016 女王、枕になる
書き疲れると、会話文多くなる。
「単刀直入、いえ、それ以前の問題ね。何を問題として手伝えなのか、まずはその辺りの情報を開示すべきよ、魔王。手伝う内容も教えられない内にはいと頷く王は居ないわ。もしも居るなら私直々に手を下す。何度生まれ変わっても変わらないのは、まぁ、少し嬉しくもあるわね」
魔王様の力を過失を諌め、最後に照れた様にくすりと微笑む絶世の美少女。ぐうの音も出なく、顔をしかめて面倒そうに頭を掻いた。
そんな魔王様をエルフの女王は懐かしむように見つめ、儚い笑みを溢す。が、それもすぐに取り繕われた。魔王様が口を開く。
「……やれやれ、気は乗らないが仕方がない」
小さく吐息。
そしてエルフの女王を、いや、ひとりの少女を真っ直ぐと見据える。
「友人として頼みたい」
「あら? 私は同盟を破棄した覚えはないわよ」
「此方もな、だから呼んだのだ。そうでもなければ誰が露出の多い服を好んで着るような女を呼ぶものか」
「ちょっと待ちなさい。別にこれは好んで着ている訳ではなくて伝統衣装だから致し方なく着ているのよ? そもそもこの衣装を作ったのは何代か前の魔王じゃない」
編みぐるみをマスキエルに与えていた事から分かるように、歴代魔王には編み物に凝った者がいた。
その頃の記憶を検索すると確かに、嬉々としてチクチク服を縫う魔王の姿がある。恐らく悪乗りしているのだろう。
緑を基調とした衣装は、上着がノースリーブな上に裾が尖るように長く、しかもへそ出し。肘までの手長袋を嵌めていて、女王らしい装飾が成されている。下はホットパンツに左右非対称のロングブーツ。華奢ながらもむっちりとした色白い脚が露出している。
上から下までじっくりと観察されたからか、エルフの女王は身をすくめてほんのりと紅潮している。
「うむ。実にけしからん」
「あっ、貴方がこうしたんでしょお!」
真面目なのか曲がった事が嫌いなのか、エルフの女王は羞恥心を感じながらも伝統衣装を身に纏っているようだ。
涙目に成りながら魔王様に八つ当たりするエルフの女王。
ポカポカという可愛らしいものではなく、ドスンドスンと衝撃波で木々が揺れる程のもの。
全身鎧姿の魔王様はなんのその。高らかに哄笑しながら華麗に無視。痛くも痒くもなさそうだ。
なんだこの二人。
「で、なんなの? 頼みって」
唇を尖らせて不満を露にし、拗ねたように前髪を弄りながら話を進めるエルフの女王。
まるで親に意地悪されていじける娘のようだ。
事実二人の関係は親子そのものだ。
過去の魔王が植えた苗木から、エルフの子供が生まれ出た。長い時を経てエルフを統べる女王になっているのだから、魔王様からすれば微笑ましい話で、然れど哀しい現実。
その魔王は魔王様であって魔王様ではないのだから。
その辺りの戸惑いや迷いなど、他者には関係のない、魔王様自身の意識の問題で、相談する相手など、レイモスくらいである。
「うむ。実はな――」
魔王様の口から語られる事は、魔族のこと。
畑などで食糧を賄っているとはいえ、不作が続けば破綻するのは目に見えている。故に自然と供にあるエルフの力と、人手が欲しいと。
「それくらいなら御安い御用ってやつよ、魔王」
「対価を要求されると準備していたのだがな……」
女王は苦笑して、左右に首を振る。
「代々の魔王からは、貰いすぎていたから、返したりないくらいなのよ?」
何代か前の魔王からはエルフの為の土地を貰い、先代の魔王からは土地を隠す術を教えられていた。返しても返しても返したりない恩がある。ただそれだけの事、と女王は言った。
「それから、これは私情なのだけど」
エルフの女王は、見る者全てを魅了するような、慈しみを多分に含んだ微笑みを浮かべる。
「私は、私を生み出し、大事に育ててくれた魔王の為に女王に成り上がったと言っても、過言ではないのよ?」
僅かながらも、魔王様は目を奪われた。あどけない少女から醸し出された包容力に、魔王様は確かに安心感を得たのだ。
ふっ、と口元を緩める。
「貴様という奴は、この俺を翻弄するか」
「愛人ポジションって、素敵じゃない?」
口元を隠して何が可笑しいのか優雅に笑うエルフの女王。その言葉に偽りはない。
「全く、貴様という女は、良い女だよ!」
何処か投げ遣りな言葉。眷属ではない者から向けられる好意は、素直に嬉しく、然れど照れ臭く、不器用な魔王様は湧き上がる感情を持て余した。
斯くして、ここに約束は成された。
エルフという妖精の力で、魔族の畑は活性化される。どんなに悪天候が続いても豊作が約束され、人員に余裕が生まれる。魔族は訓練に励む事が出来、マスキエルの本領が発揮されるだろう。
こうして、人類殲滅の一歩は踏み出された。
「さて、では抱き枕にでもなってもらおうか」
「へっ? ちょっと何をふざけた事を」
「一肌の恋しいお年頃なのだよ」
「貴方普通に百越えてるでしょお!?」
「はっはっはっはっは! 良いではないか良いではないか」
「きゃー! 止めてお代官様ー!」
「乗り良いな」
「はっ! つい癖でっ」
「何をしておるんだ過去の俺は……」
「今の貴方みたいな事じゃないかしらねえ!」
「何を言う、愛人志望」
「もっとムードってものを大事にしなさいって話よ!」
「知っているか?」
「……何をよ?」
「魔王からは、逃げられない」
「っ!!」
翌朝、キャンは開口一番に悲鳴をあげたそうな。
カッとなってやった。後悔も反省もしていない。寧ろこれが魔王様。




