22 白い光の向こうで
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自身の子が『聖女の後継者』として見られるのを、彼女は避けたのだろう。
「お前の心配通り、あの貴族や神殿の連中は、あの小娘を新たな聖女として祭り上げただろうな。そうなれば、あの子が幸せを手にする事はきっと叶わなかった」
だが、実に愚かな話だ。どの神の加護も、血や遺伝によって受け継がれるものではない。それでもなお、“聖女の娘”というだけで次の聖女に仕立て上げようとする。
——『聖女』に選ばれた者は、自身の幸せを捨てる存在だ。僅かな希望すら持つ事を許されない。それを、彼女は身をもって知っていた。
だからこそ、例え貴族どもの思い込みに過ぎなくとも、そう見られる可能性そのものを避けたのだ。そして、俺に何も告げず子を産んだのも——存在そのものを消してまで、あの子の幸せを守りたかったからなのだろう。
「……だがな。お前の娘は、自分の足で俺の前に現れた。 そして、皇国へ来る事を望んだ」
そう呟いた、その時だった。
眩い光の粒の中から、イソロリピアが姿を現した。
驚いて手を伸ばすと、その指先は彼女の身体をすり抜け、虚しく宙を切る。
『亡霊ですから。触れませんよ、陛下』
「……分かっている。それより、亡霊になってまで俺に何の用だ」
『分かっていらっしゃる癖に……。 あの子を産み、命を落としてからも、私はずっとあの子を見ていました。 だから、あの子が貴方に接触した事も、もちろん知っています』
「ならば、なぜ止めなかった。 存在を隠してまで、あの子の幸せを守ろうとしたのだろう」
『——私は、貴方に自分が“聖女”である事を伝えましたよね。 それは、今日のような日が来る事を想定していたからでもあるんです』
彼女は、静かに続けた。
『貴方なら……私がそうした理由を、今のように理解してくれると思ったから』
「それだけではないだろう」
『……はい。 貴方は、ただの踊り子だった私を愛し、大切にしてくれました。 だから、あの子の事も——同じように、大切にしてくれる気がしたんです』
「馬鹿を言うな。俺は、あいつを殺そうとした」
否定する声は、低く、重い。
まるで“父になるつもりなどない”と断言するかのように。
『本当に……陛下は嘘をつくのが下手ですね』
その声と共に、白い光の泡が視界を埋め尽くす。眩しさに目を閉じ、再び開いた時——そこにイソロリピアの姿は無かった。
一瞬、胸に虚しさが残る。だが、それを振り払うように、ヴァロスは馬車の待つ方へと歩き出した。




