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一冊目 ある朝の会話


「そろそろ起きなさーい!」


 優希は、まぶしい朝日とその声によりわずらわしそうにまぶたを押し上げた。

 さっそく視線に入るのは薄汚れた天井ではなく頬を膨らませている女の子の顔だった。


「……あと半日」


 優希は横を向いて布団をかぶる。

 そんな彼女の行動を見越していたのか、女の子はやっぱり。と言わんばかりにため息をついた。


「そんなことでどーすんの! 大体、最終的にやるっていったのはあんたなんだからちゃんとやりなさいよ!」


 女の子は布団を引きはがすこともなく優希の耳元で抗議を続ける。というよりそれしか方法がない。

 彼女としては布団を思い切り引きはがしたいのだが、それが“できないのだ”。


「まぁまぁいいじゃないのー」

「もーいい加減になさい!」


 女の子の目が赤い光を発しはじめ、暖かな小春日和だというにもかかわらず室温が一気に下がった。


「えっちょっと……レーちゃん?」

「大体、前から思っていたけど……いくらなんでも怠けすぎでしょうが!!」


 部屋中の家具が一気に振動し、建物自体が大きく揺れ始める。これは、特段大きな地震が発生したというわけではない。いわゆるポルターガイストと呼ばれる現象が発生したのだ。


「わかった! 起きるから、起きる起きる!」


 さすがにまずいと思った優希は、必死に手を振り弁明する。

 すると、一気に揺れが収まりあたりが静寂に包まれる。


「それでいいのよ。そもそも、今日はあいつが来る日でしょう」

「あいつ? あのインドア派戦士のこと?」

「そうよ! あのハンサムでかっこよくて家柄も最高で勉学も優秀なシャトルーズ様がいらっしゃる日を忘れたなんて言わせないわ!」


 道理で朝から騒がしいわけだと優希は一人納得する。

 時がたつのは早いもので優希がここに来てから早数ヶ月。シャトルーズは一番の常連で毎週、決まった曜日の決まった時間に訪れる。


 レーちゃんは、それが相当うれしいらしく優希の腹のあたりでピョンピョンと飛び跳ねている。それに関しては優希はそれに関して不満も抱かなかったし、痛みや不快を感じるということはなかった。強いて言うならば、かなりの寒気を感じているのだが……


「そんなにインドア派戦士のことが好きならついていけばいいじゃん」

「それはダメ! あたしがここを出てったらユウが何をやらかすかわかんないじゃん!」


 堂々と胸を張って宣言する彼女を見て、優希はせっかくこいつを追い出すチャンスだと思ったのにと舌打ちする。


「というか、ユウって略すのやめてくれる?」

「なんで? 二人合わせてユウレーって感じでいいじゃん!」

「私は死んでないわよ!」


 彼女にしては珍しく、優希は声を張り上げてレーちゃんに掴みかかろうとする。が、優希はレーちゃんの体を通り抜けて床へ思い切り衝突した。


「あっはっはっはっバッカみたい!」

「いい加減にしないとあなたを成仏させるわよ!」


 部屋に置いてあった戸棚から取り出されたお札を見て、腹を抱えて大笑いしていたレーちゃんの顔が一気に青ざめる。


「さぁさぁ。どうする気?」

「いえ……あのーですね。まだこちらで幽霊ライフを満喫していたいです。はい」

「それでよし」


 あなたのせいですっかりと目がさめちゃったじゃないの……などとつぶやきながら、優希は立ち上がる。

 そんな横でレーちゃんは正座していた。


「あなたは文字通りににへそで茶でもわかしてなさい」

「はい」


 優希はやかんを部屋に置いて退室していった。


 優希が異世界にトリップしてからもうすぐ半年が経とうとしていた。

 とりあえず寝て起きて食べてまた寝てという自堕落的な生活を送っていた優希を見かねたある人物がこの職業を紹介したのだ。


 里のはずれにある図書館の館長。


 それが、現在の優希の職業であった。

 この図書館……というよりも図書塔(としょとう)は前の館長が亡くなってから無人となっていて、優希が訪れたとき、かなりひどい状態だったし幽霊が出るなどという噂までたっていて、誰も近づきたがらなかった。


 そんな図書館を再生し、わずかながらに利用客がいるのは優希の功績と言って過言ではない……のだが、そんな輝かしいものとは裏腹に優希はあくまで自分の好きなことばかりをやっていた。


 蔵書を徹底的に読み漁り、たまにお勧めを聞かれればそれに対して答える。他のやっていることと言えば気が向いたら掃除をし、本の山に埋もれて昼寝をするぐらいだ。


「んーさすがに成仏しろは言い過ぎたかな……」


 そんな優希は、先ほどまでのけんか相手のことを気にしていた。

 この図書館に住みついている幽霊のレーちゃんは、優希が館長になる前からの住民で本人曰く先々代の館長の時代から住み着いているのだという。もっとも、そのころは生身の人間であったらしいが……


「あぁもう仕方ない!」


 いつも、周りに浮いていて騒がしいうえにそばにいて悪寒を感じないときはないのだが、いないならいないでさみしい気がする。


 優希は、踵を返して自室へと戻って行った。



 読んでいただきありがとうございます。


 これからもよろしくお願いします。

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