35 講習会
「講習会に参加したいんですか?」
「詳しく聞いてから」
「わかりました。ご説明いたしますね」
昨日言った通り、冒険者ギルドに来た。
イルゼラさんに戦闘指南講習会についての話を聞かせてもらう。ちなみにわたしはいつもの姿で同行している。
要約すると、予約制、参加無料、場所はギルド所有の闘技場。
指南役はCランク以上の元冒険者もしくは現役冒険者、だそうだ。
予約制はわかるけど、無料でできるんだね。
「お金かからないの?」
「はい。基本的に、この講習に参加されるのは子どもが多いんです」
どうやら、孤児院の子どもが冒険者になることが多いのだが、戦闘に関する知識やら何やらが全くないせいで死亡率が非常に高いらしい。
そういうのを一人でも多く減らせないかと考えた結果、この講習会が開催されるようになったんだとか。
子どもを対象にしてるなら、受けてもらうのにお金もらえないよね。そんなお金ないから冒険者になるんだろうし。
孤児院の子どもの働き口って冒険者くらいしかないんだってさ。
孤児院を経営している貴族たちも生活は保障しても働き口まで面倒みてはくれないらしい。
「もちろん、大人の方の参加も歓迎しております」
「冒険者登録してないと参加できない?」
「いえ、登録してなくても参加可能ですよ。ひとまず武器を持ってみたら自分には無理だとわかったって人、意外と多いので。そういう人のために登録してなくても参加可能なんです」
まあ、意外と小心者だったりしたんだろうね。生き物を殺せない心優しい人もいるでしょう。そういう人は無理だ。
「参加したい」
「わかりました。レティシアさんの参加予約をしておきます」
「それからもう一人参加したい人がいるんだけど」
「今日こちらには来てないのですか?」
「来てない」
言わずもがな、わたしである。
せっかくなのでヒト型で参加しようと思ったのだ。冒険者登録してなくても参加できるなら、わたしも大丈夫なはず。でもやっぱり姿見せなきゃダメかな?
本当は今日ヒト型で来ようかと思ったんだけど、シュガーがいないって説明するの大変だなと思ってやめた。イルゼラさんわたしが喋るの知ってるし、レティの保護者的存在だと思ってそうだから、いないとなると怪しいかなって。レティ一人で冒険者ギルドに行かせるのが不安というのもある。
講習会当日はまあ、なんとかなる。
「来ていなくても大丈夫ですよ。その方のお名前をお願いします」
「シュアリー」
あらかじめ決めておいたわたしの偽名だ。スキルについてバラせない以上、偽名は仕方ない。
「ではレティシアさんとシュアリーさんの参加予約をしておきますね」
「うん。お願いします」
「開催は三日後になります。詳しい内容はそちらの貼り紙にしてありますので、よければ見ておいてください」
「わかった」
「あ、それと別件なんですが」
「?」
貼り紙の方へ行こうとしたらイルゼラさんに引き留められる。なんだろうか。
「昨日王都から西の方で何かしてました?」
「ヴィックさん達に模擬戦してもらった」
「やっぱりそうですか。騒音というか、何事かと騒ぎになったので、今後は気を付けてくださいね」
ああ~。確かにあれだけ大暴れしたら何事かと思われるよね~。
「なんでレティ達だって知ってるの?」
「ヴィックさん達がいらっしゃって説明してくれたからですよ。もちろんお二人のことはあまり話されませんでしたが」
どうやら昨日、王都に入って別れた後ヴィックさん達は冒険者ギルドに来たらしい。そしたらギルド内が騒がしかったので理由を聞いたら自分たちのことだと知り、説明をしたと。
これは今度会ったらお礼を言わないといけないわね。
「ヴィックさん達と模擬戦なんてすごいですね」
「歯が立たなかった」
「あの人達強いですからね」
「だからもっと強くなる」
「それで手始めに講習会ってわけですね」
講習会で何か強くなるキッカケでも得られたらいいな。
いつかあの人達と再戦したい。そのためにはもっと強くならないとね。
その後イルゼラさんの受付を後にし、貼り紙の見に行く。
詳しい時間と場所が書かれている。でも持ち物は特にいらないみたいだ。武器が決まっている場合は持ってきてもいいが、当日はギルド側で貸し出しをしてくれるらしい。
武器らしい武器は持っていないから、助かるね。
三日後までは日帰りできる依頼でもこなして過ごそうかな。
「そういえば、試したいことがあるのよ」
「何?」
「こいつらに試すから任せてくれる?」
「いいよ」
今日は魔物狩りに来ている。討伐とも言う。
目の前にはゴブリンが数匹。
「よし…。死の威圧」
瞬間、わたしから黒いオーラのようなものが漂う。そんなわたしを見たゴブリンどもの様子がおかしくなる。
口から泡を吐いて倒れるもの。武器を振りまわしながら暴れまわるもの。歯をカチカチ鳴らしながら震えているものと様々だ。
魔法の行使をやめたが、ゴブリンどもの様子は変わらないままだ。
「便利ねー。レティはどう? 大丈夫? 嫌な感じとかはした?」
「ううん。なんともない」
どうやらレティに影響は出なかったようだ。対象を選べるってことかな?
