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第五十二話:地下空洞2

 僕が大剣で闘技場の床をぶち抜いてできた巨大な大穴。そこから続く暗闇の底へ降り立つと、ひんやりとした空気が肌を撫でた。


 隣でカチャリとランタンに火を灯したのは、僕たちFクラスの担任であるレイモンド先生だ。ボサボサの髪に無精髭、授業中も常に窓の外を眺めて欠伸を噛み殺している、お世辞にもやる気があるとは言えない先生。しかし、その瞳は今、普段の怠惰な姿からは想像もつかないほど爛々と輝いていた。


 ランタンの灯りが照らし出したのは、精巧な石組みで作られた、巨大な建造物の内部だった。


「先生、ここは……?」

「驚いたか? 実はな、遙か昔、今の闘技場があるこの場所には、天を衝くほどの巨大な『塔』が建っていたんだという」


「なぜ塔が、地下に……?」


「伝承によると、何か恐ろしいものを封印するために、強力な封印魔法で塔ごと地下深くに沈めたらしい。その塔の頭に被い被せるようにして建設されたのが、今の闘技場だ。

 つまり、闘技場そのものが巨大な封印装置の一部ってわけさ」

 レイモンド先生の言葉に、僕はごくりと息を呑んだ。


「さっき、以前ここを探索していたと言っていましたが、その時にすべて探索済みなんですか?」


「まさか。ここのガーディアンがデタラメに強すぎてな。これ以上の探索は危険だと上の連中に判断されて、七階層までしか行けなかった。古い文献には、全部で十階層あると記されているんだがな」


「……ちなみに、アイリス様が地図に記した目的地は、何階層にあるんですか?」


「十階層だ」 


「ええーっ!?」

 未踏破の最下層。思わず大声を上げた僕だったが、すぐに一つの疑問に行き当たった。


「でも、それなら敵はどうやって十階層まで行ったんですか? 先生たちでも七階層までしか行けなかったのに」

 僕がそう尋ねた瞬間。レイモンド先生はランタンを持ったまま、食い気味に僕の顔へ距離を詰めてきた。


「き、気になるよねぇーーっ!!!」


「うわっ、近っ!?」


「私が調べたところによるとだな! ガーディアンを無効化する裏の装置があるだとか、制御端末が割と浅い階層に隠されているだとか、古文書には様々な記録が残されているんだ! だがしかし、その半分以上の記録が後世の者が面白半分に書き足したガセネタの可能性が高くてだな、情報の精査には困難を極めるわけで――」

 早口で途切れることなくまくし立てるレイモンド先生。完全に自分の世界に入ってしまった……。


「せ、先生……結局のところ、この場所は元々何のために使われていたんですか?」

 僕が話を逸らそうと問いかけると、先生はさらに目を輝かせた。質問を間違えたか?


「いい質問だ! 魔導兵器の実験場説、古代の魔王の牢獄説、はたまた異界への門説など、学者の間でも意見が分かれているんだが……結論から言うとだな!

 本当のところは誰も知らないんだよ! 誰が作ったのか、何のために、どうやって塔を沈めたのか、すべてが謎に包まれている!」

 誰も知らないのかよ、とツッコミそうになった時、レイモンド先生はガシッと僕の両手を握りしめた。


「実は私、どうしてももう一度この地下空洞に入りたくて仕方なかったんだ! 闘技場の床をぶち抜いてくれて、本当にありがとうな、ルーク!」


「せ、先生! 僕たちは地下のロマンを探求しに来たんじゃなくて、世界を救うために結界を解除しに来たんですよ!?」

 謎の感謝を述べて満面の笑みを浮かべる担任に、僕はプンプンと怒ったふりをしながらも、少しだけ肩の力が抜けるのを感じていた。

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