表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/60

60 終わり

最終話です

 

「もう何もかも遅い! 『死者の時間』はきた!!」


 バッと上空を見ると、星も月明かりもない漆黒の夜空が広がっていた。


 瞬間、後ろにある祭壇から凄まじい気配を感じ、咄嗟にレティを抱えて離れた壁際まで跳んだ。

 祭壇を見ると鏡から光が漏れていて、光は段々と大きくなっていく。

 それを見たルーファスさんが祭壇に駆け寄り、結界を解除して跪いた。


「ああ! ついに! ついにこの時が来た!! 神よ! 生死を司るそのお力で、我が妻をこの世に再び呼び戻してくれ!!」


 両手をギュッと握りしめ、祈るように叫んだルーファスさんの声に反応したのか、輝かしくて眩しい光から、淡く柔らかな光へと変わっていく。


「しゅ、シュガー、どうしよう」

「これはもう……」

「ぐっ……遅かった!」

「皆さん!」


 声が聞こえてそちらを見ると、ヴィックさんたちの姿が見えた。ルーファスさん同様ボロボロだが、どうやら無事のようだ。

 でももう、どうすることもできない。儀式は始まってしまった。逃げるべきだろうか、でもこのままじゃ――

 オロオロとしていると、光り輝いていた鏡が突然黒く染まった。


「な、なんだ?」


 これにはルーファスさんも驚いたようで、焦ったような声を上げた。

 失敗か――と期待したが次の瞬間、そんなことはどうでもよくなる事態が起きた。




『おや、ここに繋げるなんてすごいね!』





 は?????

 え、待って。



「おお! 神よ! 私の願いをどうか叶えてください! 我が妻サラをどうか再びこの世界に生き返らせてください!」


『うーん、願い事かあ。まあ、暇だからいいかな。死んだ奥さんね……サラ、サラ……』



 この声、聞いたことある。



『あ! あったあった。サラという女エルフだね。これは……うーん、ごめんよ』


「え!? ど、どういうことでしょうか!?」



 わたしが死んで最初に聞いた声。



『この子、もう転生しちゃったんだよねぇ』



 ――転生の神の声だ





 声しか聞こえないし、鏡は未だに真っ黒に染まっているだけで何も映していない。でもまさか本当に、あの鏡は神のいる場所まで繋いでしまったのか。転生の神、つまりあの鏡の先は死後の世界か、もっと別の空間ということになる。そんな代物、人の手に渡っていいはずがない。



「そ、そんな! 生き返らせることはできないのですか!!」


『転生しちゃうとねぇ。彼女は良い子だったみたいだし、結構すぐに転生が可能だったんだよねー』


 善行を積むと転生が早まる的な? 本当にそんな世界があるんだ……転生した身でいうことでもないけど。


『転生すると記憶は消えちゃうからね、きっとそっちの世界のことは覚えてないんじゃないかなー』


 なんて淡々と軽い口調で言うのだろう。いい加減な神様だとは思ったけど、もう少し言い方がないのか。神様にそんなこと期待してもしょうがないけど。


「そんな……」


 ガクリと生気を失っていくルーファスさん。このまま何事もなく終わるだろうか。


「よくわかんないけど、大丈夫ってこと……?」

「いえ、まだ鏡は繋がっています、油断はしない方が」


 クレアさんが少し安堵したような声を出したが、セレーナさんの言うとおりだ。あの鏡が閉じない限り安心できない。どうやったら閉じる? このまま転生の神にはお引き取り願いたいのだが。


『んー、君は……名前は何だっけ?』


「ルーファス、と申します……」


 力のない声でルーファスさんが名乗る。なんだろう、嫌な予感がする。


『ルーファス、ルーファス……ああ』


「ダメだ、止めないと……!」

「やめなさいヴィック、下手に動いたら私たちが死ぬわ!」


 スキルに反応でもあったのか、ヴィックさんが飛び出しそうなのをルースさんが慌てて止めている。レティも、不安そうにルーファスさんを見ている。何かできることはないかと思いながらも、今動いたらダメだという本能的な危機感がわたしの身体を止める。ああもう、どうすれば!


『よし、わかった。彼女に会えるように尽力しようじゃないか!』


「ほ、本当ですか!?」


 神の当然の申し出に、ルーファスさんが目に見えて元気になる。もしかして生き返らせる気? それはそれでダメでしょう! 神様が率先してやっていいことでもないと思う!


