三冊目 異界人の立ち位置
今回、少し短めで説明が多めとなっています。
優希はのんびりと本棚の上で寝転んでいた。
理由は定かではないが、この図書館の本棚はかなり厚さがあり、優希がいる一番上の部分でもそこらのベットより少し狭いぐらいの広さがある。
優希は先ほど、三階から持ってきた蔵書を開いた。
この本は、こちらの世界では“森人”や“空人”などと呼ばれている異世界人の特徴などが書かれている本だ。こちらでいう森人にあたる優希は、そのあたりの頁を懇切丁寧に読んでいた。
「なるほど……そういうことか……」
本を読みながら優希は一人ごちる。
森人の定義は世界の各所に点在するあやかしの森と呼ばれる場所から現れた人間のことを指し、記述を見る限り優希と同じ世界出身である可能性が高いのだろう。
それにしても面白い書き方をするものだ。
優希がいる世界ではごく当たり前のことでもこちらの世界では珍妙な現象として描かれている。
「館長! 聞いていますか?」
気が付けば、梯子をあがってきたらしいシャトルーズが顔をのぞかせていた。
いつの間にか相当時間が経っていたらしい。優希は本を閉じて体を起こした。
「ごめんなさい。気づいてなかったわ」
「それにしても、前来た時には感じなかった寒気を今日も感じているのですが……どうしてでしょうか?」
「さぁ私に決まれましても……次回の来館までにできる限りのことはしておきますから」
手を伸ばして鍵を受け取った優希は本棚に腰掛けて大きくあくびをする。
「ところで……偶然、聞いたのですが……あなたは森人だそうですね?」
「だったらどうします? 森人はお嫌いですか?」
優希は特に表情を変えることもなく尋ねた。
すると、逆にシャトルーズが居心地の悪そうな顔を浮かべる。
「そういうわけでは……ただ、そんな話を聞いたものですから……」
「まぁ確かに私は森人ですけど、だからと言ってどうする気もないのでご安心くださーい」
あまりにも軽い口調で返ってきたためにシャトルーズは判断に困ってしまった。
改めて彼女を見れば、純粋な子供のような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「えぇと……わかりました……」
これ以上追及しない方が賢明かもしれない。
そう考えたシャトルーズは下を見ながら着実に梯子を下りていく。
下まで降りた彼は、今一度上を見上げて彼女の姿を確認する。
無防備に足をぶらぶらさせている少女には、どのような能力が備わっているのだろうか? それは、追求しない方がいいことなのだろうから考えてはいけないのか……
シャトルーズ自身、これまで何人かの森人を見てきた。
それらの人たちはみな、何かしらの能力を持っていた。一瞬で目の前のものを消せたり、重力なる力をいじってみたり、炎を操ったりと多種多様な森人がいたのだ。
中でもシャトルーズが一番厄介だと感じた能力は実行権設定と呼ばれているものだ。
使用者の性格も合わせてかなり厄介だったという記憶があった。
シャトルーズはいつか戦った少女の姿を本棚の上の館長の姿と重ねながら立ち去って行った。
*
「やっほー! 物思いにふけってどうしたの?」
のんびりと天井を見ていた優希の話しかけてきたのは、レーちゃんである。
彼女は、優希のすぐ目の前に現れて手を振っていたのだが、優希がそれに対して何かしらの反応をするということはなかった。
「ちょっとーそんなにガン無視されるとさすがのレーちゃんもショックなんだけどー!」
「ちょっと静かにしてて」
優希としては、先ほどの本の内容が一部引っかかっていた。
こちらの世界において異世界人が現れる場所はほぼ限定されていて、その場所にはそれぞれ共通の特徴があるらしい。森には白い祠の前、海には双子岩と呼ばれている二つの岩の間、空の場合は落下地点に深い湖が存在するのだという。その湖の形などもある程度法則性があるらしいが、中でもそれらが集中している地点がこの図書館を中心とした半径1キロ以内らしい。
足元からこの周辺の地図が描かれている本を取り出して本に書いてある情報と照らし合わせてみるが、地図の方には祠や岩の位置まで書かれていなかったためにそれが真実かどうか判断できなかった。しかし、自分が倒れていた地点にも祠があったことから察するに間違った記述はないのだろう。
「なるほどね……」
「あれ? もしかしたらもしかすると森人について調べてたの?」
下から本の題名を覗き込んだレーちゃんが茶化すように話しかける。
対して優希は、まぁね。と短く答えると本を閉じて本棚の上に置いた。
「ちょっと外に出てくるから、誰か来たら知らせてね」
それだけ言うと先ほどシャトルーズが立てかけたはしごに手をかけて下へ降りる。
文句を散々垂れているのを聞かないようにして、優希は図書館の外へと出て行った。
読んでいただきありがとうございます。
優希の能力については、そのうち明らかになります。
これからもよろしくお願いします。