それなら使っても大丈夫ね。もしレティにも影響が出てしまったら一生使わなかったわ。
「せっかく強そうな魔法なんだもの。どんどん使いましょう」
「シュガーは平気なの?」
「別になんともないわね」
あの時のように憎悪に飲まれるといった感覚はない。一度覚えてしまえばこっちのもの的な?
闇魔法は便利ね。早くレベル上げたいわ。
その後も狩りの度に闇魔法を使った。特に精神に異常とか起きなかった。
ああいう、憎悪に飲まれるのは習得のときだけなのね。安心した。
そしてギルドで説明を聞いてから三日後。そろそろ雪がちらついてきた今日この頃。
ヒト型のわたしとレティはギルド所有の闘技場に来ている。
「結構大きいのね」
「頑丈そう」
大きなドーム状の建物は、そこらの建物に比べたら随分頑丈な作りに見える。ちょっとやそっとじゃ壊れないだろうな。ここは何のためにあるのかしら。
「ここを使って催し物とかがあるんだっけ?」
「確か剣術大会とかあるらしいよ。騎士になる人が出るやつ」
ああ。そんなのがあるって資料を見たことあるな。優勝すると騎士になれるってやつ。騎士になんて興味ないから忘れてたわ。
開催はもっと先だから見ることもできないわね。
ていうか、冒険者ギルド所有なのに騎士の大会っていいの?
貸し出ししてるのかな。
「とりあえず、入りましょうか」
「うん」
中に入るとすでに参加者が集まっているようで、皆思い思いに過ごしている。
でもそんなにいないね。5人くらいしかいない。わたし達含めて7人か。
しかも男しかいない。
年はみんな10代くらいだろうか。レティよりは年上っぽいけど。前世で言えば高校生くらい? そこまでいかないかな? まあ、前世にあそこまでムキムキの男子高校生はいなかったけど。
指導役はまだ来ていないようだ。
闘技場の中にはカラス避けみたいな的から、案山子みたいな的までいろいろ並んでいる。あれを使うんだろうな。
「これで全員なのかな」
「そろそろ時間だし、そうかもね」
ふたりで話していたら、男? 男子? が三人こっちに向かってきた。
「おい!」
「ああ?」
なんだこのガキは。
わたしがガンつけたら驚いたらしい。次の言葉が出てこない。
レティがわたしを落ち着かせる。
「シュ…シュアリー、落ち着いて」
「ごめん。何か御用ですか」
いかんいかん。闇魔法を習得した後から、なんだか怒りやすくなったかも?
闇魔法を使っても問題ないけど、普段のイライラの沸点が低くなってる?
いや、いきなり偉そうに声かけられたら怒るよね普通。うん。
「こ、ここに何しに来た」
「講習会受けに来たけど、それが何か?」
三人の内一番偉そうにしているやつが聞いてくる。
何を当たり前のことを。
「ここは女やガキが来るところじゃねえ!」
「指導官が女だったらどうすんだこいつ」
思わず本音が漏れた。
女が冒険者になっちゃいけないんか。
「そ、そんなはずない!」
「そうですか。お話はそれだけですか」
早くどっか行ってくれないかな。
後ろに立ってるモブ共も見下したような目つきしてる。殺したくなる。
「ふざけんな! 帰れ!」
「なんで?」
何故そんなことを命令されなければいけないのか。
むしろお前が帰れよ…わたしがキレてお前が死んでも知らんぞ?
「俺たちは本気でやってんだよ! 女なんて冒険者舐めてるやつばっかりだ! そんなやつは早死にするだけだ! さっさと帰れ!」
こいつたくさんの女性冒険者を敵に回したぞ。
この世界にも男尊女卑ってあるんだね。いや、こんな世界だからこそなのかな?
「おい、お前やめろよ。みっともない」
こっちの様子をうかがっていた残り二人の男子の内の一人が止めに来た。
「なんだお前! 女の肩持つのか!」
「冒険者に性別は関係ないだろ。つーかお前知らないのか? あの熱誠のヴィックさんのパーティはヴィックさん以外全員女性だぞ」
「は…?」
え、もしかしてマジで知らなかったのか。超ハーレムだぞ。
まあ、あの人達あんまりそういうのなさそうだけど。ヴィックさん色気より食い気って感じだし。
「う、嘘だ!」
「信じないのは自由だけど、お前より強い女性冒険者はいっぱいいるぞ。お前が恥ずかしい思いをするだけだから、やめとけ」
こっちの男子は大人っぽいな。背も高いし身体も引き締まっている。真剣に冒険者目指してるのがわかる。
「くそ!! なんだよそれ!! 見損なったぞ!!」
勝手に幻想抱いて勝手に失望とか、せわしないやつだなあ。
ヴィックさんに憧れでも抱いてたのかな。まあ、勇者みたいな人だもんね。憧れの的でしょうね。
「お前ら知ってたのか!?」
「い、いや、知らなかった」
「お、俺も」
後ろに突っ立ってたモブ共が答える。喋れたのね。
一応助けてくれた男子にお礼を言う。
「ありがとね」
「いや、大したことじゃない。俺はカールだ。お互い頑張ろう」
「そうね、頑張りましょう。わたしはシュアリー」
「レティシア」
わたし達も自己紹介をしたところで、闘技場のドアが開いた。
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