21 イソロリピアという秘密
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この世界では、皇族は神々の加護を授かる。
だが、多数存在する神の中に、ひとりだけ例外がいる。
――『ガルモニア』。
平和の女神であり、皇族以外からしか加護を授ける相手を選ばない存在だ。
逆に言えば、その他ほとんどの神は、皇族にしか加護を与えないということになる。
彼女に選ばれ、加護を授かった女性は、こう呼ばれる。
――『聖女』と。
争いが起こったあとに処理をするのではない。
争いが起こる前に、その芽を摘み。
たとえ争いの最中であっても、割り込んで介入し、鎮めることができる。
その力によって、世界の平和は保たれてきた。
だが、不思議なことに――
争いの場に現れ、その姿を見られたとしても、その女性の記憶は、誰の頭の中にも留まらない。
まるで、最初から「存在しなかった」かのように。
……とはいえ、ヴァロスもただの人間である。
この事実を知ったのは、まさしく『聖女』であったイソロリピアが、自ら教えてくれたからだった。
その時の記憶が、鮮やかに蘇る。
*****
「そんな事、俺に話してもいいのか?」
「何を言ってるんですか。――貴方だから、話してるんですよ」
「ふん。随分と俺のことを信用しているようだな」
「あら、今頃気づいたんですか?
私は陛下のことを、物凄く信用していますし、物凄く信頼もしているんですよ」
「……気づけなくて悪かったな」
揶揄うように、悪びれる様子もなくそう言うと、
彼女はわざとらしく、悲しげな声を出した。
「本当ですよ。陛下ったら、そんなことにも気づいてくれないなんて、酷いです」
目を擦り、涙を拭う仕草をした彼女を見て、
泣かせてしまったのかと思い、慌てて謝罪した。
すると――
「冗談ですよ。涙なんて流していませんし、悲しくもありません」
そう言って、彼女は明るく笑った。
「陛下ったら、こんなのに引っかかってしまうなんて。甘いですね」
その笑顔につられて、俺も思わず笑ってしまった。
*****
彼女は、自分が『聖女』であることを、他人には決して語らなかった。
表向きは、ただの踊り子として生きていた。
理由を尋ねたことがある。
その時、彼女はこう言った。
「称賛されたり、縛られたり、崇められたりするのは……あまり好きではないので」
その言葉自体は、きっと嘘ではない。
自身にだけ明かしたのは、
自身がそういうことをしない人間だと、彼女が判断したからなのだろう。
――だが。
ヴァロスは思う。
本当の理由は、きっと別にある。
あの小娘の存在だ。
「……そういうことだったのか、イソロリピア」
その名を、心の中でだけ呟いた。




