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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十七章

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第469話 果たされる事のない、咲良との『約束』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 北条達『サムライトラベラーズ』が、途中で見つけたヴェナンドらと共に初見殺しエリアから戻ってくると、転移部屋には冒険者が一人も見つからなかった。

 そのことを不審に思いながらも、ダンジョンから脱出する一行。

 ダンジョンから出てすぐの広場には人がいたものの、その数はやはり少ない。



「なあ、ちょっと聞きてーことがあんだけどよ」


「ああん? っておめーら、『サムライトラベラーズ』か?」


 龍之介が冒険者の男に声を掛けると、男は少し驚いた様子で龍之介を見る。

 Cランク冒険者パーティーはそれなりの数があるといえど、この街では『サムライトラベラーズ』と『プラネットアース』の名はかなり広まっている。

 男も龍之介と更に奥にいる北条の顔を見て、すぐにそれだと気づいたようだ。


「そーだよ。んなことよりも一体何があったんだ? 転移部屋には誰もいなかったぜ」


「そりゃあ当然さ。もう何日も前から許可がないと潜れねーようになってるからな」


「ああん? どーゆーことだよ」


 何を言っているんだ? という目で男を見る龍之介だが、男も逆に龍之介のことを同じような目で見ている。


「どーゆーって……。まさか、今の状況を知らねーのか?」


「今の状況? オレ達は二か月近くダンジョンに潜ってたから、今どーなってんのか知らねーんだよ」


「二か月……。なるほど、それでか」


「一人で納得してないで何があったか教えろよ」


 やっと状況が理解出来たといった男に、龍之介が少し苛立ちを見せながら問いかける。


「……今この国は二つに分かれて争ってるとこなんだよ」


「……はあぁぁっ!?」


 男の答えに、龍之介は一瞬言っている意味が理解できずにいた。

 それは後ろで聞いていた他の者もそう大きく反応は変わらない。

 一瞬の会話の空白が生まれ、各自が男の言葉の意味を咀嚼し始めると、真っ先に口を開いたのは北条だった。


「誰と誰が争ってるんだぁ?」


「王子様と貴族様方だよ。最初は王子様が王様を殺したって話だったんだけどよ。その後王子様たちもグリーク様の所に落ち延びて、王様を殺したのは何とかっちゅう公爵様がやったんだって言いだしてな」


「公爵……? ベネティス辺境伯ではなくてかぁ?」


「いいや、名前は曖昧だが公爵様だったはずだ」


「ベネティス辺境伯なら貴族派に加わってたはずよ」


 北条が男と話していると、男と同じパーティーメンバーの女が話に加わってくる。


「他にも貴族派勢力にはたくさんの貴族が集まっていて、アルザスの街もすでに奴らに奪われたそうよ」


「何っ!?」


「ひでー状態だったらしいぜ。ヤツらは何千人っていう街の人間を虐殺して略奪の限りを尽くしたって話だ。これじゃあ話に聞こえてくる帝国の奴らと変わらねーよ」


「そんな……」


「何てことしやがるっ……」


 男の話を聞いてメアリーが茫然とし、龍之介は行き場の無い怒りをぶつけるように、強く地面を蹴る。


「……その話は分かったけど、なんでダンジョンの侵入まで制限されてるの?」


 カタリナも顔を顰めてはいるが、それよりも先に情報を集めるの先だと話を軌道修正する。


「それはアルザスが陥落したからね。今の状況ではここの領主のアウラ様もダンジョンの管理も出来ないでしょうし、それに戦力として冒険者が必要だったんでしょ」


「そーだな。俺たちにも声を掛けていた位だしな」


「確かにアルザスを抜ければこの町までは近いだろうけど、大軍であの湿地帯を抜けてくるとは思えないわ。そもそもそのまま北に行けば《鉱山都市グリーク》があるんだし」


 カタリナとロベルトも、ベネティス領から《ジャガー町》に流れてくる時はマヌアヌ湿地を通っている。

 その時の実感として少数で移動するならともかく、大軍での行軍に向いていないことは素人目にも明らかだった。


「それでもここを守るアウラ様としては、出来るだけ戦力をとどめておきたかったんだと思うわ。ほら、あなた達と同じクランの人達も色々動いてたみたいよ」


「あいつらが……。それでお前達はここで何してるんだぁ?」


「私達は……その…………」


「俺たちは……戦争に巻き込まれる前に、こっちに逃げてきたんだ」


 二人の冒険者は申し訳なさそうに言った。

 その様子からして、二人は罪悪感のような物を感じているように見える。

 アウラやアーガスらは領民にも人気があったが、それは冒険者からしてもそう変わらない。

 特に他の貴族派の貴族のことを知っている冒険者は、余りの違いに驚く程だ。


「……そうかぁ」


 北条としては、二人の冒険者に掛ける声も思い至らず、ただ厳かな口調で頷くだけだった。


「な、なあ。あのことは言わなくていいのか?」


 これまで話していた男女の他に、背後には更に四人の冒険者が腰を下ろしていた。

 その内の一人、先ほどから話に割り込もうとタイミングを窺っていた男が口を開く。


「そ、そうだった。なあ、あんたら。ベラベラ話してた俺が言うセリフじゃねーけど、早くあの要塞に帰った方がいいと思うぜ」


「そうだなぁ。確かにその方が話が早いかぁ」


「いや、まあそれもあるんだけどよ。あの要塞で派手にやりあってたらしいぜ」


「……あぁ?」


「そ、その、俺たちはもっと前にここに来てたから詳しく知らねーんだけどよ。後に逃げて来た奴のは、話だと、数日前にあの要塞に貴族派の軍勢が攻めてきた……って話らしい」


