027 魔王様、大勝利!!
今更なんですが、章タイトルに意味はあんまりないです。(強いて言えば魔王様とか勇者とかが付いてない回は真面目)
「断る。こんな勝利など要るか。倍額にして突き返してやる」
「突き返されても困るんだなー、これが。こっそり魔術式仕込んじゃってあるから」
「要るか要るか要るかーーー!!」
「嗚呼、魔王様が駄々っ子に……」
結果から言うと、魔王様は勝利した。
レッドスカイドラゴンは地に沈み、敗北を待つだけかと思われた魔王様だが、そこには置き土産があった。
赤い龍のへし折れた角。宙高く舞い上がった角。誰の目からも離れていた角。
その角が、こつんと、ダンジョンマスターに当たったのである。
反応する宝石。砕ける最後の宝石。
結果だけ見れば魔王様の完全勝利なのだが、当の魔王様は気に入らない様子。
最後の最後でレッドスカイドラゴンの体当たりが決まれば大満足だったであろうが、残念な事にそう上手くはいかない。
復活したレッドスカイドラゴンも「なんか文句でもあるのかアァン?」とばかりに魔王様に巻き付いては投げ飛ばされている。
ダンジョンマスターが言うには、フィールド自体に魔術式が施されていたらしく、魔術名は『嘘ついたら針千本』。
約束を違える事が出来なくなる効果。
魔王とダンジョンマスターが行っていたゲームを、ダンジョンマスターは戦争ゲームと評していた。
ゲームとは言え戦争。故に、ふたりは勝利した後の報酬について話をしなかった。
負ければ全てを失う。ただそれだけのゲームに説明などは要らない。
尤も、勝利した魔王様は文句を言う為にレッドスカイドラゴンを復活させただけで、マスター権限をダンジョンマスターに返しているが……ご愛嬌である。
「ぐぬぬぅ。まぁ良い、良くはないが良い」
「どっちなんだい」
「貴様には我が魔王軍の訓練所を創って貰いたい。今や魔族は数も少なく、練度も低いのだ」
「成る程、ダンジョンを利用して擬似的な演習をしたいんだね?」
「そういう事だ」
そこで、ダンジョンマスターは困った様に苦笑いを浮かべた。
「うーん。手を貸したいのは山々なんだけど、それにはひとつ問題があってね」
「ポイントか」
「うん。ダンジョンポイントは、まぁぶっちゃけちゃえば便利だけど不便なものでさ。ポイントさえあればまず出来ない事はない、けど溜めるのに手間が掛かる。魔王の迎撃とさっきのゲームに、この部屋の創造と魔術式。ここ百数十年溜め込んだポイントの全てを吐き出しちゃったんだ」
「迎撃と言えば貴様、何故敵対したのだ? 脅されているとは聞いたが」
「あぁ~、敵対した事には大して意味ないんだけど……。うん、本人と話した方が早いかな」
「お? 天使との御対面か~、胸が躍るな!」
「うむ。抹殺対象がこの先に居ると思うと気が逸るな、バグングよ」
「さらっと受け入れないでください魔王様!」
キャンが堪らず喚く。
いつの間にやら何気無く環の中に参加している老人。
意識を失い、外へと弾き出された筈のバグングが居る事に遅れて気が付く魔王様。
そして、大して気にする事なく話を進める。
「いやそこは気にしましょうよ。あの落下空間をどうやって降りて来たのかとか」
「あれはこっちでループするよう仕組んだだけ~。そういえば解除してたね」
「うわっ、あっさり」
そんな無体なやり取りをしている侍女とダンジョンマスターは置いておき、魔王様は老人を見つめる。
「いやん、そんな情熱的な瞳で見ないで魔王様~」
身をくねらせるバグング。魔王様の視線が絶対零度になった。
流石に気色悪い事を自覚するのか、バグングは何事もなかったかのように咳払い。仕切り直してもう一度。
「どうした魔王。俺は妻一筋って心に決めてるんでな。お前さんの想いにゃ応えられねぇなあ」
バグングはぶっ飛ばされた。
「老骨に鞭打つんじゃねぇ! おーイテテ」
