025 レッドスカイドラゴン
先に言い訳の程を。
作者は読んだ小説の描写に強く影響されますのでご注意を。
レッドスカイドラゴン。
ドラゴン種の中では下位の部類で、比較的低ポイントでの召喚は可能。だが、今回渡されたポイントでは到底足りなかったので、そこは工夫していた。
「一体どうやって召喚を……?」
ダンジョンマスターの困惑した声。
優しい優しい魔王様は、ひとつネタバラシをする事にした。
「オプション機能があるだろう」
「あ……っていやいや! 確かにそれなら必要ポイントを削減する事は出来るけど、こんな場面で躊躇なく使うか普通!?」
魔王様は鼻で笑った。
「この魔王が、普通であると、貴様は思う訳か」
「通路関係なく壁破壊しますもんね」
そっとキャンが補足する。
ダンジョンマスターは頭を抱えた。
オプション機能、というものがある。
モンスターの標準能力を設定する機能で、本来はユニークモンスターを喚び出す際に使用されるのだが、今回魔王様は逆の使い方をした。
能力を増やす事で必要ポイントが増加する。ならば能力を減らす事で必要ポイントを削減出来ないか?
結果はこの通り。
空中でとぐろを巻く巨大な赤い龍は退屈そうにダンジョンマスターを見据えている。精悍な蜥蜴顔は歴戦の戦士のようだ。
力と知性、それ以外を犠牲に召喚されたドラゴン。
力があるのは魔王様の趣味で、知性は気品を追い求めたからに過ぎない。
知性無き王者はただの愚者である。
そう説明し、魔王様はゆっくりと腕を大きく、迎え入れるように広げる。
「さあ、策を弄し、思考を巡らし、戦術を試行し、持てる力の全てを以て向かってくるが良い。俺はその尽くを真正面から捩じ伏せて見せよう」
悪魔の様な微笑みの中に、ぶれる事のない優越感が混ざっている。それは、自分が絶対に負けない自信の現れである。
不撓不屈の精神を持つ魔王様。
喩え絶対的な力量差が有ろうと、彼が屈する事はない。
「――くく」
ダンジョンマスターが笑う。喉の奥でくつくつと笑い、厭らしく歪んだ目で魔王様を見据えた。
「力と知性、て事はさ。防御力とか体力も犠牲してる訳だ」
「うむ。それがどうした」
肯定。魔王様は躊躇いなく肯定する。
どうしてそんな分かりきった事を確認するのか理解出来ないといった様子で、先を促した。
「全ポイント使って、たった一体召喚して、じゃあさ」
唇の端を吊り上げて、くつくつくつくつ笑いながら、ダンジョンマスターは勝利宣言をする様に天を仰ぎ見る。
「それぶっ倒したら終わりじゃ~ん!」
「お?」
何かが癪に障ったのか、レッドスカイドラゴンが瀑布の勢いで飛び出す。そのまま重厚感のある音を響かせて、ダンジョンマスターに体当たりをした、瞬間に赤いフィールドに戻されていた。
ダンジョンマスターは当然のように無傷。しかし、台座の宝石の輝きがひとつ消失していた。
攻撃を肩代わりして砕けたのだろう。
「おいおい、不意打ちはないでしょ」
呆れた様子のダンジョンマスター。脱力したように肩を落とし、背中を軽く丸めていて姿勢が悪い。
そんな彼を、魔王様は鋭い視線で射抜く。
「貴様、ひとつ説明を忘れているようだが、弁明があるのなら聞こう」
言いながら、先程何故わざわざ中立地帯から攻撃してきたのかに納得する。
台座の宝石が割れた際、敵対勢力のモンスターを強制的に排除する。効果としてはそんな所だろう。
逆に、そうでもしなければゴブリンアーチャーの放った矢のように、一瞬で勝負がついてしまう。連続攻撃など許したらそれこそすぐに終わるだろう。
考えてみれば当たり前だが、ここを説明から省いてフェアとは、笑わせる。
実に不愉快だ。
「ない。普通に忘れてた。ごめん」
深々と腰を折っての謝罪。
依然として魔王様の視線は厳しいが、それもすぐのこと。ひとつ瞬きすると元に戻っていた。魔王様としても、不快感は無くならないが、長々と引き摺る気はなかった。根には持つが、あからさまに表へ出す程魔王様は子供ではない。
