第二十九話:私の誕生日
今日、昼間に面会に来てくださったソフィア様との雑談の中で、私は衝撃的な事実を知った。
なんと、ルーク様のお誕生日は、私とまったく同じ日だったのだ。
(同い年で、お誕生日まで一緒だなんて……っ! これって、もしかして運命というものでは……!?)
ソフィア様が帰られた後も、私は一人で胸に手を当て、乙女チックな妄想に浸って赤面していた。
しかし、ふと冷静になると、急に冷たい現実が足元に忍び寄ってきた。
ソフィア様は私に気を遣って言わなかったけれど、きっと今頃、あちらの温かいお家では、ルーク様のお誕生会が開かれているのだろう。
『ふふっ、そのお誕生会に、私も参加したりしちゃって……』
なんて、頭の中で幸せな食卓の風景を妄想してみたけれど。それはかえって、ひとりぼっちで冷たい塔にいる私の虚しさを増幅させるだけだった。
「……私にも、お父様に愛されて、お誕生日を祝っていただいた記憶はあるのよね」
ぽつりと、誰に聞かれることもない独り言がこぼれた。
物心ついた頃、私は確かにお父様――国王ヴィルヘルムに愛されていた。
けれど、いつからか私を見るお父様の目が変わってしまったのだ。
理由は分かっている。
幼かった私は、ただお父様に褒めていただきたくて、『千里眼』を使って見えたことを進言したのだ。お父様が懇意にしている有力貴族が、国庫を誤魔化して不正を行っている、と。
しかし、後になって知ったことだが、その不正を主導してやらせていたのは、他でもないお父様自身だった。
私は、気付かないうちに『実の父親の不正』を、その千里眼で暴いてしまっていたのだ。
その日から、お父様の私を見る目は変わった。
最初は、得体の知れないバケモノを見るような『恐れ』。それはやがて、自分の玉座を脅かす存在に対する明確な『憎しみ』へと変わっていった。
(いつの間にか、お父様の顔を思い出そうとしても……私を忌み嫌い、眉間に深い皺を寄せた顔しか思い出せなくなってしまったわ)
胸の奥がチクリと痛む。
いけない、いけないわ。今日はルーク様のお誕生日なのに、こんな暗い気分になるのはよくない。
「ご本人に直接お伝えできないのは残念だけど……この塔の上から、ルーク様のお誕生日をお祝いいたしますわ」
私はパンッと両頬を叩いて気合を入れ直すと、窓にかかっている分厚いカーテンを閉め、そろそろベッドに入ろうとした。
――コン、コン。
「……え?」
その時、閉めたばかりの窓を小さく叩く音が聞こえた。
最初は気のせいかと思ったが、その規則性のある控えめな音は、まるで小鳥か何かの生き物が嘴で突いているように感じられた。
(こんな夜更けに、鳥さんかしら?)
不思議に思い、カーテンの隙間からそっと外を覗き込む。
すると――同じように窓の外からこちらを覗き込もうとしていた、ルーク様とバッチリ目が合ってしまった。
(……って、なんでルーク様が!?)
ここは地上数十メートルにある塔の最上階である。
『ああ、私ったらついに、寂しすぎてルーク様の幻覚まで見るようになってしまったのね……』
そう現実逃避しかけた瞬間、窓の向こうのルーク様が「あっ」という顔をして、その体が塔の壁から剥がれ落ちそうになった。
「っ……!!」
私は無我夢中で窓をバンッと開け放ち、落ちそうになったルーク様の腕を両手でぎゅっと掴んでいた。
私の細腕の力で、ルーク様を引きずり上げることなんて物理的に無理だとは分かっていたけれど、頭で考えるより先に体が動いていたのだ。
少し冷たくなった彼の手のひんやりとした感触が、これが幻覚などではないことを教えてくれる。
「あ、あ、あの……ルーク様、ですよね?」
「あ、あの……初めまして、なのかな? セオドアとソフィアの息子のルークと言います。よろしくお願いします」
戸惑う私に、ルーク様は体勢を立て直しながら、はにかむように微笑んだ。
そして、彼がわざわざこんな危険を冒してまで塔を登ってきた理由が「私のお誕生日を祝うため」だったと知り、手彫りの可愛らしい小鳥の木彫りをプレゼントされた時。
(ああ、私……今、世界で一番幸せかもしれない)
嬉しさで胸がいっぱいになり、二人で窓越しに見つめ合って笑い合った。
直後、護衛の兵士が扉を叩く音が響き、ルーク様は慌てて塔を駆け下りていってしまったけれど。彼が去った後の夜風は、少しも冷たく感じなかった。
「……ふふっ」
私はベッドの脇にある小さなテーブルに、ルーク様からいただいた木彫りの小鳥を大切に飾った。
小鳥の頭を指先で優しく撫でてから、布団に潜り込む。
(今日はきっと、すごく幸せな夢が見られそうだわ)
彼からもらった温かい気持ちを胸に抱きながら、私は静かに目を閉じた。




