34 反省会と今後
ようやく模擬戦が終わりました。
「死んだかと思った」
「Aランク怖い」
「はっはっは! やりすぎてしまったな!」
模擬戦を終えて、休息と治療をする。
怪我がひどかったのでポーションをもらった。返しきれない恩が増えていく。
向こうもそれなりに傷ついている。この実力差を考えればなかなかの善戦だろうか。
「いい勉強になりました」
「それはよかった!」
本当に有意義な模擬戦だった。これからも頑張ろう。
「それで、あんた大丈夫なの?」
ルースさんが聞いてくる。おそらく闇魔法のことだろう。
「平気です」
「まさか模擬戦で闇魔法を習得するなんて…」
「まあ、予想はしてたんですけどね」
予想通り習得して、予想通り…正気のままだった。ちょっと飲まれたけど。
「私のせいですね。申し訳ありません」
「いえ、大丈夫ですよ」
セレーナさんが謝罪するが、そんなものは必要ない。模擬戦だし、大方の予想通りだったから。
「シュガーは狙ってやってたから」
「は? どういうことよ」
ルースさんが聞いてくるので答える。
「ええっと、気を悪くしないでくださいね。わたし、エルフがあんまり好きじゃないんです」
「そうなんですか?」
エルフは好きじゃない。あのルテラの森での一件依頼、エルフに対する偏見のような嫌悪感がどうしても拭えない。しばらく付き合っていけばそんなものは無くなるんだけどね。
「レティは別ですし、セレーナさんのことも好きですよ。でもエルフにちょっと恨みがあって」
「もしかしてわざとレティシアとセレーナを当てたの?」
作戦タイムのときに、レティに提案した。
優しい四人のことだ。レティにあてるのはセレーナさんだけだろうと思っていた。だから、そのまま魔法対決をしてもらうことにしたのだ。
それでレティが怪我をした場合、わたしはおそらく闇魔法を習得するだろう。だからそれを防がずに、そのまま習得してしまおうと。
レティはわたしを心配して渋っていたけど、闇魔法を習得した後に理性を飛ばしてしまったわたしを止めてくれる人達は、あの四人が一番いいとわかっていたから、了承してくれた。
これはレティが怪我をすることを前提にした話だ。だからレティに申し訳なかったけど、レティ自身もあの人達を相手に無傷勝利は無理だとわかっていたから、構わないと言ってくれた。
…できれば怪我なんてさせたくなかったけどね。だからって別に手を抜いたわけでは決してないけど。
「きっと、見ただけで理性を飛ばせるだろうし、ダメだったら止めてくれる人達がいたので、今がいいだろうと思って」
「あれだけで憎悪に駆られるんだから、いつか習得してただろーね。あの時が一番よかったのかも」
「僕たちまで利用するなんて、なかなか強かだね!」
「信用してるんですよ」
わたしもレティも、この人達を大分信頼してきている。だから、あの時が一番よかった。
「そういえばクレアさん大丈夫でした?」
「大丈夫じゃないよ! すごく怖かったんだからね!」
そういえば投げ飛ばしたなあと思い出し、尋ねたら怒られた。
だって。
「グサグサ痛かったし…」
「そ、それは仕方ないじゃん…しかもセレーナちゃんの受け止め方もアレだったし…」
「それ以外に方法がなくて…申し訳ありません」
「酔いそうな受け止め方だったわね」
「吐くかと思ったよ」
やっぱり酔うよね、あれは。しばらくうずくまってたもんね。
「レティシアのスキルは鑑定だったのね」
「うん」
「便利ですね」
レティが鑑定を使えるから利用したことないけど、普通は鑑定屋というお店で鑑定を依頼するんだとか。安全面を考えて冒険者ギルド公認か商業ギルド公認の鑑定屋を使うのがいいそうだ。
「鑑定持ってれば鑑定屋に行かなくて済むから楽そうだねー」
「ダンジョンで何かを手に入れた後は大抵鑑定屋に行かないと行けないしね」
そう考えると鑑定持ちってかなり便利よね。無駄にお金使わなくていいし。
「でも全くいかないと鑑定持ちだって思われるから困らない程度に行っておいた方がいいよ」
「そっか」
確かにそうね。まあでも、いつかダンジョンにでも行った後に行ってみればいいわ。
「それにしても、本当に能力が上がったんだな! 闇魔法を習得した前と後では動きが違ったぞ!」
「そうですね。全体的にレベルが上がりました」
「すごく強くなったよねー」
四人からしても強くなったと感じたようだ。鑑定で見ても魔法やスキルのレベルは上がっていたし、なんとなく前より身体が軽くなったように感じるから、身体能力も上がっているかも。
「尻尾4本はきつかったな!」
「あれすごかったわ。避けられないかと思ったもの」
「むしろどうやって避けるんですか?」
「経験則」
「さすが」
経験って大事ね。そればっかりは近道できないことだ。
「最後のはどうやって防いだんですか?」
「ナイショです」
セレーナさんがお茶目に返す。そんな一面もあったのね。
「ふふ、でも魔法は魔力を籠めれば籠めるほど強力になりますよ」
「そうなんだ」
そういえば籠める魔力量に関しては考えたことないかも。使えればいいってわけじゃないよね。今度試してみましょう。
「セレーナのはあんまり基準にしないほうがいいわよ」
「別に嘘は言ってませんよっ」
ルースさんの注意にセレーナさんが言い返す。仲いいな。
でも、あの反則的なスキルがあるもんね。確かに基準にはしない方がいいかも。
その後も反省と感想を言い合っているうちに、日が暮れたので王都に戻った。
その日の夜、レティと二人で反省会だ。
「良かった点は?」
「シュガーが正気だったこと」
「そうね。レティはちゃんと攻撃を避けていたことね。魔法を使うタイミングもよかったわ」
「うーん。でも当たった」
「わたしが前衛で頑張れればいいんだけどね」
後ろに攻撃を行かせないようにするのが一番いい。でも、わたしの技量では複数の相手だとレティにまで気を回せない。並列思考をもっと使えるようになったらできるかな?
