第十三話:ピクニック
「さあ、行くぞ」
セオドアが天高く掲げた杖を振り下ろすと、生み出された巨大な火の塊が唸りを上げて敵陣へと飛んでいき、着弾した瞬間に凄まじい爆発を起こした。
一撃で数十匹の魔物が灰と化す。爆炎を運良く抜け出して突進してくる魔物もいたが、セオドアがスッと左手をかざして放つ高圧縮の小さな火の玉によって、眉間を正確に撃ち抜かれ次々と沈んでいく。
一方のソフィアは、まるで優雅なワルツを踊るようにクルクルとステップを踏みながら杖を振りかざしていた。
「ふふっ、凍りなさい」
彼女の杖の軌跡から放たれる絶対零度の吹雪が、大地を駆け抜ける魔物たちを一瞬にして氷の彫像へと変えていく。
「えっ? あ、あれ? 僕の出番は……?」
両親のあまりにも圧倒的な無双ぶりを目の前にして、ルークは巨大な大剣を構えたまま、完全に出るタイミングを見失って右往左往していた。
そんな息子の様子に気付いたセオドアは、ふっと笑みを浮かべ、まだ魔法の手が及んでいない右翼から迫る数百の魔物の群れを指差した。
「ルーク、あれを頼む」
「うん、わかった!」
ルークは元気よく返事をすると、自分の背丈以上ある大剣をヒョイと肩に担ぎ、大地を蹴って飛び出した。
「わぁ……っ!」
魔導具のレガース(脛当て)の効果は絶大だった。まるで重力から解放されて空を飛んでいるかのように体が軽い。ルークは一瞬にして数十メートルの距離を詰め、魔物の群れの真正面へと迫った。
そして、両足で力強く踏み込むと、腰の回転と共に身の丈を超える大剣を渾身の力を込めて横薙ぎに振るう。
(すごい! こんなに大きな剣なのに、木剣よりもずっと軽く振れる!)
小手による腕力強化と、ルーク自身の規格外の筋力が合わさった神速の一振り。
しかし、剣先が先頭の魔物たちを捉えた……ように思われたが、まるで空振りでもしたかのように、何の手応えも抵抗もなく、刃は空を切ってすり抜けた。
「あれっ? 当たらなかった? いつもの剣と長さが違うから、感覚がズレちゃったのかな……?」
大剣の刀身には、魔物の血一滴すら付いていない。
ルークが不思議に思いながら、もう一度剣を振るおうと構え直した、その直後……
ズルゥゥゥンッ……。
ルークを中心に、半径五十メートルほどの扇状の範囲にいた数百匹の魔物の群れが。
一拍遅れて、綺麗に上下真っ二つに「泣き別れ」になり、ズレ落ちたのだ。
骨を断つ音すら置き去りにするほどの、超音速の斬撃だった。
「…………え?」
何が起きたのか理解できず、ルークは唖然として自分の持つ剣と、血の海に沈んだ魔物たちを交互に見比べた。
その後方では、両親が手を取り合って歓喜の声を上げていた。
「キャアーッ! 見た!? あなた、今の見た!? やっぱりうちの子はすごいわ!! 世界一よ!!」
「あぁ。見事な太刀筋だ。さすがは私と君の息子だな!」
ピョンピョンと跳ねて喜ぶソフィアと、腕を組んで誇らしげに何度も頷くセオドア。
そんな親バカ全開の両親の応援を受け、ルークもようやく状況を理解して笑顔を見せた。
「よしっ! じゃあ、どんどん行くよ!」
そこからは、戦いとは言えない一方的な展開だった。
ルークは白髪の剣の師匠から叩き込まれた数々の技を存分に発揮し、風のように戦場を駆け回りながら魔物を次々と殲滅していく。
運良くルークの斬撃を逃れた魔物も、後方からのセオドアとソフィアの容赦ない魔法狙撃によって一瞬で息の根を止められた。
「グギャアアアッ!?」
「ガゥ……ッ!」
異常事態に気付いた後方に潜んでいた狡猾な魔物たちは、このままでは全滅すると本能で生命の危機を感じ取り、悲鳴を上げながら一目散に東の森へと逃げ帰っていった。
◇◇◇
「ふぅ……終わったぁ!」
数百匹の魔物を一人で斬り伏せたルークだったが、息一つ切らしておらず、その体には傷はおろか、返り血一滴すら浴びていない綺麗な状態だった。
「ルーク、お疲れ様。よく頑張ったわね。……『浄化』」
駆け寄ってきたソフィアが杖を振るい、光の浄化魔法を唱える。すると、地獄絵図のように血に染まっていた大地から魔物の死骸が光の塵となって消え去り、生臭い血溜まりも瞬く間に綺麗に消滅した。
「パパの出番、あまり取るなよな」
セオドアはルークの肩をグッと抱き寄せ、軽口を叩きながらも、その活躍を大いに褒め称えた。
そんな中、ソフィアが「あっ!」と鋭い声を上げる。
「ルーク、腕! 腕に傷ができているじゃないの!!」
「えっ? あっ、本当だ。木の枝でちょっと擦りむいちゃったみた――」
「大変!! 『大いなる癒やしの御手よ、今ここに奇跡を――エクストラ・ヒール!!』」
ルークの腕にできた数ミリほどのただの擦り傷に対し、ソフィアは欠損した手足すら生え揃うレベルの特大回復魔法を全力でぶっ放した。当然、擦り傷は一瞬で消え去った。
「もう……ママったら大げさだなあ。あはは!」
「当然よ、大事なルークに傷が残ったらどうするの!」
魔物の大群を壊滅させた凄惨な戦場の跡地で。
まるでピクニック帰りの仲良し家族のように、ほのぼのと笑い合いながら東門へと歩いて戻ってくる三人。
「……あいつら、マジで何なんだよ
……」
「神様の使いか……?」
門を死守しようと決死の覚悟を固めていた防衛隊の隊長や兵士たちは、武器を取り落としたまま、ただただ唖然としてその光景を見つめることしかできなかった。
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