017 侍女、冒険者になる
本日二話目。ちょっとダイジェストっぽい?
魔王様とキャンが人間の領土にやって来て二ヶ月の時が経っている。
適当な村を襲い、洗脳と暗示をかけ転移魔術で魔族の港町へと送る。きちんと来る前に座標を指定する魔術陣を刻んであるので、何事もなければ無事に辿り着いているだろう。
魔物の方は芳しくない。何しろ全く見つからないのだ。偶発的に突然変異を起こす魔物は、当然人間にも脅威の存在で、放置できない。故に討伐隊が組まれては、取りに行く前に討伐される。
消滅させた人類の港町も、復興されずにそのまま放置され、野盗の類いが住み着いている。これなら人間側も密かに動く事は出来ず、まずは港町を野盗から奪還する為に軍を動かすだろう。
そうなれば何処に居ようと魔王様の耳に入る。
魔王様は人間社会への潜入を決める。
二ヶ月間過ごした掘っ立て小屋に魔術陣を刻んで、転移魔術ですぐに戻って来られるようにする。
「……行くか」
「はい」
旅に出ると跳び出してはや二ヶ月。掘っ立て小屋に引き籠る事の何処が旅なのかと怒られそうなので、魔王様はようやく国を巡る為に踏み出す。
侍女服を着込むキャンも、静かに頷く。彼女はただ魔王様に付き従うのみで、何処へ行くのも、何をするのも、魔王様のお心のままにを地で行っている。
雑草を抜かれ、踏み固められた街道を歩く。容赦なく照りつく真夏の太陽は、じりじりと肌を焼き、全身鎧の中は通気性が悪く、まるで火山地帯のよう。
「あっついわ!」
魔王様は鎧を地面へ叩き付けた。
漆黒に赤い線の入った鎧は太陽光を反射して仕返しだと言うように魔王様の網膜を焼く。
蹴り上げられた。
フシュー、フシューと呼気音を奏で、落ちてきた鎧目掛けて黒鉄の大剣を振り抜き、星にした。
「なーにやってんですか魔王様」
「苛立ちのままに己の怒りを体現してみた」
しなくていいです、と呟いてキャンは溜め息。
あの鎧が大剣の一部である事は知っているので、慌てる事はない。その証拠に、遥か彼方から赤黒い霧が猛烈な勢いで戻ってきている。どういう原理なのやら。
とにもかくにも、魔王様の全身鎧はその形状を変えた。
兜はなくなり、胸当て、肩当て、肘当て、そしてすね当てのみと驚く程軽装となった。
その関係で、二メートル程の巨漢の鍛え抜かれた体が露となり、太い二の腕にキャンは目を奪われた。
あの腕に抱き込まれたら。
などと乙女畑を脳内に展開している。
その日は近くの村に厄介となり、夜遅くに夜襲してきた野盗を一通りキャンが締め上げ、偶然同じ村に居た冒険者グループに勧誘されるといった小事が起こったが、魔王様には一切関係ない。
「魔王様も動いてくださいよー」
「間抜け。我が魔族と事を構えたい王国からしたら、即戦力は大歓迎であろう」
「……それって、私やらかしてます?」
「うむ」
そんなやり取りがあった。
逃げ切れなかったキャンは押し切られる形で冒険者となり、魔王様はその腰巾着か何かかと勘違いされるという屈辱が起こったが、丁重なお返しをしたので大満足。
結果として深いトラウマを刻まれた冒険者グループが居たが、キャンには一切関係ない。
無事に町へと辿り着き、冒険者グループとは強制的にお別れをした。この日身ぐるみを剥がされた冒険者五人が、町の外で埋葬されたが魔王様とキャンには一切関係ない。
「旅をする上で、冒険者になる事は重要な事みたいだな」
「はい。身分だけではなく貴族とのいざこざまで庇ってもらえるのなら、損は無いはずです」
街中の表通りを歩き、屋台の芳ばしい匂いを放つ鰻の串焼きを食べ、露店に出されている武具の具合を確かめ、衣服を見ていきながらの雑談。
赤煉瓦で建てられた建築物。段差の激しい造りながらも、迷う事はない。
方向感覚に優れているのもあるが、裏道を通っても表通りに戻って来られる道が分かりやすく敷かれている。
こうしたちょっとした工夫に、魔王様は惹かれた。
「成る程、迷子対策はこうしているのか」
