第四十四:貴族と平民
王立魔法学校は、生徒の魔力量と成績によって厳格な『クラス分け』がなされているらしい。
一学年は約六十名。ひとつのクラスは十名という少数精鋭で構成されていて、上位からA〜Fまでの六つの階層に分かれている。それが一学年から四学年まで存在する、四学年制の学校だ。
最上位である『Aクラス』は、王族や一部の天才的な高位貴族しか入れない不可侵の領域で、AとBの間には決して越えられない『巨大な壁』がある……と、騎士学校の校長先生が教えてくれた。
そして――平民の僕が特待生として編入させられたのは、当然のように一年生で一番下の『1年Fクラス』だった。
「……今日からこのクラスに入る、ルークだ。仲良くしてやってくれ」
やる気のなさそうな担任の先生に紹介されて、僕は教壇に立った。
Fクラスは、魔力が極端に低い下級貴族や問題児ばかりが集まるクラスらしい。僕を見つめる九人のクラスメイトたちの目は、歓迎とは程遠い、冷ややかで苛立ったものだった。
「初めまして、ルークです! 平民ですが、立派な近衛騎士になって女王陛下をお守りするためにこの学校へ来ました。よろしくお願いします!」
元気よく頭を下げたけど、教室の空気は完全に凍り付いていた。
「騎士……だと?」
「この魔法学校に来ておいて、魔法を使わない気かよ」
「しかも見ろ、あの背中の野蛮な鉄屑。それに両腕のガントレット……。野蛮すぎる……」
ヒソヒソと文句が聞こえてくる。
どうやらFクラスのみんなも、『魔法至上主義』の常識が染み付いているみたいだ。魔法を使わず剣を背負っている平民の僕は、彼らにとっては自分たち以下の存在に見えるらしい。
「ふざけんなよ……。ただでさえ万年最下位で肩身が狭いのに、平民のお荷物まで押し付けられるのかよ」
「今日の『クラス対抗戦』、ただの的が増えただけじゃないか……」
舌打ちとため息が聞こえてくる。大歓迎とはいかないみたいだけど、僕は気にせず、一番後ろの空席に座った。最初からこの反応は予想できていたから。
「さて、自己紹介も終わったことだし、さっさと訓練場へ移動するぞ」
先生は面倒くさそうに言った。
「今日は月に一度の『クラス対抗・模擬戦』の日だ。我々1年Fクラスの相手は、1年Bクラスだ」
その言葉を聞いた瞬間、クラスメイトたちの顔からサッと血の気が引いた。
「B、Bクラス……っ!? またあいつらの鬱憤晴らしの的かよ!」
「先生、棄権させてください! どうせ勝てないのに、怪我だけ増えるのはご免です!」
みんなすっかり怯えきっている。
Bクラスの生徒たちは、常に絶対王者であるAクラスと比較され、「やっぱりAクラスには及ばないな」と引き立て役にばかりされているらしい。彼らはその溜まりに溜まった劣等感や悔しさを、下のクラスを徹底的に痛めつけることで晴らしているんだとか。なんだか、すごく迷惑な話だ。
――十分後。
強固な魔法結界が張り巡らされた、巨大なドーム型の訓練場。
怯えるFクラスのみんなの前に現れたのは、苛立ちと歪んだ優越感を混ぜ合わせたような笑みを浮かべる1年Bクラスの十人だった。
「やあやあFクラスの諸君。今月も僕たちの『ストレス発散』に付き合ってくれるかい?」
先頭に立っていた、伯爵家の長男だというボリスという生徒が下品に笑う。
彼らはトップではないとはいえ、優秀なBクラスだ。みんな魔力はそれなりに高そうだ。
「ボリス……っ。頼む、今日は手加減してくれよ……」
「ははっ! 無理だね。僕たちもAクラスの連中の引き立て役にばかりされて、毎日むしゃくしゃしてるんだ。せめてお前ら底辺を圧倒して、僕たちの優秀さを再確認させてもらわないとな。
……ん? なんだ、あの見慣れない平民は?」
ボリスの視線が、Fクラスの最後尾に立つ僕を捉えた。僕の背中の大剣を見て、ボリスは腹を抱えて爆笑した。
「あははははっ! なんだその鉄屑は! 魔法も使えない平民を、ついに人間の盾として編入させたのか! いいぜ、最高のサンドバックが追加されたな!」
Bクラスの生徒たちも一斉に嘲笑の声を上げる。
クラスメイトたちは悔しそうに顔を歪めているけど、身分と魔力の差に怯えて、誰も言い返せないでいた。
「さあ、始めようか。お前ら、開始と同時に一斉掃射だ。Fクラスのゴミどもを、一瞬で黒焦げにしてやれ!」
試合開始のブザーが鳴り響いた瞬間。
ボリスをはじめとするBクラスの十人が一斉に杖を構え、詠唱を完了させた。十人分の炎が合わさり、巨大な火災の渦――中級魔法『ファイア・ストーム』となって、僕たちの方へ向かって猛スピードで迫ってくる。
「ひぃぃぃぃっ!?」
「だ、だめだ! 防ぎきれないッ!」
クラスメイトたちが頭を抱えてしゃがみ込み、絶望して目を瞑っている。
「――大丈夫。僕に任せてください」
ポンッ、と。
僕は腰を抜かしたクラスメイトの肩を優しく叩いて、スッと前に出た。
「おい、平民……!?」
「何言ってんだお前! あの威力の魔法を防げるわけないだろ!!」
後ろから悲鳴が聞こえるけど、僕はそのまま迫り来る巨大な炎の渦の真っ正面へと歩み出た。
僕はゆっくりと背中に手を伸ばし、身の丈ほどもある大剣の柄を、しっかりと握りしめた。




