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第十二話:初陣

「ルークがもっと大きくなったら、渡そうと思っていた剣があるんだ」


 セオドアが診療所の地下室から引きずり出してきたのは、身の丈をゆうに超える、無骨で巨大な両手持ちの大剣だった。


 どう考えても八歳の子供の腕力で持てる代物ではない。しかし、ルークの規格外の身体能力を誰よりも間近で見てきたセオドアは、今の彼ならこれを軽々と扱えると確信していた。


「この剣は、私が長年かけて魔力を込めた『魔剣』だ。敵の魔法を刀身で受けることでその魔力を吸収し、自分の思うタイミングで刃から放出することができる。……元々は、魔力がないルークが魔法使いと対等以上に戦えるようにと考えて作ったものだったんだがね」

 セオドアはそこで言葉を区切り、まっすぐにルークの目を見た。


「……ルークには、本当は膨大な魔力が備わっているね?」


「えっ!?」

 両親には隠し通せていると思っていたルークは、目を丸くして驚いた。


「ち、違うんだ、隠していたわけじゃないんだよ! 僕、もっと小さい時から体の中の魔力を練る練習をしていて……」


「まぁ……! だからあんなに……」

 慌てて弁解するルークを見て、ソフィアはポンと手を打った。


 燃費の悪すぎる規格外の肉体に加え、常に膨大な魔力を無意識下で練り上げ続けていたのだ。ルークが毎食ブラックホールのように無尽蔵の栄養を摂り続けていた理由に、彼女はようやく納得がいった。


「魔力があるなら、なおさら都合がいい」

 セオドアは驚くソフィアをよそに、今度は金属製の胸当てと小手、そしてレガース(脛当て)をルークの体にあてがっていく。どう見ても成人男性用の大きなサイズで、子供のルークにはブカブカに思われたが――。


「わっ、縮んだ!?」

 各部位に装着した瞬間、防具が淡い光を放ち、ルークの体型にぴったりと収まるサイズに変化したのだ。


「これも私が開発した魔導具だよ。装備者の魔力を吸収して、体に合うように自動調整してくれる。さらには胸当ては心肺機能の強化、小手には腕力の強化、レガースには戦場を風のように駆けることができる能力が付与されている」


「あなた、いつの間にこんな物まで……!」


「ルークがほんの少しでも魔力を持つことができたらと考えてね。少ない魔力でも効果を発揮するが、装備者の魔力が高ければ高いほど、比例してバフの効果も跳ね上がる仕組みだ」

 驚愕するソフィア。実際に装備したルークも、思わずその場で軽く飛び跳ねてみた。


 これほど重厚な防具を身につけ、巨大な大剣を背負っているにもかかわらず、まるで羽が生えたように体が軽く、力の底が抜けたかのような万能感があった。


「ただ、まだ試作品でね。攻撃を防ぐ防御力はあまりないんだ。だから、敵の攻撃を受ける時は十分に気をつけるんだよ」


「うん、わかった!」

 ルークは力強く頷いた。


 そして、三人は魔物の大群が迫る東門へと向けて走り出した。


◇◇◇


「な、なんだあの三人……!?」

 東門に到着した彼らの姿を見て、集結していた町の人々や兵士たちは驚きのあまり声を出せずにいた。


 いつもエプロン姿のセオドアとソフィアは、それぞれ色違いの豪奢なローブを身に纏い、手には美しい宝玉の輝く巨大な杖を握っている。

 彼らが優れた「薬師」であり「治療士」であるという認識はあったが、まさか魔法使いだったとは思っていなかったからだ。


 さらには、町中から可愛がられているあの素直で心優しいルークが、自分の背丈以上の大剣を軽々と担ぎ、全身を魔導具の鎧で武装している。そのあまりのギャップに、皆が目を白黒させていた。


 東門では、防衛隊の隊長が絶望的な魔物の数を前に、悲壮な顔で攻撃の合図を待っているところだった。


「せ、セオドア先生!? 一体その格好は――」


「隊長。私たちが広範囲魔法を放ちます。撃ち漏らした魔物の処理を、皆さんでお願いします」

 戸惑う隊長にそれだけを告げると、セオドアはソフィアとルークの肩にそっと手を置いた。


「え? ええっ!?」

 未だに状況が呑み込めない兵士たちを後目に、セオドアが短く魔法を唱える。


 瞬間、三人の体を覆うように、まるで透明な水晶のような球体の結界が出現した。それはふわりと宙に浮き上がると、防衛壁を軽々と飛び越え、凄まじいスピードで魔物の大群が迫る敵陣のど真ん中めがけて飛んでいった。


「と、飛んでいったぞ……!?」

 呆然と空を見上げる兵士たち。


 町と魔物の群れの中間地点。最前線に音もなく降り立ったセオドアは、結界を解除すると、隣に立つソフィアと静かにアイコンタクトを交わした。


 二人は同時に杖を振り上げ、魔物の大群へと切っ先を向ける。


『『天に座す星々の欠片よ。我が導きに従い、地に仇なす者を討ち滅ぼせ――』』

 それは、かつて王城で「最強」と謳われた天才魔導士夫婦の、完璧に息の合った二重詠唱。


『『メテオフォール!!』』


 二人の声が重なった瞬間。

 澄み渡っていたはずの空が突如として赤黒く染まり、雲を突き破って、燃え盛る無数の巨大な岩石が雨あられと飛来した。


 ドズゥゥゥンッ!! ズガガガガァァンッ!!


 落下した隕石は、こちらへ向かって突進してきていた魔物たちだけをピンポイントで次々と押し潰し、爆散させていく。

 大地が激しく揺れ、天を衝くほどの巨大な土煙が舞い上がった。数千はいたはずの魔物の前衛部隊が、たった一撃の魔法で跡形もなく消し飛んでしまったのだ。


「す、すごい……」

 想像を絶する両親の魔法の威力に、ルークは大剣を構えたまま唖然と口を開けていた。

 もうもうと晴れていく土煙の向こうから、生き残った魔物たちの怒号と地鳴りが再び響き始める。

 セオドアはローブをはためかせ、背中に立つ息子へと言った。


「始めるぞ、ルーク」

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


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