購入したメモ帳に書き込んでいき、後日ロサンティーヌと議論する事に決め、魔王様は軽くのびをする。
記憶として町の構造はあるが、魔王様が魔王様として肌で感じる事とは別問題。町の豊かさは国の豊かさ。魔王様は静かに対抗心を燃やしている。
行かぬように塞き止めるのではなく、入ってから確実に戻れるように、その発想はなかった。
「……先代が残したのも頷ける話だ」
少なくとも自分では時間をかけねば辿り着けない対策。そんな奇策とも言える案を出せるのが数の為せる技。俄然、魔族の繁栄と人類の殲滅のやる気が溢れ出る。
ひとりやる気を燃やしていると、騒然とする人混みの中からテッテケテーと小走りでキャンがやって来る。
キャンは冒険者グループから貰った推薦状で冒険者組合への加入申請へ行っていた。
「ただいま戻りました!」
「うむ。無事で何より」
「えっ? 無事ではない何かが起こってたんですか?」
「いや、冒険者に見た目か弱い少女が加入するのだ。そこ等の酔っ払いが絡むんじゃないかと予想していたのだが、残念だ」
「残念がらないでください! そりゃあ、まぁ、絡まれましたけど、返り討ちにしましたけど、それならそれでもうちょっと心配してくれても――ってちょっとちょっとお!」
予想通りの事が起こっていたらしいが、何事もなくやり過ごしたらしきキャンにつまらないと溜め息。乙女畑を展開する侍女を置いて歩き出すと彼女は尻上がりのすっとんきょうな声をあげる。
然れど無視。相変わらずの雑な扱いに涙目で待遇改善を訴えるも尽くを右から左へと流される。暖簾に腕押し。虚しい一時にガックリ。
「して、冒険者組合とはどういう組織だった。どうも記憶にはなくてな」
先代魔王が支配していた時に冒険者組合はない。故に、魔王様の記憶検索には引っ掛からず、その実態が全く分からないのだ。
長々とした話を聞く気も起きず、丁度良いからとキャンに行かせたのだが、果たして短く纏められるかどうか。
「聞くならその訝しげな目を止めてください」
「おっとすまん」
目に出ていたらしい。
素直に謝罪し、話を促す。
「はぁ。……基本的には根なし草で旅をする旅人を支援する為の組織みたいです――――」
階級制で、高くなると本腰入れて庇ってくれるとか。
階級制とな?
はい。宝石で例えてるみたいです。ルビーとかサファイヤとかエメラルドとか。因みに最上位はダイヤモンドです。
冒険者組合は貴族との調停役を買って出るのであろう?
根なし草の旅人との衝突はかなりの確率であるようです。そんな旅人さんに助けられたえらーい貴族さんが友人に声をかけて結成したのが、冒険者組合とか。
成る程。
ですが、階級が低いとさらっと流されて庇ってくれないとか。
ふむ?
重要度みたいなものです。低いと、誰が見ても貴族が悪い、なのにいちゃもんつけて来る! て時だけ庇ってくれるとか。それでも証拠とか色々、ってちゃんと聞いてください。
長い。
まぁいいです。とまぁ、基本的に貴族と衝突しなければ冒険者組合の恩恵は殆どないかと。身分保証人程度で。
そこ一番大事であろうに。この阿呆め。
そうなんですか?
あのな。俺は自分から活動はせんぞ。目立つからな。目立って人類側に引き込みなんて起こったら面倒極まりない。
だから私は?
あの冒険者グループは埋めたし、何もしなければ問題ないだろう。
ほっ。
降り掛かる火の粉はそっちにやるがな。
こらこらこらこらこら!
ひとつ気になるのだが、旅人がどうやって階級を上げるのだ。魔物もそこまで数はいないぞ。
ああ、ダンジョンに行くそうですよ?
ダンジョン。……ふむ。成る程な。
あの、魔王様? とてつもなく嫌な予感がするのですが……。
記憶を探ると比較的近くにダンジョンがひとつあるのでな。
「ちょっくら引き込みに行くぞ!」
「やっぱりですか」
括弧ばかりだとなんか嫌だったので、地の分で会話を展開。
もうちょい何か書き足そうとも思ったけど、キャンが酔っ払いをボコるだけだし、いっかな、と。