『ではルーファス、鏡の前に立ってくれるかい?』


「はい!!」


「待ってお父さん……!」


 嬉々として鏡に近づいていくルーファスさんをレティが呼び止める。その声が届いたのか、ルーファスさんがこちらを見る。正しくはレティを。


「おお、レティシア、共に母さんに会いに行こうではないか!」

「ダメ、ダメだよ……!」


 最後までルーファスさんを拒否したレティ。それを見たルーファスさんは嬉しそうな表情から一変して無表情に変わった。そしてそのまま何事もなかったかのように鏡に向かって歩いていく。それを見たレティの表情を見ていられなくて、ギュッと抱きしめた。

 彼はもう、こちらを見ないまま、鏡の前に立った。


『よし、覚悟はできているね』


「はい! 彼女に会うためなら――」


 ズブリ、とルーファスさんの胸の辺りから腕が生えた。違う、ルーファスさんの胸を腕が突き破っている。


「あ、ああ……」


 こぼれた声は誰のものかわからない。貫かれたルーファスさんか、隣で泣いているレティか、助けられなかったわたしたちなのか。


『肉体は持っていけないけど、魂だけなら持っていけるから、彼女のところまで運んであげるよ』


 ずるりと腕が抜け、ルーファスさんの身体が崩れ落ちる。その手には鈍く光る玉のようなものがあった。


『まあ、君は罪を犯しすぎたから……転生まで一万年くらいかかるだろうけど。それに耐えれば無事に彼女に会えるよ!』


 そう言いながら腕は徐々に鏡の中へと消えていき、姿が完全に見えなくなった。


『他の神に見つかると厄介だからこの鏡は壊しちゃうね。それじゃあ良い今世を!』


 誰に向けた言葉だったのか、それを最後に鏡は色を失い、ヒビが入ったかと思えば粉々に砕け散った。


 わたしたちは何もできないまま、今回の事件は終わりを告げた。











 ――10年後











「久々ね。この国に来るのも」

「うん、すっかり元通りだね」


 わたしたちは今マルセール国に来ている。10年前に一度訪れたっきり、一度も来られなかった場所だ。

 あの日壊されてしまったコンテスト会場は何年か前に元通りに直された。でも、嫌な思い出が蘇るこの場所に再び来ることはできなかった。

 10年。レティシアの心の傷が癒されるのに必要だった時間だ。わたしとしては、レティが嫌なら二度と来なくてもいい場所でもある。

 でも、レティからここに来たいとの申し出を受けたのだ。それならと今日は来た次第である。ここに来た目的は一つ。


「あの時は途中でコンテストが中断しちゃったけど、今度こそシュガーが優勝する瞬間が見られるね!」

「ううん、期待が重いわね」


 あの日、何もできないままだったわたしたちは自分たちの弱さを実感した。だからこの十年であらゆる強さを得ようと旅に出た。たくさんの出会いと別れと、強敵との戦い。それらを一つ一つ共に乗り越えて来て、今日この場に戻って来た。


 二十歳を超えたレティは美人で綺麗な大人の女性に成長した。わたしは大して変わっていない。さすがにこれ以上身体が大きくなっても嫌だけど。必要になったらスキルを使えば大きくなれるからいいの。


「美人コンテストでもあればレティが出れるのに」

「嫌だよ。何言ってるの」


 わたしのことはコンテストに出すのに……。



「あとでヴィックさんたちにも挨拶に行かないとね」

「見に来るって言ってたものね……」


 ヴィックさんたちも元気にしているだろうか。あの後あの人たちも武者修行の旅に出て行った。前に会ったのは何年前だったか。強さと熱血とハーレムは健在だ。





「コンテスト優勝したら次はどこに行こうかな?」

「気が早いわよ。まだ始まってもいないのに」

「いーじゃない。これから先も長いんだから」


 長寿のエルフに魔物のわたし。ふたりの旅はこれから先も続いていく。輝かしいだけの未来じゃないだろうけど、きっとふたりなら毎日楽しく過ごせるだろう。


 レティに会えてよかった。これからもよろしくね。




更新が滞りなかなか完結しませんでしたが、最後まで見てくださった方、本当にありがとうございました。


新しい小説を投稿しました。同じく転生物ですが。

「勇敢な物と呼ばれた私」もどうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