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憤怒の代行者  作者: KKSY
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013 勇者、乙女になる

 シリアスからのギャグ、ギャグからのシリアスが作者クオリティー。

 一年。人類の最終兵器、勇者を生け捕りにしたからなのか、王国からの襲撃はなかった。


 その間に港町を復興し、鹵獲したガレー船を使って漁をして魚を取り、畑を耕して野菜や麦を採れるようにしていた。牛や馬、羊や鶏の様な家畜は残念ながら魔族の島には棲息していない。


 少しずつ生活面を改善していき、文明としての体裁を取り戻しつつある。


 そしてもうひとつ、革命ともいえる研究を成し遂げた人物が居る。ロサンティーヌである。


 彼女は植物型の魔物キャサリンをサンプルとし、人工的に魔物を生み出す術法を開発した。


「でこれか」


 魔王城にある研究室で、紙の束が乱雑するその中央で魔王様と侍女のキャンは培養液で満たされたカプセルを見ていた。


 魔物の中でも目撃数の多い粘液生物(スライム)を試験的に生成し、カプセルの中でぷかぷかと浮いている。


「魔物としは最低ランクですが、改良を加えていけば極悪な生物には成ります。……時間は掛かりますが」


「そこが一番重要ではないか」


「優秀な研究員が欲しいところですよ。人間もこの程度は出来ていても不思議ではないですし、完全に技術の後追いになってます」


 研究者としての悔しさか、ロサンティーヌは忌々しいと顔をしかめるが、それもすぐに消す。


 欲しいのはサンプルの種類と人員、出来れば優秀な者。


「魔物は世界を旅すれば出逢えるだろうが、人員の方は難しいぞ。今や生活を維持するだけで余裕がない程でマスキエルとレイモスが暇している」


 元騎士団長のマスキエルと魔族最強のレイモスは戦闘のプロフェッショナル。指揮能力ではマスキエルだが、単一での戦闘力はレイモスが圧倒的である。


 先の襲撃で魔族の数は元々少ないところを更に減らされた。四百も居ないだろう。


 国としては圧倒的に少ない。少数部族としか言えない程だ。


 そこまで考えて、閃いた。


「うむ。人間を洗脳して働かそう」


「ま、魔王様?」


 キャンはドン引きした。


 逆に、ロサンティーヌはそんな魔王様の外道な発想に共感を示すように顔を綻ばせる。


「名案です魔王様! 愚かな人間を洗脳し馬車馬の如く働かせれば我等は戦争に集中出来ます」


「そうであろうそうであろう。では手始めに人類の村でも襲うか。老人は殺し、大人は洗脳し、子どもには素敵教育を施してやろう」


 二人が邪悪に笑い合っていると、研究室の扉が乱暴に開かれた。盗み聞きでもしていたのか、黒い髪を振り乱して闖入者は怒りに顔を染めている。


「外道かお前等っ!? 王国も大概だったけど、お前等はそれ以上だなっ!」


「勇者よ、そう褒めるな」


「褒めてねっ!」


 壮年の男は勇者である。一年前、あの悪趣味な仮面には装着者を意のままに操る魔術が刻まれていたのだが、魔王様に砕かれこうして囚われの身となっているのだ。


 最初、魔王様はとっとと勇者を殺そうとしたのだが、そこで面倒な事実が発覚した。


 儀式で喚び出した勇者が死ぬまで再び召喚の儀式をする事は出来ない。


 つまり、今の勇者を殺せば次の勇者が召喚可能となるのだ。


 自由意思を奪われた怨みから、現在の勇者は協力的である。そんな勇者を殺し、新たに敵対的な勇者の相手をするよりは生かしておいた方が良いとの結論が出ていた。


 が、人類側の人間である事は変わらないので、こうして何度か衝突をしている。


「しかしな勇者。今の我等魔族は人材不足、これではおちおち戦争の準備も出来ん」


「と~に~か~くっ、非人道的な手段はダメっ!」


「ならば! 三食寝床付き労働勤務!」


「おおっ!」


「23時間労働!」


「労働基準法!」


「異世界の法律を持ち出されても困るのだが」


 尤もである。


 そもそもとして、勇者は魔王様絶対主義の魔族に法律云々を説いても全く意味のない事をこの一年で思い知っている。


 それでも、言わねば気が済まないのだから厄介だ。


「出来れば8時間労働だ」


「ふむ。…………勇者よ、家畜を世話した事はあるか」


 代々の魔王の記憶を探りながら、魔王様は勇者に質問する。


 勇者は漠然と答える。


「え? あ、いや、ないけどさ」


「野菜、穀物」


「ない。それがどうした?」


「例えば麦だが、勇者の世界の様に便利は機械はない。ひとつひとつ手作業だ。畑もな、小石や雑草を取り除き、鍬を入れる。雑草を刈るのだって楽ではない。毎日畑の世話をしなければならない。これだけの重労働、機械もなしに8時間でやれとは、勇者も酷な事を言う」