(気付かなかった俺にも非はある)
そういう事である。
「さて、じゃあ仕切り直しと行きましょうかねえ!!」
大地が揺れて、地響きが鳴る。
地面からせり上がるは砦。
分厚い壁が伸び、門が堅く閉ざされる。
屹立する塔が立ち並び、バリスタや大砲が設置されている。
そして召喚されるモンスター群。
ゴブリン、オーク、オーガ、果てはトロールまでもが砦に蔓延る。
ダンジョンマスターは不敵に笑う。
「さっ。歓迎の準備は整ったよ。残ったポイントを全部注ぎ込んで創った砦。レッドスカイドラゴン一体で攻略できるとは思わないで欲しいな!」
魔王様は赤い瞳を爛々と輝かせながら、哄笑混じりに応える。
「ならば行かせて貰おう。貴様は、この魔王を歓待し切れるかな?」
応じるように、レッドスカイドラゴンが咆哮する。大気を激しく震わせる龍の咆哮には、相手の意志をへし折る重圧感がある。
だが今回、砦がある安心感からかゴブリンすらも戦意を保っている。
忌々しく思ったのは魔王様だけではない。矜持を傷つけられた赤い龍は、弾かれたように突貫する。
空中を泳ぐ赤い龍。
迎え撃つは極太の矢と砲弾。
引き絞られた大型弩砲が乾いた音を発し、大砲が轟音と共に火を噴く。
幾つかは魔王様を狙っていて、龍を回避させればそのまま攻撃は魔王様に突き刺さり、宝石が砕けてゲームセット。
魔王様は慌てる事なく悠然と命令を下す。
すなわち、
「往なせ」
赤い龍はひと鳴きし、命令に従う。
その長い体を捻り、極太の矢を一度避け、側面から鱗に覆われた体をぶつける。これだけでバリスタの矢は簡単に逸れる。
次の砲弾も似たようなものだ。
自らの赤い体をそっと砲弾に寄せ、軌道を僅かに滑らせた。
たったそれだけの動作で全ての脅威を魔王様から逸らしたのだ。
知性が無ければ不可能だっただろう。
後は単純、かわすだけ。
幸いな事に魔王様が使役するモンスターはレッドスカイドラゴン一体だ。自身に向かってくる攻撃のみを対処するだけで、余計な存在に意識を割く事もない。
回避してもなんの遠慮もないのであれば、かわすだけの作業だ。
龍としても苦ではない。
大蛇のような長い体は機動力に優れ、その関係で的も小さい。
尾の方まで注意を向けなければならないが、自分の体だ、問題はない。
今はただ、あの気に食わない野郎にぶちかませばいい。
レッドスカイドラゴンの瞳には、激烈な怒気が宿っている。
ダンジョンマスターはレッドスカイドラゴンが素直に命令を聞いた事に愕然としていた。
ドラゴン種は意志を持ち、ダンジョンマスターの命令に従わない傾向が強い。
彼自身、過去に喚び出した事はあったが、どの個体もロクに命令を聞かずに死体となった。
今回も、赤い龍が勝手に行動した事から魔王の命令を無視するとばかり思っていた。
だが、蓋を開けてみればご覧の有り様。
戦術を以て地の落とそうと目論んでいたのに台無しにされた。
これは――
これは、久々に血湧き肉躍る対戦だと深い笑みを浮かべる。
青いフィールドに侵入するレッドスカイドラゴンに、地面から飛び出した槍が突き刺さる。
一本ではなく、五本。
太さは通常の槍程度で、赤い龍の鱗を貫通しているがダメージ自体は少ない。
だが、動きを制限された。
蛇のような動きで空中を泳ぐ関係で、レッドスカイドラゴンは移動する際には身をくねらせている。
槍が突き刺さった事で、体を動かす度に激痛が走るだろう。
普通なら、痛みで行動を阻害され、ロクな抵抗も出来ずになぶり殺される流れだ。
普通、なら。
「ぶちかませ!!」
魔王様の怒号に続くようにして、レッドスカイドラゴンの咆哮が轟く。
砦の壁を飛び越えて、眼下から放たれる極太の矢や砲弾の一切合切を無視し、ダンジョンマスター目掛けて体当たりをぶち当てる。
ダンジョンマスターが乗る台座のふたつ目の宝石が砕け、赤い龍は魔王様のフィールドまで強制的に戻された。
プライドの高いドラゴン種が、覇気の欠片もない人物に従うかと問われるとNOである。




