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第五話:露わになり始めるルークの秘密

 数年の月日が流れ、ルークは辺境の町や近くの草原を縦横無尽に駆け回る、元気な男の子に成長していた。


「ルーク! こっちこっち、早く!」


「あはは、待ってよみんな!」

 町には同年代の友達もたくさんできた。


 ルークは、大人に対して礼儀正しく、誰にでも愛想良く振る舞うことができたため、町の人々からは「なんて素直で良い子なんだ」と可愛がられていた。

 ルークがここまで町の人たちから大切にされているのには、両親の存在も大きかった。


 深刻な医師不足に悩まされていたこの辺境の町で、セオドアとソフィアが開いた小さな診療所は、まさに救いの手だったのだ。二人は質の良いポーションを貧困家庭には安価で提供し、ちょっとした病気や怪我なら無償に近い形で治療していた。


 そんな命の恩人である「心優しい薬士の夫婦」は町民たちから絶大な敬意と信頼を集めており、その一人息子であるルークもまた、町中から愛と庇護を受けて育つことになったのだ。


 しかし、平和な日常の裏で、セオドアとソフィアの目には我が子の「異常な光景」がいくつも露わになり始めていた。


「……ねえ、あなた。あそこの広場を見て」


「ん? ルークが友達と鬼ごっこをしているようだが……なっ!?」

 診療所の窓から外を眺めていた二人は、揃って絶句した。


 同年代の子供たちより頭一つ以上大きく育っているルークは、鬼役の子供から逃げる際、高さ二メートルほどの石像を、助走もなしにふわりと飛び越えてみせたのだ。着地も音を立てず、そのまま風のような速さで駆け抜けていく。


「あなた、今……あの子から魔力の波動を感じなかったかしら!?」


「あぁ、間違いない。微弱だが、あれは『肉体強化』の魔法が発動している波長だ……!」


「でも、おかしいわ。あの子に肉体強化の魔法なんて教えていないし、そもそもそれを扱うだけの魔力もないはずなのに……!」


「信じられん。無意識のうちに発動させているとでも言うのか……?」

 さらに、異常なのはそれだけではなかった。


 ある日のこと。ルークが、セオドアの作った「微量の魔力で涼しい風を起こす生活用魔導具」を使おうとした時のことだ。


 ルークがほんの少しだけ魔導具の起動石に触れた瞬間――。


 ピキッ……パァァァァンッ!!


 起動石として組み込まれていた硬質な魔石が、突然まばゆい光を放ち、粉々に砕け散ってしまったのだ。


「あ、あれ? パパ、ごめんなさい! 壊しちゃった!」


「い、いや、怪我はないかい!? (ルークの握力で握りつぶしてしまったのか? いや、違う。この石は……『内側』から破裂している?)」


 セオドアは砕け散った魔石の破片を拾い上げ、ゴクリと息を呑んだ。

 そこには、安全のための上限ロックを内側から破壊するほどの、莫大な魔力負荷の痕跡が残っていた。


「あの肉体強化の魔法といい、この魔石の破裂といい……まさか」

 セオドアは破片を見つめたまま、ある一つの途方もない可能性に行き着き、戦慄した。


 もしや、この子の魔力は皆無だったのではなく、王城の鑑定機ですら測りきれずエラーを起こすほどの「規格外」だったのではないか、と。


◇◇◇


 そんなある日、診療所に一人の珍客が訪れた。

 ボロボロの道着に身を包んだ、鋭い眼光を持つ白髪の老人だ。


「頼むっ! 我が流派を、君のその見事な肉体で継いでくれんか!!」

 老人はルークを見るなり土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。


 彼は、魔法至上主義のこの世界において、魔力に頼らず純粋な身体能力と剣術だけで戦う「絶滅寸前の剣の流派」の師範だった。魔法がすべてを解決する現代において門下生は一人もおらず、流派の存続を諦めかけていた矢先、町で規格外の身体能力を見せつけるルークの噂を聞きつけたのだという。


「素晴らしい骨格! 常人離れしたバネ! 君のような逸材は、百年に一度……いや、千年に一度の奇跡だ! 我が流派のすべてを君に叩き込みたい!」


「えぇっ!? 剣のお爺ちゃん、泣いてるの!?」

 あまりの熱意に圧倒されつつも、ルークは前世からの強さへの憧れもあり、二つ返事で快諾した。


 こうしてルークは、魔法の存在しない純粋な物理戦闘の極意を、本格的に叩き込まれることになったのである。


 毎日泥だらけになって剣の素振りをするルークを窓越しに見守りながら、セオドアとソフィアは真剣な顔で頷き合った。


「あの子の身体能力は、もはや人間の枠を外れ始めている。……だが、それ以上に気になるのは、あの魔導具を粉砕した魔力の方だ」


「ええ。王城の鑑定機がエラーを起こしたのだとしたら、ルークにはどれほどの魔力が眠っているのかしら……」


「よし、決めたぞ。王城の測定器など比にならない、魔力を正確に計測できる『特製の魔力測定器』を私が作ろう。ルークの本当の魔力値を、我々の手で調べるんだ」


 辺境の小さな町で、ルークの規格外な才能が、いよいよ本格的に開花しようとしていた。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


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