 そこまで言われて、勇者はようやく理解する。自分の労働基準は飽く迄も便利な道具付きである事に。


 一年間、魔王城に軟禁されていた勇者は魔族の事情を詳しく知らない。操られていた関係もあり、この世界には疎いのだ。


 話は終わりだと、魔王様は勇者から視線を外す。


「ロサンティーヌよ。空を飛べる俺が人間の大陸へ行き、魔物のサンプルをこの魔王城に転移させる。具体的に何種類必要だ」


「十五、いえ、十もあれば必ず魔物化の法則を見つけ出し、人工的に自由自在な魔物を生成して御覧に入れましょう」


「うむ。月に一度、人間を拉致・洗脳し港町へと送る。マスキエルに受け入れの準備をさせよ」


「畏まりました」


 恭しく頭を下げるロサンティーヌを研究室に残し、魔王様はキャンを伴って廊下を歩く。その後を勇者は追った。


「なぁ魔王さん。俺にもなんかさせてくれよ。流石に暇すぎて死にそうなんだ」


「貴様の役目は死なぬ事だ。それ以外は求めん」


 振り抜かずに言う。


 突き放す様な言葉が胸に突き刺さるが、勇者はめげない。


「ほら! さっき言ってた畑の手伝いとか、なんなら訓練相手でもいい」


「レイモスで間に合っている。貴様を外に出さないのは、うっかり足を滑らせて死にましたでは笑えんからな」


「俺どんだけ間抜けと思われてんの!?」


 階段の角に頭をぶつけて死ぬんじゃないかと思うくらいには。




 向かった先は魔王城入り口付近の庭園である。


 そこではレイモスと植物型の魔物キャサリンによる激闘が繰り広げられている。


 縦横無尽に走る無数の蔓を、残像すらも霞む動きでかわしている。これで地面が傷付かない様に蔓を寸止めし、大地を蹴る時に気を使っているのだから底が見えない。


 が、どちらも魔王様の足元にも及ばなくなっている。


 魔剣装備状態は当たり前、素の魔王様でも、始めは滅多打ちにされていたがそれも過去の話。今では楽々とレイモスを降せる程である。


 しばらく眺め、飽きたところで声をかける。


「ん? おー、魔王か」


 汗を滴らせ、唇の端を吊り上げるレイモス。十年来の友人へ向ける様な眼差しを魔王様へ向けている。


 青みがかった長髪をひとつに括り、深い碧眼はしっかりと魔王様を映している。


 眷属化はされていない。それはレイモスの望みである。


 彼は、魔王の身内ではなく友人で在りたいと望んだのだ。


 魔王様はこれを快く承諾した。


「精が出るな、レイモス」


「たまには付き合えよ。キャサリンもじゃれたいってよ」


 レイモスの言葉に蔓をうようよさせるキャサリン。次いで、ひとつの実をレイモスに差し出した。


「ん? おぉ、くれんのか」


 礼を言い、橙色の小さな実を口へ放り込んだ。


 それは魔王様の知らない実だった。


「なんだそれは」


 知らず、冷たい声が出る。自分の知らない実をレイモスにご馳走している光景に、もやもやとしたものを感じていた。


「拗ねんなって。これは酸っぱい実でだな、疲労回復の効果があるみたいなんだ」


「そうか、俺にも寄越せ」


「いやお前さん疲れないだろ」


 何処か呆れを含んだ口調。魔王様は赤黒い双眸をギラギラとさせ、


「疲れている。疲労困憊だ。今にも倒れそうである」


「えぇー……」


 分かりやすい嫉妬にレイモスは脱力する。キャサリンは何処か弾んだ様子で橙色の実を十粒程蔓で包んで魔王様に差し出した。


「うむ。――――っ!?」


 鷹揚に頷いて、実をひとつとは言わず、複数纏めて口へ放り込み、その余りの酸っぱさに口元を覆った。


