↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/66

第二十二話:割れた兜

「いいかい、ルーク。護衛隊の方々には、お前を大人と同じように扱ってくれと頼んである。だから、お前も手加減せずに本気でやるんだぞ」


 城の訓練場へと向かう道すがら、パパは僕に向かってそう真剣な顔で念を押した。

 今回の城への訪問名目は、数日前のスタンピードに対する事後評価と、昨夜の暗殺部隊襲撃を受けた『今後の防衛・連携訓練』ということになっている。


(とはいえ、僕はまだ七歳だ。いくらパパがそう言っても、屈強な兵士たちからすれば子供の遊び相手をさせられるみたいで、舐められちゃうんじゃないかな……)


 そんな不安を抱きながら訓練場に足を踏み入れた僕だったが、その予想はあっさりと裏切られた。


「よくぞお越しくださいました、ルーク殿! 本日は我々に、その卓越した剣技をご指導いただきたく存じます!」


 城の護衛隊長をはじめ、ずらりと並んだ隊員たちは、僕を見るなり真剣そのものの表情で一斉に敬礼したのだ。

 彼らの多くは、先日のスタンピードの際、僕が魔物の群れを単機で切り伏せていく姿を直接見ていたのだ。子供扱いするどころか、完全に「対等以上の戦士」として接してくれている。


 だが、そんな友好的な空気の中、一人だけあからさまに不機嫌な顔で前に進み出てきた男がいた。

 熊のように人一倍大きな体躯を持った、護衛隊の副隊長だ。


「隊長、いくらなんでも持ち上げすぎですぜ。先日のアレは、どうせ後ろにいる天才魔導士の親が、息子に強力な『肉体強化』の魔法をかけていたからできた芸当でしょうが」

 副隊長は鼻で笑い、見下すような視線を僕に向けた。


 彼はおそらく、スタンピードの最前線にいなかったのだろう。僕の動きを魔法による底上げだと信じて疑っていないらしい。


「今回は魔法による強化は一切なし。使うのはこの木剣のみによる純粋な剣術の稽古……それで間違いねェな?」


「え、ええ。その条件で間違いありません」

 僕が頷くと、副隊長はニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、木剣を肩に担いだ。


 そのやり取りを見ていたママの纏う空気が、ピキリと凍りついた。

 自慢の息子を侮辱されたことで、ママの瞳から明確な嫌悪と怒りが漏れ出している。


(ま、ママ、落ち着いて……!)


 僕が内心で冷や汗をかく中、訓練場の中央で僕と副隊長は対峙した。

 見上げるほどの大男と、木剣を正眼に構え、異様に姿勢の良い独特の雰囲気のある少年。周囲の隊員たちが固唾を飲んで見守る中、お互いの木剣を打ち合わせ、試合開始の合図が鳴った。


「オラァッ!!」

 副隊長が裂帛の気合いとともに、丸太のように太い腕で木剣を大上段から振り下ろしてくる。


 空気を切り裂く凄まじい風切り音。

 確かに、まともに受ければ力では押し負けるかもしれない。


(――でも)


 僕は、呆気にとられていた。

 拍子抜けするほど、彼の動きが『遅く』見えたのだ。

 スタンピードで戦った上位魔物の素早さに比べれば、まるでスローモーションのようだった。


「ちょこまかとォッ!」

 副隊長の猛烈な連続攻撃を、僕は右へ、左へと、最小限の体重移動だけで紙一重でかわしていく。


 一発、二発、三発。

 すべての攻撃が空を切り、副隊長の顔に焦りと苛立ちが浮かぶ。


 そして、再び大振りの打ち下ろしを僕に躱された、その瞬間。

 体勢を崩した副隊長は、苛立ちに任せてルール無用の強硬手段に出た。自身の巨大な肩を突き出し、あろうことか七歳の僕の『頭』をめがけて、全力の体当たりを仕掛けてきたのだ。


「――ッ!! あの図体で子供の頭を狙うなんて……万死に値しますわ! 『極大雷――」


「お、落ち着けソフィア!! ルークなら大丈夫だ、杖をしまえ!!」

 視界の端で、ブチギレたママが杖を振り上げようとするのを、パパが背後から必死に羽交い締めにして止めているのが見えた。


(パパ、ありがとう……!)


 迫り来る巨大な壁のような体当たり。

 僕は慌てることなく、半歩だけ足を引き、副隊長の突進の勢いを殺さないように自らの左手を添えた。


「なっ!?」

 そのまま相手の力を利用し、円を描くようにいなして、足払いをかける。


 ドゴォォォンッ!!


 という地響きとともに、副隊長の巨体がもんどり打って地面に叩きつけられた。

 完全に無防備になったその巨体を見下ろし、僕は静かに、けれど最速の踏み込みで木剣を振り下ろす。


『――ッ!!』

 副隊長の頭のほんの数ミリ手前。

 そこでピタリと、寸分違わず剣を止めた。


 直後。

 ドンッ!!!! という爆発のような轟音が訓練場に響き渡った。


 直接剣を当ててはいない。ただ木剣を振り下ろした際の『風圧』と『衝撃波』だけで、地面の土が弾け飛び、副隊長が被っていた鉄の兜が、綺麗に左右にパカーンと割れたのだ。


 静まり返る訓練場。


 真っ二つになった兜の間から覗く副隊長の顔は、血の気を失い、真っ青に染まっていた。


「あ、ああ……ご、ごめんなさい! 少し力を入れすぎちゃって……怪我はないですか?」

 僕が慌てて木剣を引き、気まずそうに謝ると、副隊長はガクガクと震える唇を開いた。


「ま……ま、まいりましたぁぁぁっ……!!」

 情けない声を上げて降伏を宣言する副隊長。


 その瞬間、硬直していた護衛隊の面々から、「おおおおおおおっ!!」という地鳴りのような大歓声が沸き起こったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。