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憤怒の代行者  作者: KKSY
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035 謎の人物(笑)

 物語を書くときって、最初に書きたい設定が思い浮かんで、ラスト考えて、それから最初を、て感じなので。枠組みだけあって中身が無いような、そんな書き方なもんで。


 うん、その内細かい設定を忘れそうって言う、どうでもいい作者事情です。

 火山の中腹にある温泉街は、テラリウス王国の観光地である。

 世界各国から観光客が訪れ、少ない割合で湯治目的の客も居るが、些細な誤算でしかない。


 問題としては、他文化による文化的衝突が頻繁に起こる程度。


 やれどこの宗教はだの。やれどこの国はだの。やれどこの派閥はだのと下らないいさかいを繰り返している。


 無事街に入れた魔王様が、そんな場面に遭遇して取る行動といえば、


「邪魔」


 当然のように道の脇へと蹴り転がし、けろりとした顔で大通りを歩いていく。斜め後ろに控えるキャンは涼しげで何も気にしていない様子。対して、こそこそと肩を竦め「俺は他人俺は他人」などと呟きながら追従する少年のなんと情けない事か。


「こっ、の! いきなり何しやがるッ!」


 蹴り転がしたふたりの内片方の男が魔王様に掴み掛かる。


 赤黒のボロマントを無作法に握られた事に対し眉をしかめるが、それ以上の不愉快は覚えなかった。


 男の肌はサンド大陸の特徴的な赤錆色で、叫んだ言語はファスト大陸で使われているものとは異なっている。


 白人の多いファスト大陸では、赤錆色は蔑視の対象である。

 過去に何度も大陸間抗争を勃発させては未だに決着が付いておらず、両国の関係はすこぶる悪い。が、現在は魔王の出現により休戦状態にあり、観光程度なら許されていた。

 けれど、激情的なサンド大陸人と、プライドの高いファスト大陸人との埋まらない溝は依然としてそのまま。

 とあるファスト大陸人の陰口に対し、ニュアンスで侮蔑されたのだと察したサンド大陸人が激怒するのは、自然な流れだった。


「道の真ん中で殴り合うな。迷惑だと知れ」


 仕方なく、使用言語をサンド大陸に合わせる。すると、言葉が通じる事に驚いたのか、男の勢いが多少萎えた。


 男の背丈は魔王様よりも二回り程小さい。それでも鍛え抜かれた肉体は魔王様と大差無く、一見すると、何も知らない者には両名が殴り合った場合どちらが勝つかは分からないだろう。


 サンド大陸は武闘派が集う大陸。力こそが正義を地で行く国ばかりなのだ。

 故に、魔王様の言った「殴り合う」は多少語弊がある。正確には、マウントポジションを取ってタコ殴りにするなが正しい。

 未だにもうひとりが騒ぎ出さないのはぐったりと気を失っているからだ。


「だったらどうしろっつんだ、アアッ!?」


「鼻で笑い、皮肉のひとつでも言ってやれ。ニュアンスで分かるようにな」


「んな器用な事が出来たら苦労はしねぇぞ!」


「ならば舌を出し、自らの尻でも叩いてみろ。相手は相当腹を立てるだろうよ」


「ガキか!?」


「意外と効くのだよこれが」


「やったのか!? お前その面で、その体で、やったのか!?」


 極悪面が恥ずかしげもなく舌を出し、相手に向けて尻を叩く。なんたるシュールさか。


「他にもあるぞ。両頬を圧迫し、唇を尖らせるのだ。これが見事に殺意が沸き立つ」


「された側の経験談かよ! 紛らわしいなオイ!?」


 染々と語り、はて、一体いつの記憶だったかなと疑問符を浮かべる。


 完全に勢いを失ったサンド大陸の男は深く息を吐き、赤黒のボロマントから手を放した。そして、三歩程後退して頭を下げる。


「悪かった、突然掴み掛かって」


「なんだ、そのまま行くのかと思えば存外細かいではないか」


「ハッ! 試合の後は礼をするし、筋の通らねぇ事をしたら頭を下げる。当然だろう。だってぇのにこの国の連中はそこんとこちっとも分かってねぇ」


「そうか」


 自然と、以前に出会った老人の姿が脳裏を過った。あの者は貴族ではなく、どちらかと言うと荒くれ者の類いだった。けれど、周りに慕われ、誰もが付いて行こうという姿勢を示していた。

