第四十話:二人の未来
『――アイリス様。聞こえますか?』
「は、はいっ! 聞こえてます!!」
木彫りの小鳥から聞こえてきた声に、アイリスは弾かれたように立ち上がり、誰もいない自室で背筋をピンと伸ばして返事をした。
『僕は今、王都で頑張っているアイリス様を見習って、騎士養成学校に通うための勉強をしています』
「まーっ! 自ら進んで勉学に励むだなんて、なんてご立派ですわ!!」
アイリスは感動のあまり、胸の前で両手をギュッと組み、小鳥から聞こえる言葉に全力で相槌を打ち続ける。
『僕も……アイリス様と会えなくて、とても寂しいです。でも、いつかアイリス様と再び会えることを夢見て、今は自分を磨くために頑張ります!』
「まーっ……今のままでも、ルーク様は十分に素晴らしい男性だと思いますのに……」
真っ赤になった頬に手を当てながら、アイリスは照れくさそうに身悶えする。
あの日、王都へ向かう馬車の中から言葉もなく別れてしまったルーク。彼もまた、自分と同じように再会を望み、そのために必死で前へ進もうとしてくれている。その事実が、たまらなく嬉しかった。
『これ、あまり長い時間は録音できないんだって。だから……また、アイリス様の声が聞けるのを楽しみにしてます。えっと……それじゃあ、またね』
「えっ!? ろ、ろくおん……?」
『ピヨピヨ、ピヨピヨ』
愛らしい小鳥の鳴き声を最後に、木彫りの小鳥はただの置物に戻り、ルークの声は完全に聞こえなくなってしまった。
「……えっ? えっ?」
アイリスは目を瞬かせ、やがて事態を正確に理解した。
「なるほど……。これは直接会話をするものではなく、声で伝える『お手紙』のような魔導具だったのね……!」
ソフィアが「変わった魔導具」を渡してきた理由が、ようやく分かった。
アイリスが昨晩、夜空に向けて「寂しい、会いたい」と呟いた声を録音した小鳥が、ルークの元へと飛んでいき、そして今夜、ルークからの返事を吹き込まれて再び帰ってきたのだ。
「こ、小鳥さんっ。お願い、もう一度ルーク様の声を聞かせてちょうだい!」
アイリスは身を乗り出して小鳥に話しかけたが、反応はない。
「もう……意地悪な小鳥さんですね」
アイリスは少しむくれて、ツンツンと指先で小鳥のくちばしをつついた。
――その瞬間。
『――アイリス様。聞こえますか?』
「きゃっ!?」
突然、再びルークの声が最初から再生され始め、アイリスはビクッと肩を揺らした。
「あーーっ! な、なるほど……っ!」
アイリスの顔が、ボンッ! と音を立てて茹でダコのように真っ赤に染まった。
この小鳥の魔導具は、アイリスの口にした『ルーク』という名前に反応して再生されたわけではなかったのだ。
「『くちばし』を押すことが、再生の仕掛けになっていたのですね……! ということは、さっき音声が再生されたのは、私が、その……こ、小鳥同士をくっつけて、チュッ、チュッってさせてたから……っ!?」
一人きりの部屋で、自身のあまりにも恥ずかしい一人遊びが原因だったことに気づき、アイリスは両手で顔を覆ってベッドの上で足をばたつかせて倒れ込んだ。
しばらくの間、枕に顔を押し付けて「ううう〜っ」と身悶えしていたが。
やがて、アイリスは勢いよくベッドから跳ね起きた。
そして、パチンッ! と両手で自分の頬を気合を入れるように叩き、凛とした表情で二羽の小鳥を見つめ直した。
「……ルーク様も、立派な騎士になるために頑張っているんですもの。私がこんなところでへこたれていては、ダメですね」
次に会う時。
誇り高き騎士となった大好きな彼に、胸を張って『立派な女王になった』と誇れるように。
「私も、負けていられませんわ!!」
月明かりの差し込む部屋で、若き女王は力強く微笑んだ。
彼らをつなぐ二羽の木彫りの小鳥は、机の上で仲良く並びながら、これからの二人の成長と再会を願うように、静かに寄り添い続けていた。
(第一部・完)
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
幼少期編は終わりで、次からは第二部青年期編となります。




