16 愚か者は誰か
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「キリア! 貴女は何てことをしてくれたのですか!?」
横から響いたその声は、義母である公爵夫人のものだった。
「ヴァロス様、うちの愚か者が大変失礼を……! 母である私が代わりに謝罪いたします!」
そう言い終えるや否や、義母は勢いよくキリアを叩きつけるようにして怒鳴った。
「貴女は、このお方がどなたか分かっているのですか!? 私は言いましたよね、誰に対しても失礼のない行いをしなさい、と!」
小さな体は衝撃でよろけ、頬に走る痛みに思わず息を呑む。
反射的に、キリアは口を開いていた。
「お母様、ごめんな――」
だが、その言葉が終わる前に、皇帝がキリアを抱き上げた。
苛立ちを含んだ低い声が、はっきりと響く。
「お前が謝る必要はない」
その光景に、公爵夫妻は言葉を失い、凍りついた。
「ヴ、ヴァロス様……?」
皇帝は冷たい眼差しを公爵夫妻に向け、言い放つ。
「先程、お前はこの幼女を『愚か者』と呼んだな。だが、俺から見れば――愚か者はお前の方だ」
声はさらに低く、重くなる。
「この幼女が、誰の娘かも知らぬようだからな」
公爵夫妻は肩を震わせ、絞り出すように言った。
「恐れながら……その子は、私どもの娘でございます」
「ほう」
皇帝は冷ややかに続ける。
「お前らとは髪色も瞳の色も違い、なおかつ皇族の証であるそのブローチを胸に着けていても、か?」
その言葉を聞いた瞬間、公爵は顔色を変え、キリアの胸元のブローチに向かって手を伸ばした。
――だが。
皇帝は即座に身を翻し、その動きを阻止する。
そして視線だけを後方に投げ、淡々と命じた。
「アクシオス。この者達を、この場から消せ」
「はっ」
傍に控えていた騎士が即座に応じ、公爵夫妻の腕を掴み、そのまま階下へと引きずっていった。
(わぁ……すごい力持ちなお兄さん……)
皇帝は再びキリアへ視線を戻し、先程とは打って変わった穏やかな声で尋ねた。
「先程の者達は、知り合いか?」
「……私を拾って、ここまで育ててくれた人達です。親だと思ったことは、一度もありませんでしたが……」
「そうか……」
皇帝は静かに呟くと、叩かれたキリアの頬にそっと触れた。
次の瞬間、眩い光が生まれ、頬の痛みは嘘のように消えていった。
(これが……魔法……)