「魔王様っ!?」


 キャンが悲鳴をあげた。レイモスは何やってんだと溜め息を吐き、キャサリンはけたけたと笑いを表現している。


「も、問題ない」


 涙目だった。


 だが確かに、身体中にじんわりと広がっていく熱は馴染むように浸透し、歩き回り疲労の溜まっていた脚から無視できる程度の痛みが引いていった。


 ポカポカと温かく、適度にリラックス出来る。


「……ロサンティーヌにでも研究させ、携帯出来るよう加工してもらうか」


「そんなに数はないみたいだぞ? 一粒作るのにかなりの養分持ってかれるんだと」


「養分か、庭師が欲しいところだな」


 庭園の世話はキャサリン自身がやっており、レイモスは鍛練のついでに手伝う程度。手は足りているようだが、蔓を動かすだけでもエネルギーを使っている。養分の吸収効率は悪いだろう。


「何処かの城から拐うか。腕の良い庭師を雇っているはず」


「だから拐うなっての」


 不穏な呟きをずっと居たらしい勇者が耳ざとく拾う。


 魔王様は驚いた様子で、


「居たのかっ」


「居たよ!?」


 どうやら研究室を出てからずっと付いてきていたらしい。


「……勇者よ。貴様は善意を振り撒く前にまず存在感を身に付けよ。キャンよりも薄いとかそれもう幽霊」


「魔王様? ちょっとお話があるのですが」


 ニコニコ笑顔に青筋を浮かべながらのお誘いを華麗に無視し、魔王様は勇者の体をペタペタと触る。


「なん? 急に」


 甲冑を脱ぎ、魔族から支給された服を着込んだ勇者はまさに近所のお兄さんといった風貌。故に、勇者の皮を剥いだ勇者はただの村人である。


 要するにぱっとしない。


 年齢的には三十そこら。お兄さんというよりはおじさんだが、数百年生きる魔族からすればまだまだ子どもである。


 因みにキャンは百から数えていないらしく、芋蔓式に魔王様も百歳を越えている事が分かる。


 年齢的な見方をすれば、子どもの世話をするおっちゃんである。


「つまりキャンはばっちゃん」


「魔王様、そろそろ殴りますよ?」


 大気が震える程の圧力でも魔王様はなんのその。全く気にも止めず勇者大改造計画を脳内で練っていく。


「うむ。インパクト重視で行こう」


 という訳で、魔王様の玩具にされて出来上がったのが、手の甲を頬に当て、濃い化粧の施された勇者である。彼はノリノリで「うっふ~ん」と乙女ポーズ。キャンは吐いた。


「インパクトがあるにも程がある」


 漢女(おとめ)にされた勇者へ同情の眼差しを向けながら、レイモスは吐くまいと込み上げる酸味を嚥下する。


 そんな散々な反応を前に、勇者はぷるぷると屈辱に打ち震えていた。


「ぜ――」


「ぜ?」


「絶対お前等に可愛いって言わせてやるぅーー! うわぁーーーーん!!」


 叫んで、乙女走りで去っていくガチムチムキムキ勇者。彼は一体何処へ行こうというのか。


 取り敢えず、この日、ひとりの変態が目覚めた事に変わりない。


「……さて、俺も女装してくるか」


「させません。というか何故乗り気なのかと」


「我は魔王! 何事も一番でなければ気が済まない男」


「あー、はいそうですねー」


 今日も魔王城は平和である。

 国王陛下

「ちょっと~、勇者喚べないとか勘弁してよ~」


 勇者

「取り敢えずウィッグの調達だな」


 マスキエル

「出番なしっ!」


 魔剣

「…………」

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