 細かい気配りが出来なければ、ああもひとは集まらないだろう。


「それはそうと、貴様も折角大陸を渡ってきたのだ。簡単な言語くらいは毛嫌いせず覚えるが吉。なに、心配するな。それくらいの世話は焼いてやる」


「お! そいつぁありがてぇ。俺はミセロラ・ナン・アーデルハイドだ。親しい奴からはロランって呼ばれてる」


「ならばロランと呼ばせてもらうとしよう。魔王だ。短い付き合いになるだろうが、まぁよしなに」


 名乗り合い、ふたりはガッシリと相手の手を握り潰す勢いで握手をし、軽い衝撃波が土煙をあげる。

 いちいちオーバーな武闘派コンビの出来上がりである。


「そっちの嬢ちゃんと坊主はなんつぅんだ?」


 魔王の最後を覗き込むと、そこには掴み掛かった段階からじっとりとした眼差しを向けてくる少女と、野次馬の視線にびくついている少年が居る。前者は侍女服を着込み、安定している呼吸と重心はかなりの使い手と見える。対して、後者の少年は革装備を着けているだけのド素人。周囲の視線に気後れしているのを鑑みるに、小心者なのだろう。


 侍女は、何か困ったように魔王に目をやると、彼は彼女の耳元へ顔を近付けて何事かを囁いた。

 はっ、とする侍女。こほんと咳払いをして歩み出し、ロランの眼前で止まる。

 その一連の動作を、確かに、視線を外さずに、しっかりと視界に捉えていた。


 なのに、気が付けば少女は高く飛び上がり、回し蹴りの体勢に入っていた。腰を大きく捻り、勢いの載った爪先が激烈な勢いでやって来る。


 ギリギリで反応出来たのは、日頃の鍛練の賜物。身体に強化の術式を施し、肉体強度を上げ、総合的な出力を底上げする。

 反射速度、反応速度、筋力の向上に、生命力の向上。そして、思考の加速。


 魔王軍騎士団長を務めるマスキエルの使う魔術式『加速』と似ているが、根本的に違う。『加速』は一秒という時間の中で、数秒、数分と時間を引き延ばす一種の時限に干渉する術式。強化と違い、使い手が限定的で、更に長年の訓練を積まなければ発動と同時に体が木端微塵に吹き飛ぶであろう。


 ロランは、飽く間でも常識の範囲内に居る実力者なのだ。


 バシイィン!! と、乾いた音が温泉街に広く鳴り響く。

 野次馬が唖然とするのは当然として、我関せずを貫いていた者達も何事かと目を向ける。

 そこにはただ、少女の回し蹴りを顔の横すれすれで受け止める赤錆色の外国人観光客が居るのみ。一連の流れを見ていない者は「なんだ」と歩みを再開するも、野次馬はそうも行かない。


 天使の翼でも生えているかの様にふわりと飛び上がり、悪魔のごとき鋭い蹴り。その洗練された動作はまさにひとつの芸術品。自然と、野次馬達は称賛の声を送っていた。


 シュタ、と足を揃えて着地する侍女。ロランは続く第二撃目を警戒するが、予想と反し、彼女はにっこりとした笑顔を浮かべる。


「キャンと言います。よろしくすんなよクソ野郎」


 と、音符でも出していそうな、晴れやかな声音とは裏腹な言葉に青筋を立てる。

 告げられたサンド大陸で使われている言語は調子がずれている。それだけで、理解しておらず、更に使いなれていない事は明白。ならば、第三者による入れ知恵であると考えるのが妥当。


 という事は、つまりはだ。


「変な事吹き込んでんじゃねぇマオウ!」


「ふははははは! 中々に強いではないかロランよ」


「? よろしくすんなよクソ野郎?」


 きょとんと首を傾げて言葉を繰り返す侍女。


「ほら見ろよこれ、まさに無垢! どうすんの!? ねぇこれどうすんの!? お前からちゃんと説明するんだろぉな!?」


「よろしくすんなよクソ野郎!」


「ああもう! それ一瞬イラっとする! どうしてくれようこの苛立ち!」


「当たり散らせば良かろう」


「よくねぇよ!」


 高笑いを繰り返すだけで、取り付く島のない魔王をこれでもかとぐわんぐわん揺らし、どう言葉の誤解を解けばいいのかと頭を抱える。


 その後、一頻りからかって満足した魔王様が侍女に説明し、小一時間の説教を聞き流したのだが、語る程のものではない。


 こうして、魔王様、キャン、ロラン、少年という奇妙な即席チームが結成されたのは、ある種、運命の導きである。世界的に見れば大して意味のない集まり。だが、あるひとりの人物は満足していた。


 フードを深く被った。あるひとりの観光客。荷物と言える物はなく、特徴があると言えば、その地面に付きそうな程の黒鉄の大剣だろうか。

 四人の姿を確認すると、その人物は音もなく踵を返す。

 次の瞬間にはその姿が忽然と消え、周囲の人々は、驚く事なく日常を過ごす。まるで、最初から見えていなかったの様な反応だ。


 事実として、誰ひとり、黒鉄の大剣を持つ人物に気付いていなかった。見えてすら、いなかった。

 黒鉄の大剣、て時点で謎じゃない不具合が発生中。でもなんで? て謎が残ってるからいっか、うん。

 それと、ラスボスの人物設定が固まりました。

 背景と人格が合わなくて苦労しました。

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