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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十七章

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第468話 咲良 後編


 脱出して見せる! ……と強く決意したものの、すでに私の心はくじけかけている。


「どうだ、火傷痕を切り刻まれるのは? いてぇだろ?」


 夜までは大丈夫だと思っていたのに、この男(シルヴァーノ)は昼のちょっとした休憩の時にも私を痛めつけてくる。

 ただでさえ全身の火傷痕がヒリヒリとして、風が当たるだけでも痛いのに、そこを短剣で薄く切り裂かれた。

 それも何度も。


「うぅっ……」


 出来るだけ声を上げたくはないけど、どうしても我慢できずに声が出てしまう。

 その度にシルヴァーノは吐き気がするほど歪んだ笑顔を浮かべる。


「……シルヴァーノ殿。そろそろ出発しますぞ」


「あぁ? ちっ、しゃあねえなあ」


 副官らしき人が来て、昼の束の間に挟まれた地獄の時間が終わってくれた。

 そしてその人が私の状態を見て思うところがあったのか、"神聖魔法"での治癒をこっそり部下に命令していた。


 アルザスの街の話を聞いていたから、貴族派の連中なんてみんなケダモノみたいな奴らかと思ってたけど、中には例外もいるらしい。

 ただ流石に完全に回復はされなかった。

 でも多少は回復したので、隙を突いて逃げ出す位の体力はもつかも。


 昨日もあれだけ死にそうな目にあったのに、なんだかんだでまだ私は生きている。

 この世界に来てから見かけ以上に体が丈夫になっているみたい。

 これもステータスのおかげなのかな。





▽△▽△▽



 昼の休憩の後、日が暮れるまでに一度だけ短い休憩の時間があったけど、流石にその時は時間が短すぎてあの男も来なかった。

 でももう陽が暮れて野営の準備が始まっている。

 私はチャンスを窺いながらも、いつあの男が来るのか恐怖に震えていた。


 辺りは既に暗く、その上焚火なども焚いていないので遠くまで視界が通らない。

 そんな暗闇の中、多くの兵士が設営作業を行っている。

 私はというと、ちゃちゃっと張られたテントの中に押し込まれた。

 見張りに二人の男が立っている。


(昨日はテントを張ってから少し時間を空けてからアイツが来たけど、今日はどうだか分からない。今がチャンス……)


 そう思うんだけど、なかなか行動に移せない。

 もし途中で見つかっちゃったら……。

 きっと昨日よりも酷い目に遭わされる。

 無駄に時間だけが過ぎていって、焦燥感だけが募っていく。


 そんな時だった。



「なんだ!? 火事か?」


「いや、違う! あれは魔法の火だ!」


 見張りの男二人が騒ぎ出す。

 天幕の中にいる私からは見えないけど、何か騒ぎが起こっているようで、他にも兵士達の慌てふためく声が聞こえてきた。


(もう……ここでいくしかない!)


 私はようやく迷いを断ち切って、スキル"認識隠蔽"を発動させる。

 縄は身体に巻きつけられているだけなので、歩くだけなら問題はない。


 そーっとそーっと……。

 息を殺して見張りの二人の脇を通り過ぎる。


(あっ……)


 その時、見張りの一人の腰に見覚えのある短剣が帯びていることに気づく。


(これって、魔法を封じる短剣?)


 最初私が捕らわれるきっかけにもなった短剣。

 昨夜と今日の昼間に、あの男が私を切り刻んだのもこの短剣だった。

 多分あれはただ痛めつけるだけじゃなくて、魔法封印が解けないように使用されてたんだと思う。


(バレないようにそっと……)


