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憤怒の代行者  作者: KKSY
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026 プライドの果てに

 魔王様はひとつ小さく舌打ちをする。

 レッドスカイドラゴンの状態は宜しくない。

 防御力の低い赤い龍は、全長二十メートルを超える体を痛々しい姿に変貌を遂げている。

 槍と極太の矢が突き刺さり、砲弾に穴を開けられ夥しい程に流血していた。レッドスカイドラゴンは全身の筋肉を締める事で止血を試み、成功させたのだ。


 体が大きい分、タフではある。が、先程の無理な突撃でダメージを受けすぎている。


 対して、ダンジョンマスター側への目立ったダメージは宝石ひとつ。

 壁を壊した訳でも、モンスターを減らした訳でもないのだから当たり前だ。


 再突撃するには、同じだけのダメージかそれ以上、果ては最悪を想定しなければならない。


 すなわち、魔王様の敗北。


「――」


 そこまで考えて、魔王様は不思議な感覚に陥る。

 不愉快だが、愉しい。

 屈辱だが、たぎるものがある。


 窮地に、苦境に、逆境に打ち震え、燃える闘争心。


「――くく」


 気が付けば、魔王様は不敵に笑っていた。哄然として大声で、腹の底から沸き上がるままに解き放つ。


「くはははははハハあはははハハハハハひひはは――!!!」


 それは満面の笑みだった。

 それは猟奇的な笑みだった。

 それは、深い危険な香りが漂う笑みだった。


 赤い瞳を爛々と輝かせて、聞いたもの全てを潰す重圧感のある声音で、その身から死を連想させるオーラを滲ませて、


 魔王は、獰猛な笑みを浮かべている。


 釣られたように侍女も微笑む。幼さと冷徹さを同居させた蠱惑的な笑みだ。

 レッドスカイドラゴンは怪訝そうに魔王様を一瞥し、ダンジョンマスターを見据えた。殺意にギラつく双眸は殺る気でみなぎっている。


 逆に、ダンジョンマスターはドン引きしている。

 頼みのレッドスカイドラゴンは満身創痍、瀕死もいいところで反撃の手など残っていない。

 だが、そんな状況だからこそ魔王は笑っているのだと理解している。


 不撓不屈の精神を持つ魔王は、逆境に在る絶望の中でこそ輝くのだから。


「そうだよ魔王」


 ダンジョンマスターは静かに囁く。


「この程度のハンデ、この程度の苦境、この程度の相手に、折れる君じゃないだろ?」


 元より遠慮などしていない。

 あの魔王に手加減など失礼だ。殺されても文句は言えない。

 過去に一度殺されて、文句を言ったらまた殺されたのでまず間違いない。


 ……。


「この理不尽の申し子め! 全力で叩き潰してやるから覚悟しろよおー!」


「その意気や良し。行け! レッドスカイドラゴン! 死んでもぶつかって来い!」


 小石程度でも攻撃判定になるから洒落になっていない。

 現状、特攻を防ぐ術がないので、ダンジョンマスター的には絶対阻止である。

 ただでさえ直進特攻を防ぐ為に壁を創ったのだ、上からの大質量などどうしろというのか。ポイントもゼロだし。


 異議を申し立てるように咆哮し、レッドスカイドラゴンは突撃してくる。

 五本の槍に、極太の矢が何本も、砲弾だって体に埋まっているはず。だというのに赤い龍は不屈の精神で激痛を堪え、此方を殺す勢いで飛来する。


「トロール!」


 壁を乗り越えて、五メートル級のトロールがレッドスカイドラゴンと対峙する。


 通常、ダンジョンマスターが創り出した砦はゴブリン百体分では収まらない。レッドスカイドラゴンと同様、倍以上のポイントが掛かる。

 それを、ハリボテの壁や、バリスタや砲弾を有限に、更にはモンスターの能力低下で誤魔化しているに過ぎない。


 バリスタは三発、大砲は一発。

 残弾の数である。


 じり貧なのはお互い様。

 どちらにしろ最後の攻防、出し惜しみなどと勿体振っていたら敗北は必須。


 まずはレッドスカイドラゴンの長い体で巻き付かれ、絞め殺される寸前のトロールをバリスタ一発で救出。

 乾いた音を発しながら放たれる極太の矢を、赤い龍はさっと離れる事で回避する。

 いいようにやられたトロールはその怒りを現すように棍棒を振り上げる。


 筋骨隆々のオーガ(力ゼロ)をトロール(全能力低下)の補助に付かせ、オーク(繁殖力ゼロ)とゴブリン(笑)をバリスタと大砲をいつでも使えるように準備させる。


 棍棒による殴打を意にも介さず、レッドスカイドラゴンの頭突きがトロールに突き刺さる。

 能力が低下していてもトロールの防御力は高い。

 頭突きを受け止め、頭から生えている二本の角を引っ掴み、力任せに赤い龍を振り上げて叩き付ける。


 だが、レッドスカイドラゴンもただでは終わらない。

 叩き付けられる寸前、再び長い体をトロールに巻き付かせた赤い龍は叩き付けの反動を利用しトロールを持ち上げる。

 結果はすぐに分かる。

 轟音と供にトロールも叩き付けられたのだ。


 オーガがすぐに飛び掛かるが、意図も容易く蹴散らされる。


 再起動したレッドスカイドラゴンは消えぬ憤怒を瞳に宿らせギラギラさせているのに対し、トロールの息は切れ切れだ。頭が割れたのか夥しい量の血を流してふらふら状態である。


(あの傷を見るに、心臓のひとつは潰してるはず)


 龍には心臓が三つある。

 それがドラゴン種の強靭さの理由だが、ひとつでも潰されれば大幅な戦闘力の低下に繋がる。


 残っているオーガで牽制し、どうにか作った隙にトロールによる全力の一撃が入るがまるで効いていない。

 が、レッドスカイドラゴンはダンジョンマスターの狙い通りによろける。


「ここだ!」


 大砲が火を噴く。

 レッドスカイドラゴンは紙一重で回避した代償に、二本の角の内一本が根本からへし折られ、宙高く舞う。

 体勢が崩れた所へ更に無理を重ねた赤い龍は立て直す事叶わず地へ激しく身を打ち付ける。


 大きな隙。

 畳み掛けるなら今しかない。


 極太の矢がレッドスカイドラゴンに突き刺さり、心臓を潰した。

 残り一。

 弱々しい咆哮と供に抵抗する赤い龍をトロールとオーガ、オークで押さえ付け、ゴブリンにバリスタの再装填を急がせる。


 力で勝るレッドスカイドラゴンを押さえ付けるには足りず、モンスター達は激しい抵抗に潰される。

 それでも数秒の時間は稼げた。


 バリスタの再装填が終わる。

 レッドスカイドラゴンが壁を越える。

 狙いを定める。

 赤い龍がバリスタの頭上を通過する。


 心臓をふたつ潰され、最初の勢いを無くしたレッドスカイドラゴン。

 事切れる寸前の咆哮は弱々しく、頼りない。

 それでも、ギラつく殺意は一寸も衰えてはいない。


 心臓を鷲掴みにされる悪寒にこめかみから冷や汗を流しながら、ダンジョンマスターは最後の命令を下した。


「放てっ!」


 ――そして、乾いた音が木霊する。

 レッドスカイドラゴンの体に、極太の矢が突き刺さった――

 次回予告で盛大にネタバレするスタイルっていいよね。

 次回!『魔王様大勝利!!』

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