「次に何が悪かったかしら」
「レティの魔法はセレーナさんに歯が立たなかった」
「あれは仕方ない気もするけどね。セレーナさんのスキルは反則だわ」
なんだ魔法攻撃力倍増って。チートか。
「シュガーは闇魔法に頼ったことだと思う」
「返す言葉もないわ」
あれは危険な賭けだった。成功すると思っていたとはいえ、いろんな人に心配をかけてしまった。そういえば闇魔法を習得した後って何か起きるのかな? いろいろ検証しないとダメね。
「それを踏まえて、今後よね」
「レティがもっと強くならないとダメだと思う」
「そうね。でも、レティなら強くなれるわ。もっと魔法のレベルを上げましょう」
「うん。でも他にも何かほしい」
「うーん…」
何がいいだろう。近接戦闘を覚える?
レティの身体能力ならまあ、できなくないと思うけど。
「武器を使ってみる? そうなると物によっては身体を鍛えないといけないけど」
「んー…剣とか?」
「レティが剣か…」
剣を振り回すレティを想像する。格好いいけど、なんかこう、現実味がないわね。主に筋力量的な問題で。
レティってまだ11歳なのよね。
「難しい気もするわね。何も近接戦闘じゃなくてもいいと思うけど。わたしが前衛なんだし」
「うーん…遠距離攻撃でもいいのかな」
「レティが気に入ったものが一番でしょ」
飛び道具でも全然良いと思うのよね。魔法以外に拘るなら。
「何にせよ、早めに始めるのはいいことだわ。今度冒険者ギルド主催の戦闘指南講習にでも行ってみよっか」
「うん。いいかも」
詳しく話を聞いていないから、明日にでも聞きに行こうかしら。
「今すぐ力を得るのは難しいわ。それこそ闇魔法を習得するくらいしかないし。レティには覚えてほしくないし」
「うん。わかってる。他にも何かあるかな」
「あとはあれね…スキルとか」
「ダンジョン…」
実は後天的にスキルを得る方法があったのだ。なんとルースさんのスキルはそれで手に入れたらしい。
かなり条件が厳しい上に、確実じゃないんだけども。
「Cランク以上のダンジョンの最深部に到達、ボスを倒し、適正があればスキルが貰える…かもしれないと」
「難しいね」
この方法でスキルが手に入るらしいが、この適正というのがネックだ。
複数人でダンジョン攻略をした場合、その内の一人にしか与えられない。
適正についてはわかっていないが、攻略に一番貢献した者に与えられるのではないかと言われている。
昔、スキルを手に入れようとした貴族がありったけの兵士とともに強行突破したみたいだけど、スキルを得ることはできなかったそうだ。その攻略に参加した兵士も含めて。だからまあ、攻略すれば必ずってわけでもない。
このCランクというのは、現在スキルが得られるダンジョンだと判明しているもので、一番ランクが低い場所がCランクというだけだ。Cランク以上のダンジョンなら必ずあるというものでもない。
「まあ、まだまだ先よね。ランクが足らないし」
「うん」
「あとは、レティが派生魔法を覚えるかどうかね」
派生魔法というものがある。2つ以上の魔法属性に適正があり、ある程度レベルを上げていれば派生魔法を覚える…って感じ。もちろんその派生魔法に適正が無ければ覚えないけど。
「エルフだから可能性があるんじゃないかと思ったんだけど、セレーナさん覚えてなかったわね」
「うん。あんなに強いのに」
レティなら氷魔法を習得できる可能性がある。まあ、これも先の話だ。
「この前見た魔法力を上げる指輪とか、あの辺の武器を手に入れるのもいいわね」
「お金稼ぎと、レベル上げ。それから新しい戦い方を探す」
「目下、講習と何かしらの討伐依頼かしらね」
「うん」
結局、やれることは少ないわね。地道に行きましょう。
「じゃあシュガー、これしよっか」
レティがアイテム袋からある物を取り出す。
「え…いいの? 疲れてるでしょ?」
「シュガーたくさん頑張ったからね。こっちおいで」
「…じゃあ、変化しておくわね」
「うん」
悪いなあと思いつつも、あの気持ちよさには抗えない…。
「気持ちいい?」
「ふあ~そこいい」
「すごいこんなに…」
「そんなマジマジと見なくても…」
これ本当に気持ちいい…レティも上手くなったなあ…。
ブラッシング。
「毛がゴッソリ抜ける」
「最近してなかったからね~」
わたしの毛は冬毛とか夏毛とかっていうほど変わったりしないんだけどさ。それでもたまにこうしてブラッシングすると結構抜ける。
これがまた気持ちがいい。スッキリするし、毛並みが良くなるし。
さすがにいつもの大きさじゃ大変だから、スキルでサイズを小さくしている。元に戻してもそれなりに綺麗なままなので大丈夫。大きいままやる時は外でやらないと、抜け毛が部屋に溜まって困る。
「うん、綺麗になったよ」
「ふふ~ありがとうレティ。スッキリしたわ」
仕上がりに満足したのか、レティはわたしをモフモフなでなでしてくる。くすぐったい。
しばらくそうしていたが、レティが小さく欠伸をする。
「ふぁ」
「お疲れ様レティ。もう寝ましょう」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
さすがに疲れた。ゆっくり休んで、明日からまた頑張りましょう。
閲覧ありがとうございます




