄かに光る光が備わった柱のように立っていたそれが、第八階層のガーディアンだった。
「……なんか、強そうには見えないな」
その姿は、僕の予想に反して華奢で細身だった。魔法を反射・無効化するためなのか、全身が鏡面加工されたようにテッカテカに光り輝いている。
大剣を肩に担ぎ、警戒しつつ少しずつ間合いを詰めていく。僕が近づくごとに、ガーディアンの無機質な光がじわじわと強くなっている気がした。眼的なものかな?
けれど敵は一向に動こうとしない。
壊れてるのかな?そう思った瞬間。
ピキィィィンッ! と、ガーディアンの瞳から一筋の極太の光線が放たれた。
「おっと!」
咄嗟に身を捻ってかわす。しかし光線は途切れることなく、僕の動きに合わせて首?を振り、正確に追尾してくる。
速いけど……母さんの『雷魔法』の方が、よっぽど速かったな!
幼い頃から母さんの容赦ない魔法を避け続けてきた僕にとって、この程度の追尾速度なら余裕で対応できる。
僕は光線を掻いくぐりながら一気に懐へと潜り込むと、テカテカの胴体に向けて大剣を全力で振り抜いた。
ガシャァァァァァンッ!!
「えっ」
大剣が直撃した瞬間、ガーディアンの体はまるで薄いガラスのようにあっけなく砕け散り、活動を停止してしまった。
あまりの脆さに肩透かしを食らいつつ、僕は階段でブツブツ言っていた担任を呼びに戻った。
大きな破片の塊となったガーディアンの残骸を見たレイモンド先生は、「おお……!」と歓声を上げ、またもや自分の世界に入り込む。
「なるほど、あの装甲は魔法無効化に極振りした結果、物理的な衝撃に対する耐性が極端に低かったのか……! ブツブツ……」
「先生。さっき思ったんですけど、もしかして下に行けば行くほどガーディアンって弱くなるんですか?」
僕の疑問に、先生は残骸をあさりながら首を振った。
「いや、塔の最上階だった現在の第一階層と、第二階層のガーディアンで、強さの明確な違いはなかった。強いて言うなら、ここは昔話に出てくる『試練の塔』に近いのかもしれん。一つずつ問題を出してくるような感じだ」
「問題……ですか?」
「ああ。それぞれのガーディアンには明確な弱点があり、それを見つけ出せるかどうかが、この塔を攻略する肝だったというわけだ」
レイモンド先生は、砕けた鏡面の破片を悔しそうに握りしめた。
「ああ……! 当時、第八階層のガーディアンに、誰か一人でも『その辺の石を投げつける』という発想があれば! 私の調査結果は全く違ったものになっていたかもしれないのに……っ!」
頭を抱えて身悶えする担任を見て、僕はより一層、この地下空洞の存在理由が分からなくなった。
こんな物理に極端に弱い兵器を配置して、昔の人は一体何をしたかったのだろうか。
「……まぁ、難しいことは大人が考えればいいか」
僕は一つため息をつくと、大剣を肩に担ぎ直し、第九階層へと続く階段へ向かって歩き出した。




