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二冊目 図書館の幽霊



 優希が自室の扉をあけ放つとレーちゃんが床にうずくまっていた。

 確か、お札をあのあたりに置きっぱなしにしていた気がした。


「レーちゃん!」


 まさか! と思いつつ優希はレーちゃんに駆け寄る。


「しっかりして! あなたらしくないじゃない!」


 レーちゃんがぎこちない動きで優希の方を向いた。

 よく見れば、彼女の横には先ほど優希が置いて行ったやかんやらお札やらが散乱していた。


「ごめんね……あたし……ちゃんとできなかった……やっぱり、出来損ない……かも……」


 本気で成仏しようとして失敗したらしい。

 やはり言い過ぎてしまったと後悔の念で押しつぶされそうになった。


「あぁ……せめて、この図書館が以前の活気を取り戻すところ……見たかった……」

「レーちゃーん!」


 悲痛の叫びは図書館の端まで響いていたという……




 *




 図書館の最上階に位置する優希の自室。

 開館時間にも関わらず優希は、いまだにここにいた。

 原因は、彼女の目の前に座る幽霊だ。


「で?」


 この一言だけでレーちゃんは更に縮こまった。


「えっと……言われた通りにへそで茶を沸かそうとしてました」

「それは、さっき聞いた」


 基本的にのんきで小さなことは気にしないのだが、こればかりは怒っていた。


 さきほどのあれは、成仏うんぬんではなく、言葉通りへそで茶を沸かそうとしていたらしい。

 だが、やかんをまず持つことができずにそこらへんでじたばたしていたらしい。それにしてもややこしすぎる。


「なんか、ユウがすごーく不機嫌!」


 先ほどまで小さく縮こまっていたレーちゃんだが、何を思ったのか一気に語尾に音符でもつきそうな調子までもってくる。

 相変わらずこの幽霊の思考は読めない。


「反省していないみたいだから、今日は一日この部屋にいなさい」


 冷たく言い放った優希は部屋を出て扉をバタンと閉じる。

 おまけに鍵を閉める音まで聞こえたため、本気なのだろう。だが、レーちゃんは幽霊である。そんなことは関係ない。幽霊の特権である壁抜けができるのだから鍵をかけた程度では封じ込めることなどできない。


 だが、あまり早く出るわけにはいかないため、レーちゃんはとりあえず部屋でおとなしくしていることにした。




 *




 ある貴族出身の戦士シャトルーズが図書館を訪れるといつもとは違う違和感を感じた。

 いつもなら、扉をくぐったその瞬間に尋常じゃない寒気を感じるのだ。それは、レーちゃんが思い切り抱き着いたせいなのだが、彼女のことを知覚できない彼からすれば、不可解な現象以外の何物でもない。


「まぁいいか……」


 偶然、その原因となるものが取り除かれているのかもしれない。

 そう結論付けたシャトルーズは中へ足を踏み入れて行った。次に探すのはこの図書館の唯一の職員である館長の姿を探すことだ。


 来るたびに律儀に彼女のもとに赴く人間は少数なのだが、本を借りるのには当然ながら彼女の許可が必要だし、一般人に開架されている一階以外のフロアへ行くのも彼女の許可が必要なのだ。

 シャトルーズは調べごとをするたびに二階の蔵書を必要とするため、必然的に彼女のもとを訪れることになる。


「さて……今日はどこにいらっしゃるんだか……」


 一応、一階にいることは確かなのだが、図書館があまりにも広いためにそこからたった一人の人間を見つけるのは非常に困難だ。

 入り口から入れば、古びた受付カウンターがあり、その横の扉を開けると本棚が設置してある場所へたどり着くのだが、その本棚というのがかなり巨大で高さは人の背丈の四から五倍ほどあり、一定間隔ごとに梯子が立てかけてある。

 そんな巨大な本棚がいくつも置いてあるものだから、部屋自体もかなり大きい上に薄暗いため、部屋の端からもう一方の端を確認することはできないし、短いところでも端から端まで歩くのに軽く30分はかかるのだ。


 シャトルーズは彼女の姿を見失いまいとあたりを見回しながら歩き始めたその時だった。


「これはこれは、インドア派戦士さん。いらっしゃい」


 彼女の声が上から聞こえてきた。

 声のした方を見てみれば、すぐ横の本棚の上から黒い髪の少女がこちらを覗き込んでいた。


「相変わらず……と言ったところですね」

「二階へ行きたいならどうぞ。私はここで寝てるので」


 そう言って彼女は、鍵をこちらに放ってきた。


「ありがとうございます。館長」


 すでに姿が見えない優希に礼を言ったシャトルーズは図書館の奥の方へと歩いて行った。




 *




 優希は、本棚の上からインドア派戦士の背中を見つめていた。

 いつもなら、レーちゃんがひたすら付きまとっていて常時悪寒を感じているはずなのだが、その変化に気づいているだろうか?


 そんなことを考えながら、優希は再び横になる。


「さーてと、うるさいのもいないしもう一眠りと行きますか~と……」


 先ほどまで読んでいた本をその場に置いたまま優希は眠りについた。


 なお、その日はなぜか、レーちゃんの姿を知覚できる人間も彼女の姿を見つけることはできなかったという……



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