19 皇妃イソロリピアの選択
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ヴァロスは、彼女と出会った日のことを思い返していた。
確か――あれは一つの宴だった。
先帝である父を殺し、皇帝の座に就いてから二月ほど経った頃。
宮廷では、新たな皇帝の誕生を祝う盛大な宴が催された。
その宴には、当時各国で話題が絶えなかった「舞姫」と呼ばれる踊り子が招かれていた。
誰もが息を呑むほどの、見事な舞。
ヴァロスもまた、その一人だった。
彼が惚れたのは踊りだけではない。
踊り子――その女自身に、だった。
どうやら相手も同じだったらしく、二人は互いに惹かれ合った。
そしてヴァロスは、その女を皇妃として傍に置き、ただ一人、寵愛を注いだ。
その女こそが――
イソロリピア。
あの、肝の据わった幼女の母だ。
最後に彼女の顔を見た時、確か、こんなことを言って皇国を去った。
「陛下、久しぶりに親に会いたくなりまして。自国へ戻ろうと思います。お許しいただけますか?」
親に会いに行くだけなら、すぐに戻るだろう。
そう思い、ヴァロスはこう答えた。
「ふん、里帰りか。それくらい許可してやろう」
その時、なぜか彼女は、心底安堵したような表情を浮かべた。
当時は、親に会えるのがそんなに嬉しいのかと不思議に思った。
だが、違ったのだ。
実際は――
子を孕んだことを、自分に隠すため。
「親に会いに行く」という嘘を作り、彼女は自国へ戻ったのだろう。
里帰りを申し出た時、腹はまだ目立っていなかった。
だが、確実に孕んでいると分かっていたからこそ、
腹が大きくなり、露見する前に帰るよう計算した。
そう考えると、してやられた、と思わずにはいられなかった。
理由は明白だ。
「俺が……お前との子を望まず、生まれてきた子を忌々しく思い、殺すとでも思ったのか……」
そんなことをするはずがない、と口にすることは憚られた。
なぜなら――
あの幼女が、自らを“俺の娘だ”と名乗った瞬間、
魔力をぶつけて殺そうかと、一瞬でも思ってしまったのだから。




