015 登場、露出狂
本日二話目。切り良く書けたのでそのまま投稿。
旅立ちの時と言えば盛大な宴が開かれ、涙ながらに仲間が送り出すといったようなあれだが、こと魔王様に関しては意味のないものだ。
誰が「では、行ってくる」「行ってらー」みたいな超絶軽い乗りで送り出される魔王様を想像出来るのか。
物資も余裕もない事が原因なのだが、したらしたで無駄遣いするなと魔王様は怒るだろう。マスキエル辺りが海を越えて魔王様にすがり付く勢いだったが、地中深くに埋められていたので置いておく。気にするだけ無駄である。
海を渡るのは簡単だ。
まず、魔王様が飛べないキャンをぬんずと掴み、投げる。魔王様は後を追い掛けるだけ。ね? 簡単でしょ?
キャンは激怒した。
そうして辿り着いたファスト大陸の名前も知らぬ森の中。世界最大の強国は港町に戦力を集め、物見台も建てられていたが、お粗末な警戒網で見つかる魔王さまではない。当然隠蔽していた。
本来魔術とは長い詠唱と、気の遠くなるような検証が必要なのだが、常識などその辺に投げ捨てた上に踏んずけて蹴っ飛ばして海の藻屑となっている。
素人が使えて一度か二度、訓練を積んだ魔術師でも日に十が精々だろう。そんな代物をすぽこんすぽこん使えるのだから魔王様の規格外っぷりは天を穿っている。
「で、これからどうするので?」
「決まっている」
そう、ファスト大陸に着いたらまず初めにすべき事がある。
魔王様は世界の中心に位置する魔族の島がある方角を見据える。
その方角には王国の港町、更には集まった五万の軍隊が居る。放置する事は出来ない。
王国からすれば様子見の偵察隊でも、魔族には充分脅威である。マスキエルやロサンティーヌ、レイモスが居ると言っても、彼等彼女等も無尽蔵の体力を持つ訳ではない。
攻め入られれば物量で圧殺される事必至。故に、魔王様は動く。魔族の未来の為に、彼等彼女等を護る為に、魔王様は力を振りかざす。
――この日、王国から港町と供に五万の兵が消滅した。
***
一仕事を終えた魔王様は長年の便秘が治ったかの様なすっきり爽やか満足げで、付き合わされたキャンはぐったりと今にも昇天しそうである。
現在魔王様はファスト大陸での拠点を築いている。掘っ立て小屋を建築する為魔剣を以てせっせこせっせこ木々を薙ぎ倒す。働き者の魔王様に斧代わりにされている魔剣は不満を現すように明滅を繰り返すが、彼からすれば喜んでいるように見えた。
そんな時、魔王様はピタリと動きを止めた。
何かを確かめるように今まさに切り倒そうとした樹に触れて、うんうんと何かに頷く。
「ここからはエルフの生息地だ。樹に手を出すな」
「え、マジですか?」
「大マジだ」
キャンは気配を探る為に集中する。
自然に溶け込んで見つけ難いが確かに居る。しかも複数で監視するように、包囲するように。此方から何もしなければ手を出しては来ないだろう。先程魔王様が言ったように、注意された地帯の樹を傷付けなければ無関係を貫いてくれる。
エルフとはそういう妖精だ。
「随分前の魔王はエルフとの繋がりを持ったようだが、まあ向こうから接触して来ないのなら放置で良いだろう。気を付けていれば無害だ。愉快に踊れば出てくるだろうがな」
「躍りですか」
「うむ。奴等は人間の真似が大好きだからな。……昔は」
意味深な呟き。キャンは尋ねた。
「何、昔はそれほど木材を必要としなかったが、今は勇者の影響か木造建築とやらに興味を持っている。故に険悪、エルフは森を護る為に姿を消したのだ」
「別にそれぐらい、魔族も木を使っています」
「とそうも行かんのが妖精の性質、いやエルフの特質か」
「それは一体?」
「エルフ、ドワーフ、ノーム、フェアリー、ピクシー、ブラウニー、ホビット、レプラコーン、ゴブリン、ホブゴブリン、コボルト。と、幾つもの種類があるが、みな共通して自然と供にある。エルフはそれが特に顕著なんだ」
キャンは「はぁ」と生返事。滔々と得意気に説明を重ねる魔王様を見つめて、僅かな予感に表情を引きつらせていく。もしかしたら魔王様は説明好きなのかもしれない。
「苗木から立派な大樹になるまでどれ程の年月が掛かると思う? エルフは樹の一本を一本を自ずから世話をし、日夜魔力を注いで魔樹とする。魔力溜まりで育つ樹とは質が数ランク違うぞ? 言わば魔樹とはエルフそのものだ。そんな樹を伐採しようとすれば関係が悪化するのは当然のこと。自然と供に生まれ自然と供に生き自然と供に死ぬ。それがエルフの特質なのだ」
予感的中、心底楽しげに語る魔王様。最早誰に説明しているのかは分からない。速やかなフェードアウトを目論むも神速を以てキャンの背後に回り込んだ魔王様がガッシリとその肩を掴む。
こんなところで本気を出さないでほしいと心の内で嘆く。
拒否権がないのはいつもの事と早々に諦めて、大人しく傾聴する。それが最大の失敗。彼女はなんとしても掘っ立て小屋建築を続行するべきだったのだ。
それから時間は進み、説明が終わったのは深夜だった。
周囲から姿なく監視するエルフ達の気配も既にない。呆れられたか、害はないと判断されたのか、キャンには分からない。それよりも寝たかった。
ひたすらに傾聴するだけでも体力と精神面をガリガリ削られる。時折質問され、無知であれば御代わりだ。勘弁してほしい。
すっかりグロッキー状態のキャンとは対照的に、魔王様は艶々している。
「うむ。寝るか」
ピキリと何かにヒビが入った。ゆらりゆらりと幽鬼の様に揺れて、俯かせた顔に黒い影が入る。目の部分が赤黒い煌めきを放ち、口だった場所には三日月が生まれる。
「シャアァァ――――!」
「うるさいぞ」
ペシンと頭を打たれてキャンは昏倒した。今日も変わらず扱いがぞんざいである。
やれやれと肩をすくめて、魔王様は森を見据える。暗い暗い森の奥、手を出すなと注意した方角から、少女はやって来た。
黄金に輝く金髪を側頭部でくるりと巻いているあどけない容貌。幻想的な雰囲気を放つ少女の服装は伝統衣装なのか露出が多い。
それは少女が露出狂の痴女なのではなく、伝統を重んずる程に生きている事の証明である。
少女は感情の宿らない黄金の瞳でキャンを一瞥し、ふんと鼻を鳴らす。
「相変わらず女の扱いがなっていないこと、魔王」
魔王様は挑発的な笑みで応える。
「貴様は相も変わらず偏屈者のようだな、女王」
エルフの前で彼等彼女等の事を長々と語る。それは、何代か前の魔王が、エルフの女王とした盟約。手っ取り早く彼女を呼び出す通過儀礼のようなものだ。
月光に濡れる森の中、緩やかな風が草木を揺らし鈴虫の合唱が耳を楽しませる。
自然の中に身を寄せて、二人の王の密談が始まる。
「手伝え」
「お断り」
終わった。
分類は妖精だけど後々モンスターとして登場予定。