「全身鎧にフルフェイス被って受け身を取る老人など知るか。重量幾つだバカ者」
元から衝撃を逃がす作りになっていたとしても背中からの強打を受け切れる訳がない。
そんな考えの元、魔王様はバグングを背負い投げ。
派手な音を立てて受け身を取る金属鎧を纏った老人。
魔王様は理解した。
バグングが異常なのだと。
「この老人は化け物か……っ」
「魔王様が言わないでください」
「魔王がそれを言うなよな~」
「お前さんには言われたくねぇ」
何故か総ツッコミを受けた。
解せぬ。
話は進み、老人バグングの存在は受け入れられた。と言うよりも、魔王様が強引に捩じ込んだと言う方が正しい。
こうと決めたら梃子でも動かない魔王様。そんな魔王様の面倒臭さを身に染みて理解しているキャンは当然異を唱える事も無ければ、ダンジョンマスターが何か文句を言う事もない。
全ては魔王様の一存。魔王にだけ決定権がある。
「んであんちゃんよお。そのデッケェのどうすんだ?」
デッケェのとはレッドスカイドラゴンの事である。
暇そうに浮遊する二十メートルを超える赤き龍。
頭の角から尻尾の先まで見回して、魔王様が言う。
「リリース」
レッドスカイドラゴンの精悍な蜥蜴顔が驚愕に彩られ、猛然と魔王様に巻き付く。ギチギチという音が聴こえる辺り、割りと全力で巻き付いているようだ。魔王様は意にも介していないが。
「デカイし、邪魔であろう」
身も蓋もないが、尤もである。
ドラゴンと知らなければただの空飛ぶ大蛇。新たな魔物と認定されて討伐隊が組まれても面倒なのだ。
「……ぬ?」
いや、と考える。
レッドスカイドラゴンに暴れさせて適当に鎮圧すればキャンの冒険者としての階級が上がるのではないか、と。
悪どい顔でみなに伝えると、漏れ無くドン引きした。
「鬼ですね。悪魔ですね。魔王様ですね」
とキャンが。
どうやら魔王様という単語が鬼畜的な意味を含んだらしい。
「マッチポンプって言葉知ってる? または詐欺」
とダンジョンマスターが。
マスターとしての誇りがあるのか、モンスターを鬼畜の道具にしたくないようだ。
「あんちゃん、そうつぁ流石に俺が黙っちゃいねぇぜ」
とバグングが。
階級が高いのか、下位冒険者への指揮権があるらしい老人が査定するのなら、ネタを知っていてやらせだと報告しない選択肢を取らないだろう。
非難の嵐にさらされては、流石の魔王様も黙るしかない。が、それでは問題が解決しないので、モンスターのプロフェッショナルであるダンジョンマスターに丸投げする事に。
「ならこうしよう」
彼が指をパチンと鳴らすとあら不思議、レッドスカイドラゴンが見事なチビキャラに。
これには赤い龍も大興奮。勢い余ってダンジョンマスターに体当たりをぶちかます程である。
その迫力はまさに激昂している様だ。
「痛い痛い痛い。人間の貴族連中には蛇を首に巻く酔狂な奴も居るからさ、それなら違和感ないんじゃないのん?」
「そうかあ?」
胡散臭そうにしながらも、チビドラゴンを首に巻いてみる魔王様。何事にもアタックアンドチャレンジの精神である。
そうして出来上がったのがこちら。
黒い鎧に赤い線が脈の様に引かれ、妖しく明滅を繰り返す軽装は不気味な空気を醸し出し。
黒と赤のマントをはためかせ、滲み出るは負のオーラ。
首に巻いた赤き龍が双眸を血のように輝かせ、迫る者に恐怖を与え。
黒鉄の大剣から繰り出されるは防御不能の極限の一撃。それは大陸をも砕き星を割るだろう。
そして最後は、この世の悪を濃縮させたような、見るもの全てを震え上がらせるだろうその容貌。
「魔王様、素敵っ!」
「どっからどう見てもラスボスです、本当にありがとうございました」
「あ、俺ちゃんちょっと急用思い出したわー、やっべーわー」
なお、バグングは魔王様にがっしりと掴まれて逃げられなかった模様。
500字1分の目安だと最近気付きました。




