↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/66

第三十一話:ついに始まる崩壊

 王都、玉座の間。

 国王ヴィルヘルムの怒声が、豪奢な空間に響き渡った。


「子供だと!?  あの吹き溜まりのような辺境の城で、七歳の子供が兵を指揮しているというのか!?」


「は、はいっ!  恐れながら、事実でございます!」

 平伏する暗殺部隊の諜報員は、冷や汗をダラダラと流しながら報告した。


 実際には、部隊の指揮や訓練はセオドアが行っており、ルークはあくまで「手本」として立ち合っていただけなのだが、強烈な威圧感に当てられてパニック状態で逃げ帰ってきた諜報員は、その事実を正確に把握できていなかった。


「ふざけるな! そのような戯言を余が信じるとでも思っているのか!」


「お、お待ちください! こちらを!」

 激昂する王に対し、諜報員は慌てて懐から一つの『単眼鏡』を取り出し、震える手で差し出した。


 それは、レンズ越しに観察した映像と音声を自動的に記録する、軍事用の高度な魔導具だった。

 ヴィルヘルムは舌打ちをしながら単眼鏡を受け取り、レンズを覗き込んだ。


 そこには、三人の屈強な兵士を相手取り、魔法すら使わずに瞬く間に吹き飛ばす小さな少年の姿が克明に映し出されていた。


「なっ……なんだこの化け物じみた小僧は……っ」

 ヴィルヘルムは驚愕に目を見開いた。

 さらに映像は切り替わり、今度は一組の男女が兵士たちに高度な魔法指導を行っている光景が映し出された。


(なんという凄まじい魔力だ……。この規格外の練度、まるで忌々しいセオドアとソフィアを彷彿とさせる……)


 ヴィルヘルムはギリッと奥歯を噛み締めた。

 映像の中の男女は、間違いなくセオドアとソフィア本人である。

 しかし、彼ら家族は現在、高度な『認識阻害の魔導具』を身につけていた。そのため、映像を通して見ているヴィルヘルムの脳内では彼らの顔や特徴が自動的にぼやけ、「どこからか現れた、凄まじい実力を持つ見知らぬ魔導士」としてしか認識できなかったのだ。


「身元不明の化け物じみた小僧に、セオドア級の魔力を持つ謎の魔導士夫婦だと……?」

 ヴィルヘルムの顔色が、徐々に青ざめ、やがてドス黒い疑心暗鬼へと変わっていく。


「まさか……。あの城にいる左遷兵どもを束ね、国家転覆でも狙っているのではないか!?  余に対する、反乱の準備だとでもいうのか!」

 王が明後日の方向へと陰謀論を飛躍させ、怒りで玉座を叩こうとした、その時だった。


「た、大変ですッ!!  陛下!!」

 バンッ! と乱暴に玉座の間の扉が開かれ、軍務大臣が血相を変えて転がり込んできた。


「何事だ!  騒々しい!」


「に、西のガルム帝国が、突如として国境を越え、我が国へ向けて進軍を開始したとの報告が……っ!」


「馬鹿な!」

 ヴィルヘルムは立ち上がり、軍務大臣を怒鳴りつけた。


「ガルム帝国は、我が国が輸出する有益な魔導具の恩恵によって成り立っている国だぞ!?  我らが実権を握っているも同然の国が、なぜ牙を剥く!」


「そ、それが……」

 軍務大臣は顔を青くして言い淀んだ。

 ガルム帝国は確かに、これまでグランヴェルザ王国の魔導具によって国力を維持していた。


 しかし、セオドアとソフィアが国を去ってからというもの、輸出される魔導具は目に見えて質が低下。ついには使い物にならない粗悪品レベルのものまで平然と紛れ込むようになっていたのだ。


 これを「我らを馬鹿にしている」「明確な条約違反である」と重く受け止めたガルム帝国は、完全に王国を見限り、以前から虎視眈々と狙っていた侵攻の機会をここに見出したのである。


「報告は、それだけではございません……っ!  西のガルム帝国の侵攻とほぼ同時期に、東のゼント王国も大軍を率いて国境へ進軍しているとの報告が入りました!」


「なんだと……っ!?」

 ゼント王国は、ガルム帝国と政略結婚を通じて強固な同盟関係を結んでいる軍事国家である。

 この絶妙なタイミング。二国が共謀し、東西から同時にグランヴェルザ王国を挟み撃ちにして攻め込んできたと考えるのが自然だった。


「東のゼント王国だと……?」

 ヴィルヘルムは、ふと何かに気がつき、玉座の脇にある巨大な広域地図へと目を向けた。

 ゼント王国の軍勢が王都へ向かうルート。そこには、一つの小さな町が存在している。


 ――アイリスが幽閉されており、先ほど「謎の反乱軍(と勘違いしているルークたち)」がいると報告された『忘却の城』を抱える、辺境の町である。ゼント王国の進軍ルート上、一番最初に対峙することになるのがあの町だった。


「……くくっ、ははははっ!」

 ヴィルヘルムの口から、歪んだ笑い声が漏れた。


「陛下……?」


「なんという好機だ。ゼント王国の進軍ルートには、あの目障りなアイリスがいるではないか。それに、国家転覆を企む見知らぬ賊の集団もな」

 王は地図上の辺境の町を、チェスの駒を捨てるように指先で弾いた。


「我々王国の本隊は、西のガルム帝国の対応に全力を集中させる。東の辺境の町は『捨てる』」


「なっ……!?  し、しかし、あそこには無実の民草や、アイリス殿下も……!」


「構わん!  むしろ都合が良い!  ゼントの軍勢が辺境の町を蹂躙し、忌々しい娘と反乱軍をまとめて始末してくれるのを期待しよう。精々、あの町の連中には『立派な肉盾』として、ゼントの軍勢を削ってもらうとするさ」

 実の娘と、自国の民を見殺しにする非情な決断。

 今のヴィルヘルムの頭の中には、自分の玉座を守ることしか頭になかった。


「それから、我が国の『同盟国』に至急書状を送れ。この危急の事態、速やかに軍事支援を求める、とな」


「……は、ははっ!」

 王の命令が下り、王都は東西の戦火に対応すべく大混乱へと陥っていく。


 ――しかし、この時ヴィルヘルムはまだ知らなかった。

 この「同盟国への支援要請」が、やがて王国に『更なる取り返しのつかない悲劇』を招き入れる結果になるということを。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。

 本作のタイトルを変更しました


 少しでも面白かったと思っていただけたら、ブックマークや評価を頂けると幸いです。

 皆様の応援が、モチベーションアップの原動力となります。


 毎日22時頃に更新予定です。よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。