 意識せずに表に出た北条の感情の発露に、男はビビりながらも説明をする。

 言葉を発するごとに強まっていく北条からの圧に、男はついに体が震え始めてしまう。


「オッサン!」


「北条さんっ……」


「戻るぞ」


 短く一言北条が告げると、『サムライトラベラーズ』の面々とニアとラビは、ダンジョン脱出直後だというのに即座に拠点へと帰還を始める。


「どうやら大事になっているようだな。落ち着いたら冒険者ギルドまで訪ねてきてくれ」


「その……またね」


 早々に移動を開始する北条達の背に、ヴェナンドとファエルモの声が掛けられる。

 五人が五人とも気が急いている状況ではあったが、二人の見送りの言葉にメアリーがちらりと後ろを振り返って軽く礼をする。





▽△▽



 帰りの道中は誰も口を利くことがなかった。

 静かで独特の緊張感を孕んでいるこの状況は、まるでボス戦に挑む時のような状況にも似ている。


 町からダンジョンへ通じる道は、冒険者の増加に伴って整備されてきている。

 初めの頃の山道を通っていた頃は、片道だけで四時間近くかかっていたものが、今では三時間もあれば到着する位になっていた。


 その道を早足……ほとんど軽くジョギングする位の速さで移動し続けること二時間弱。

 久々に目にする拠点の外壁には、大きな変化はみられない。

 結界の機能がまだ維持されていることに、北条は一先ず安堵する。

 詳しい話を聞く前に飛び出してしまったが、移動の最中は拠点がボロボロになっていたら……などという考えが浮かんでは消えていたのだ。


「とりあえず拠点の方は見た感じだいじょーぶそうだな」


「そうね……」


「……中に入るぞ」


 北条を先頭に、東門へと移動していく。

 すると、拠点そのものは変化が見られなかったが、その周囲の橋や水堀の部分の至る所に、戦闘の形跡らしきものが残っているのが目に入って来る。


「……」


 死体が全く無いことから、これでも片付けがある程度済んだ後なのだろう。

 それでも以前の光景との違いに、一同は声も出ない。


「ホージョー団長……」


 橋を渡った先、東門の守衛所に詰めていたのは、守衛最年少のレオナルドだった。

 北条らを見て声を掛けてきたレオナルドだったが、その声に力はない。


「レオか。他の連中はどうしてる?」


「……少し前にシンヤ副団長たちが帰って来たんです。それで、その後に……」


「その後にどうした?」


「案内します……ね。皆さん中央館にいるはずですから」


 レオナルドに案内され、中央館へと向かう一行。

 案内された先は会議室ではなく、リビングルームだった。

 それなりの広さがあるリビングルームだが、今は室内に人がごっちゃ返している。

 その中にはアウラやエスティルーナの姿も混じっていた。

 レオナルドが扉を開けると、中にいた多くの人の視線が北条らへと向けられる。



「………………っ!?」


 扉が開いたことで一斉に視線が集まり、全員の視線が北条達のいるドアの方に向く。

 みんなの顔は一様に沈んでいて、中には怒りを押し隠している者もいた。

 部屋を順に見回していた北条は、その途中で吸い込まれるように視線が固定される。


「さく……ら……?」


 そこには全身に火傷痕や切り傷を負った咲良が横たわっていた。

 だというのに、北条の"魔力感知"スキルは咲良の魔力を感知していない。

 それは"生命感知"スキルもまた同様だった。


「ま、マジ……かよ」


 龍之介も咲良に気づき思わず絶句する。


「サクラ……」


「…………」


 カタリナ達も、目の前のことが信じられないと言った様子で目を見開く。

 一歩、また一歩。

 フラフラとした足取りで北条が足を進める。




『その、約束ッ……ですよ?』



 不意に北条の脳裏にあの日の思い出が甦ってくる。



『約束?』



『アイツにまた襲われたら助けてくれるって』



『……ああ、分かった。"約束"、だな!』


 それはあの日の誓いの言葉。

 二人の間で交わした、大事な約束だった。







「咲良ああああああぁぁぁぁぁッッ!!」


 狂乱したような叫び声を上げる北条。

 そしてフラフラと歩きながら、あの日と同じように小指を差し出す。

 しかし横たわる咲良からは、二度とその手が差し出されることはなかった。



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