15 賭けに出た幼き皇女
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「それが、どういう意味を持つべきか分かっているのか?」
皇帝の視線の先にあったのは、国章のブローチだった。
「あ……」
恐らく、先ほどこの強靭な体にぶつかった際に落としてしまったのだろう。
「そのブローチもそうだが、お前の瞳の色もだ」
そう言われ、キリアは反射的に両手で目元を覆ってしまった。
(隠す必要なんて……ないのに)
「それに、ダンスの時間中に子供が1人で行動していること自体、不自然だ。どうやら俺に言いたいことがあるらしいな。言ってみろ」
皇帝は視線を逸らすことなく、静かにそう告げた。
(向こうから発言の許可が出るなんて……予想外。でも、この機会を逃すわけにはいかない)
キリアは右足を1歩引き、腰を落とす。
自分史上、最も美しいと思える礼をとり、落ち着いて見えるよう細心の注意を払って口を開いた。
「発言の許可をありがとうございます、ヴァロス様。これより申し上げる無礼な言葉を、どうかお許しください」
1拍置き、キリアは続ける。
「お察しの通り、私はこの国の者ではありません。アストラフ皇国の人間です。そして皇室の者――失礼ながら、貴方様の娘であります」
その場の空気が張りつめる。
「叶うことならば……私が本来いるべき場所へ、共に帰ることをお許しいただきたく存じます」
皇帝の表情は微動だにしなかった。
彫刻のように整った顔のまま、感情は一切読み取れない。
――しかし、次に零れた言葉にキリアは息を呑んだ。
「イソロリピア……あの女……」
その声には、確かに苛立ちが含まれていた。
イソロリピア。それはキリアの実母の名。
短く舌打ちすると、皇帝は問いを投げかける。
「お前は、この俺が皇国へ連れ帰ると思って、その無礼な願いを口にしたのか?」
低く、感情の滲まない声。
「いいえ。そのようなことは考えておりません」
「ではなぜ、勝算のない願いをした?」
勝算がない――それは事実だ。
けれど、キリアにとって重要なのは、そこではない。
「これは……先の長いであろう、私の人生そのものを賭けた行為です」
キリアは一度も皇帝から目を逸らさず、続けた。
「昔、ある人が言っていました。賭けにおいて重要なのは勝敗ではなく、その賭けをしたかどうかだと」
「賭け、か……」
皇帝は小さく息を吐き、口角を僅かに上げた。
「面白い。その賭けに乗ってやろう。幼子相手に駆け引きとは……珍しいものだ」
そう言って鼻で笑うと、皇帝は床に落ちていた国章のブローチを拾い上げた。
――キリアに手渡す、かと思いきや。
皇帝は彼女の前にしゃがみ込み、その胸元へと丁寧に留めた。
「え……い、いいのですか? 懇願した私が言うのもおかしいですが……」
皇帝は立ち上がり、先ほどよりも幾分柔らい声で言う。
「なんだ? 本当は嫌なのか?」
「い、いえ……ただ、驚いてしまって……」
そのとき、背後の階段から複数人が上ってくる騒がしい足音が響いた。
(来てしまったのね……思ったより早かった)




