第二十一話:お説教
塔から帰ってきたママに、それはもう鬼の形相でしこたま説教された。
「いくらなんでも、一晩中外で素振りを続けるなんて無茶にもほどがあります!」と、こってり絞られた後、一晩中付き添っていたメイドのアンナにも深く頭を下げて詫びた。
結局、ベッドに押し込まれてお昼頃に目を覚ました。
数時間しか寝ていないのに、パッチリと目が冴えている。ママから早く『塔の少女』の話を聞きたくて、これ以上寝ていられなかった。
それでも朝まで無心で素振りをしたことで、自分の中で一つ分かったことがある。
もし、パパやママ、アンナ――僕の大切な人たちに危害が及ぶようなことがあれば、僕は迷わず剣を振るうことができる。
それくらい、今の家族は僕にとって大事な存在だ。
それに、冷静に考えれば、僕の身体能力はかなり高い。スピードもある。動体視力だってずば抜けている。
『敵の攻撃が当たらなければ、何も怖いものはないんじゃないか?』
前世のゲームのような安易な考えかもしれない。けど、今の僕はまだ七歳の子供なのだ。少しばかり安易な考えで強がったって、バチは当たらないだろう。そう無理やり納得することにした。
午後になって、城での仕事を終えたパパが帰宅した。
僕はすぐさまパパの前に立ち、真っ直ぐに目を見て直談判した。
「パパ。次に何かあった時は、僕も連れて行ってほしい」
「…………」
ママから、僕が朝まで素振りをしていたと聞かされていたパパは、深々と頭を抱えて悩んでいた。
やがて、パパはため息を一つ吐くと、自分の指にはまっていた銀色の指輪を外し、僕に差し出した。
「いいかい、ルーク。これは『身代わりの指輪』といって、装備者の致命傷を一度だけ肩代わりしてくれる魔導具だ。これをお前にやろう」
「いらないッ!! 断固拒否する!!」
僕は全力で首を横に振って、指輪を突き返した。
冗談じゃない。大切なものを託して『身代わりの指輪』を渡すなんて、前世の知識で言えば、パパが僕を庇って致命傷を受け、この世を去ってしまう王道の死亡フラグじゃないか!
「絶対に受け取らないからね! パパがそれを持ってて!」
「いや、しかしなルーク……」
「ダメなものはダメ!!」
僕が必死の形相でフラグをへし折ろうとするのを見て、パパは堪えきれなくなったように吹き出した。
そして笑いながら自室へと戻り、すぐに戻ってくると――先ほど僕に渡そうとしたのと同じデザインの指輪を、もう一つ手のひらに乗せて見せた。
「……あ。なんだ、身代わりの指輪の予備、まだあるんだ……」
「はははっ、実はそうなんだ。パパもママも持っているから、安心してお揃いを受け取ってくれ」
僕たちは顔を見合わせ、声を上げて笑い合った。
「それにしても、ルークも隅に置けないわね」
紅茶を淹れながら、ママがニヤニヤとからかうように笑いかけてきた。
「あの塔にいらした女の子、ルークのことがすっかりお気に入りの様子だったわよ」
「えっ……! ほ、ほんとに!?」
「ええ。あの子は『アイリス』というお名前なの。とても可愛らしくて、優しい女の子よ」
アイリス……
その響きを頭の中で反芻するだけで、顔が熱くなる。
ママは彼女がどういう身分の方なのか、詳しいことは教えてくれなかったけれど、パパとママがかしこまって対応するくらいだ、きっととても高い身分の貴族なのだろう。
「再び暗殺者が差し向けられる可能性もある。あちらの監視は、パパとママで今後も定期的に続けていくつもりだ」
パパが真剣な顔つきに戻り、そう締めくくった。
そして、ふと思いついたように僕を見る。
「そうだ、ルーク。明日から、城の護衛隊の訓練に参加してみるといい。話は通してあるからな」
「えっ、本当!? 実戦形式の訓練ができるの!?」
「アイリス様をお守りする騎士になるためには、もっと強くならないといけませんからねぇ」
ママが、またしてもニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んできた。完全に遊ばれている。でも、嬉しさが勝った。
「い、今から行ってくる!!」
僕が勢いよく立ち上がってドアへ向かおうとすると、ママがすっと立ち塞がった。
「ダメよ。今日はちゃんと休んで、明日からにしなさい」
「でも、少しでも早く――」
「ルーク坊ちゃまーっ!!」
背後から、すさまじい気迫とともにアンナが飛びついてきた。
そのまま、僕の小さな体はアンナの両腕によって、ガッチリと完璧な羽交い締めにされてしまう。
「ああっ!? ちょっとアンナ、苦しい、苦しいってば!」
「今日はおとなしくお家にいてくださーいっ! 坊ちゃまがまた無茶をしたら、私が奥様に怒られるんですからねーっ!」
ジタバタと暴れる僕と、絶対に離すまいと羽交い締めにするアンナ。
その騒々しいやり取りを見て、パパとママの楽しそうな笑い声が、暖かいリビングに響き渡った。




