第四十六話:新生Fクラス
Bクラスの連中が医務室へと運ばれていった後、ポツンと訓練場に残された僕の周りに、恐る恐るFクラスのクラスメイトたちが集まってきた。
「お、お前……あの動き、一体なんなんだよ!」
「どうやったら、あんな風に魔法を弾いたり斬ったりできるんだ!?」
興奮気味に質問責めにしてくるみんなに、僕はこれまでやってきたトレーニングを素直に説明した。
「ええと、マ……母さんが放つ魔法を、毎日避けたり斬ったりするんです。寝ている時でも容赦なく飛んでくるので、常に魔力探知を怠らないようにして。
あとは父さんの結界魔法の構造を剣と盾で模倣できるように、魔力循環をしながら一日数千回の素振りをして……、それから……」
僕が細かく説明していくにつれて、クラスメイトたちは僕を哀れみの目で見つめてくる……なんで?
「お前……それ、死ななかったのが奇跡だろ……」
「ドン引きだよ……住む世界が違いすぎる……」
なぜか全員から引かれてしまったけれど、僕は大剣を背中に収めて、みんなに向かって熱く語りかけた。
「僕は、立派な騎士になりたいんです。だから、君たちに向かってくる魔法はすべて僕が斬り捨てます! みんなは敵の攻撃を恐れず、安心して魔法を打ち込むことだけに集中してほしい!」
僕の言葉に、みんなは呆然としていた。
やがて、クラスのリーダー格であるクラウスという真面目そうな生徒が、一歩前に出た。
「……俺たちは、万年Fクラスだ。他のクラスからはクズの溜まり場、金の無駄遣いだと蔑まれてきた」
クラウスは、少し自嘲気味に笑って語り始めた。
このFクラスにいるのは、下級貴族ばかりで決して恵まれた環境で育ったわけではないらしい。この王立魔法学校の学費は決して安くない。騎士学校からの特待生として学費を免除されている僕は知らなかったけれど、ここにいるクラスメイトたちは、親が少ない私財を売り払ってまで期待を込めて学校に入れてくれた生徒ばかりだという。
「親の期待に応えようと、俺たちも必死に頑張ったさ。でも、魔力量の差はどうにもならなくて……上位クラスには勝てず、半ば心が折れかけていたんだ。
ギリギリで持ちこたえていたけど、お前が編入してくる数日前に、とうとう一人、学校を辞めて逃げ出してしまった」
それで、Fクラスは僕が来るまで九人しかいなかったのか。
「でも……お前の戦いを見て、目が覚めたよ。俺も、もう一度頑張ってみる」
「クラウス……」
「君たちの境遇には同情するよ。でも、まだまだ僕たちは頑張れるはずだ。一緒に頑張ろうよ!」
僕が手を差し出すと、クラウスは力強くその手を握り返してくれた。おっちょこちょいだけど明るいムードメーカーのマルコも、「俺もやるぜ!」と後に続く。
こうして、僕とFクラスの仲間たちの特訓が始まった。
翌日から、Fクラスの生徒たちは僕と共に、毎朝の走り込みと剣の素振りを始めた。
「ハァ、ハァ……! ま、魔法使いが、なんで剣の素振りなんか……っ!」
「父さんが言ってたんだ。魔法使いにも体力は絶対に必要だし、正確に魔法を撃ち込むための『体幹』を鍛えるのに、運動はすごく効率が良いって!」
へばるマルコに、僕は笑顔で答えた。
その休憩中のことだ。息を整えていたクラウスが、僕の背中の大剣をじっと見て口を開いた。
「なぁルーク。お前のその大剣、少し持たせてくれないか?」
「うん、いいよ。はい」
僕が背中から大剣を抜いて無造作に手渡すと、クラウスはそれを受け取ろうと両手を伸ばし――。
「……っ!? ぐわっ!?」
ドスゥンッ! と。
大剣はクラウスの腕ごと、凄まじい音を立てて地面にめり込んだ。
「お、重っ!? なんだこれ、ただの鉄塊じゃないか! とても人間が振り回せる重さじゃないぞ!」
「ええ? 嘘だろ、俺にも貸して……うおっ、腰が抜ける!」
クラウスとマルコが二人がかりで持ち上げようとしても、大剣はビクともしない。
「あはは、ごめんごめん。普通に持つと少し重いんだ。でも、こうやって魔力を込めると……」
僕は二人の間からスッと大剣を片手で拾い上げ、フワリと軽く振ってみせた。
「ね? 剣に魔力を流すと、すっごく軽くなるんだよ」
「「うそつけーーっ!!」」
クラウスとマルコが真顔で叫んだ。
「魔力を込めたくらいで、そんな鉄塊が羽みたいに軽くなるか! お前がただの非常識な馬鹿力なんだよ!」
「ええー……本当なのに」
そんな賑やかなやり取りを挟みつつ、日々の鍛錬によりクラスメイトの団結が強まった気がする。
みんなの基礎体力がついてきた頃に、今度は実践的なトレーニングも開始した。マルコが放った魔法を僕が盾で正確に弾き返し、それをクラウスが防御魔法で防ぐというものだ。
「ぎゃあああ!? 俺の魔法が俺に飛んできたぁぁ!!」
「避けろマルコ! ばか、俺の後ろに隠れるな!」
最初は自爆ばかりだったけれど、次第にみんな魔力の扱いや咄嗟の判断力が研ぎ澄まされていった。
「よし、次はダンスだよ!」
「「「はあ!?」」」
「母さんが言ってたんだ。魔法の連続詠唱にはリズム感が大事だって。実際、母さんはまるで踊るように魔法を連射していたからね! さあ、ステップを踏んで!」
僕が真剣にダンスのステップを教えると、みんなはゼーゼーと息を切らしながらも必死についてきた。
「ハァ、ハァ……おいルーク、お前の両親って一体何者だよ……!」
「俺はお前の両親が恐ろしいよっ……!?」
ヒーヒー言いながら文句を言うマルコたちだったけど、誰も特訓から逃げ出そうとはしなかった。
Fクラスの面々は、自分たちにはもう後がないことを痛いほど理解している。だからこそ、キツい特訓にも必死に食らいついてくるのだ。
そんな泥臭くて一生懸命な彼らの必死さを見て、僕はだんだんこのクラスメイトたちのことが好きになっていった。クラウスやマルコたちも、文句を言いながらも僕を信じて慕ってくれるようになった。
――そして、地獄の特訓から一ヶ月が経った。
厳しい練習を乗り越え、顔つきも魔力も見違えるほど精悍になったFクラスの仲間たちと共に、僕は再びドーム型の訓練場に立っていた。
「みんな、準備はいい?」
「ああ。いつでもいけるぜ、ルーク」
「俺たちの新しい力、見せつけてやろうぜ!」
クラウスとマルコを筆頭にクラスメイトたちが、自信に満ちた顔で杖を構える。
今日は月に一度の、クラス対抗・模擬戦の日だ。僕たちFクラスの前に立ち塞がる次の相手は――。
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