 男の腰に佩かれている短剣を、そっと私は後ろ手で引き抜く。

 この人が短足でよかった。

 丁度私の手の位置とそう変わらない位置に短剣がなければ、諦めて通り過ぎていたかもしれない。


 見張りの二人は私がこれだけ大胆に動いているのに、全く気づいた様子はない。

 龍之介相手に何度もこのスキルを使用してたから、スキルの扱い方が地味に上達してたのかも。

 癪だけど龍之介には感謝しないとね。



 私はそのまま"認識隠蔽"の状態を維持したままテントから離れる。

 まだ後ろ手に見張りから奪った短剣を手にしたままだけど、今ここで縄を切る時間はなさそう。

 外に出ると遠くでは何やら魔法の光が飛び交っていて、すごい騒ぎになっていた。


 でもそんなこと気にしてる余裕もないので、とにかくこの野営場所から離れることだけを考えて私は足を動かす。


(しまっ……)


 その途中、木箱に立てかけてあった槍だのなんだのに足を引っかけてしまい、思いっきりそれらを倒してしまう。


(ヤバイ! 早く……早く逃げないと!!)


 この失態で余計焦ってしまった私は、逃げる途中に何度も転んでしまう。

 それでも、なんとか野営地から離れることができた。


「あとはこれ……を……」


 私は苦労しながら体に巻き付いている縄を、魔法封じの短剣で切っていく。

 傍から見たら不格好な姿勢だけど、今の私にそんなこと気にしてる余裕はない。


「ふぅぅ……。これでいいわね。でも、もっと距離を取らないと……」


 野営地から抜け出したとは言っても、ほんの数百メートル位の距離だと思う。

 スキルを持った人が探せば、すぐに見つかってしまうような距離だ。


「もっと……遠くに……。森の奥に……」


 辺りは真っ暗で、どこか遠くからは魔物だか動物だかの鳴き声も聞こえてくる。

 体は悲鳴を上げているけど、ここで止まる訳にはいかない。

 私は眠気と疲労感と恐怖を必死に抑えながら、夜の森をひたすら歩いていった。






▽△▽△▽△



 ……あれから三日が経過した。


 あの夜に我武者羅になって移動したせいで、私はすっかり道に迷っている。

 手持ちの荷物は魔法封じの短剣のみ。

 魔法も未だに封印されて使えない状態。


 水は途中で見つけた小川の水を飲んだけど、その後お腹の調子も悪くなってしまった。

 食べ物もその間ずっと口にしていない。


 ……今ここに北条さんがいたら、サバイバル知識でどうにかなったのかな?


 大分参ってきてる私の脳裏には、北条さんのことがよく浮かんでくる。

 不安が高まった時にあの人(北条)のことを思い浮かべると、少し救われる気がするの。


 今だって、再び見つけた前のより少し大きい小川を前に、北条さんの顔が思い浮かぶ。

 前回はお腹の調子が悪くなったけど、この水は大丈夫なのかな?

 でも私の喉はもうカラカラで、ここは無理してでも飲んでおきたい。


 喉の渇きに逆らえず、私は川辺へと近づく。

 すると、そこには水面に映る自分の姿があった。


「こん、なに……」


 鏡のようにハッキリ見える訳でもないけど、水面に映った私は酷いものだった。

 火傷痕や切り傷、乾燥してこびりついていた血に泥まみれの姿。


「こんなになっちゃった私に告白されたら……、北条さんも困っちゃう……かな?」


 そう考えると瞳に涙が浮かんでくる。

 あの男(シルヴァーノ)に痛めつけられた時には出なかった涙。

 でも今は涙が溢れ出してくるのを止められそうにない。


「うぅっ、う……。うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ついには堪えきれず大声で泣きだしてしまう。

 もう振り切ったとは思うけど、この森には人間以外にも魔物や危険な動物なんかも生息してる。

 森を移動してる時も、"認識隠蔽"を使ってそういった相手に見つからないようにしてきた。


 でも、ここ数日の間に溜まっていたモノはそんな状況判断を吹き飛ばす位強く……そして抑えきれなかった。

 どれくらいそうして泣き叫んでいたんだろう。

 幸いあれだけ叫んでいたのに、魔物が近寄ってくることはなかった。


 思いのたけを叫び声にして吐き出した私は、空っぽな心のまま再び水面に視線を戻す。

 そこには変わらず酷い顔をしている私が映る。


「……あ」


 でもそこで私は気づいた。

 捕まった後に杖も〈魔法の小袋〉も全て奪われたと思っていたけど、一つだけ残っていたものがあった。


「北条……さん……」


 私はぐしゃぐしゃになって泥のついた、酷い状態の髪に手を入れる。

 そして、そこに止められていた星形の髪飾りを取り外した。

 これはあの日、パーティー編成で北条と離れ離れになって不安になっていた私に、北条さんがくれた〈スターストーン〉の髪飾り。

 少しでも北条さんのぬくもりを感じようと、私は痛い位に髪飾りを強く握りしめる。


 しばらくそうして拠り所に縋るようにジッとしていると、少しだけ前に進む気持ちが甦ってくる。

 私は小川で喉の渇きを潤し、最低限の顔の汚れだけを冬の冷たい水を我慢して洗い流す。


「絶対に……帰る……から…………」


 すでに足が棒のようになっていて、感覚が鈍くなってきている。

 けど私はそんな他人のような足を無理矢理動かし、森を進んでいった。






▽△▽△▽△▽



 ……これはダメかもしれない。


 すでに手足の感覚も寒さの感覚もなくなっている。

 最後に小川を見つけてから二日くらい……が経った。

 昼間は"認識隠蔽"を使ってるから魔物に見つからないけど、真っ暗な夜に一人でグッスリ眠るのは無理だ。

 

 "認識隠蔽"を多用してるせいか、生命力だけじゃなくて魔力も大分底をついている。

 視界もぼやけてきていた。

 自分が今真っ直ぐ歩けているのかも分からない。

 ただひたすら機械的に足を一歩前に出していく。

 今ここで足を止めたら、もう二度と歩け出せない気がする。


「シァァァッ」


 でもそんな私の前に、蜘蛛の魔物が二匹現れて行く手を塞ぐ。

 今気づいたけど、どうも"認識隠蔽"のスキルがガス欠(魔力不足)で解けていたみたい。


「はぁぁぁっ、はぁぁぁぁぁっっ……」


 見た所相手はただのシェロブ――Fランクの魔物みたいだけど、今の私では……。

 絶望的な状況に、私は身体の芯から力を振り絞って、だらりとぶら下げた手に魔法封じの短剣を構え、シェロブへと襲い掛かる。


 いざ戦闘となると、思っていた以上に体が動いてくれて、シェロブにダメージを与えていく。

 でもそれでもシェロブに退く気配はなかった。

 フィールドの魔物は不利になれば逃げだすこともあるけど、満身創痍な私を前に諦めきれないのかもしれない。



 結局そのまま二匹のシェロブを仕留めた私は、戦闘が終わるとその場にへたり込む。

 もう、立てる気がしない。

 さっきの戦闘で全ての力を使い果たしてしまった。


「北条さん、ごめんな……さい…………」


 最後の力を振り絞って手を上げていく。

 ただそれだけなのに、えらく時間がかかる。

 そして頭部まで持ち上げた手で、ゆっくりと髪飾りを取り外す。


 取り外した髪飾りの感触を確かめるように、何度も手でなぞる。

 でもそのうち体を起こしていくのも辛くなって、倒れこむようにして地面に横になった。


(…………あ、れ? もしか……して……)


 そこで私は気づく。

 これまで私を縛っていた魔法の封印の力が解けていることに。

 でも、今の私の魔力はカツカツ状態。

 弱っているせいか、魔力の回復力も相当弱まっている。


「…………さい、ごに」


 私は魔法を一つ発動させる。

 今の私にはこれで精一杯。

 もう今は、さっきまで患っていただるさ、つらさなどが全て感じられなくなっている。

 地面の冷たい感触ももう気にならない。




 意識が……薄れていく…………。




 私を包み込むようなこの暖かいものは何だろう?

 もう何も感じなくなってきたと思ったのに、不思議とこの暖かさだけは感じられる。



「――――――ッ!」



 近くで北条さんが私を呼ぶ声が聞こえてきた。


 ……悲しそうな顔で、右手の小指を差し出しながら私に近づいてくる。

 




(北条さん……)



 それは幻覚なのかもしれない。

 でも、最期にその姿を見れて、私は……。



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