第467話 咲良 前編
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ついに攻め寄せてきた、魔物ではない人間の軍隊。
それはレイドエリアで無数の魔物に襲われた時よりも、私の心をざわつかせる。
あの人が……北条さんがいればここまで不安な気持ちにもなってなかった。
でも今、北条さんはダンジョンの探索中。
それなら私達が帰ってきた北条さんを安心させられるように、しっかりと戦わないと……。
そう思いながら、私は橋を渡ろうとしてくる敵の兵士に魔法を撃ち続ける。
私の放った魔法ひとつで一度に十人以上の命が失われていく。
けど、私は心を機械のようにして、ひたすらその作業を続けるしかない。
どれほどの命を奪ったのだろう。
それすらも分からなくなってきた頃、敵は動きを変えてきた。
ただ突っ込んでくるんじゃなくて、突撃する人を選りすぐっているみたい。
やがて選出を終えたのか、彼らが橋を渡り始める。
その速さはこれまでの比じゃなくて、私の魔法も少し的を外してしまう。
「あっ……」
そして私は気づいてしまった。
あの集団の中に因縁の相手であるシルヴァーノが混じっていることに。
私の攻撃の手は一瞬止まったものの、それでも緩めることはなかった。
けど元々レベルの高い人の集まりなのか、まともに魔法が命中しても思ったよりダメージを与えることができない。
その集団はややあって通用門の所まで到着してしまう。
反対側にいる和泉さんがそんな彼らに"光魔法"で攻撃をしている。
「アーシア。もしかしたらここにも敵がくるかもしれないから、護衛よろしくね」
「ぷるんぷるん!」
私がお願いするとアーシアは元気よく体を震わせて答えてくれる。
私が今いる場所に来るには、外壁沿いに並んでいる塔を通らないといけないけど、今はどの塔の門も硬く閉ざされている。
でも油断はできない。
このファンタジーな世界の人なら、直接この胸壁の上まで登れる人もいると思う。
私にアーシアがつけられたのも、和泉さんみたいな物理戦闘力がなかったから。
「……目標はあの娘だ」
「ハッ」
最初あれだけ魔法で敵を殺したせいだろう。
通用門を抉じ開けて中へ入ってきた集団の内、二人ほどが私の下までやってきた。
壁の高さは十メートル位はあるんだけど、スキル次第ではやっぱりこれくらいは上られちゃうらしい。
「アーシア!」
「ぷるん!」
即座に私は後ろに下がり、アーシアを後方援護しながら戦いを始める。
けど、この二人。恐らく相当レベルが高い。
特に指示を出してる背の高い方の男は、多分Bランク以上だと思う。
「……ッ! この人型スライム、見かけ以上のようです」
「……狙いを変えるか」
そう言うと背の高い男は直接私を狙うように動き始める。
アーシアは私を必死に守ろうとしてくれてるけど、明らかに私が枷になって攻撃をくらい始めていた。
「チッ、このスライムどんだけタフなんだ!」
私を庇って攻撃を受け始めたアーシアだけど、各種耐性スキルや"高速再生"スキルを持つアーシアに、二人も大分苦戦している。
このままいけば耐久力の差で押し勝てる!
そう思ってしまった私は、この状況でつい心が緩んでしまった。
その心の緩みを見逃さなかった背の高い男は、私に向かって短剣を投擲してくる。
「ううっ……」
その短剣は私の肩の部分に突き刺さり、思わず声を上げてしまう。
でも、これくらいなら! そう思って、短剣を抜いた私は"神聖魔法"で肩の傷を治そうとするけど、何故か魔法が発動しない。
混乱した私は何度も魔法を発動させようとしたんだけど、魔法の構成は出来てるのに魔力が体内から出て行かないような。そんな訳の分からない状態になってしまっていた。
「ぐっ……!」
そんな混乱状態の私に、背の高い男がスルリと近寄って私を後ろから羽交い絞めにしてくる。
男の右手にはさっき私が抜いた短剣を握られており、その切っ先は私の首元に当てられていた。
「そこのスライム、そこまでだ! この娘の命が惜しければ抵抗をするな」
アーシアは私達の大事な仲間ではあるけど、私が使役している訳ではない。
……んだけど、そう言われたアーシアは動きをピタッと止めてしまう。
「まさか魔物相手に人質が通用するとは……なっ!」
もう一人の男がそんなアーシアに思いっきり蹴りを入れて、胸壁の上から突き落とした。
「一先ずこの女を連れて我々は外へ脱出する」
どこから取り出したのか、縄で縛られた私はそのまま背の高い男に抱えられたまま、通用門から外へと出る。
チラッとみた感じだと、今は次々と敵が中へと進入していて大分厳しそうな状況だった。
私が捕まっていなければ……。
悔しさが胸を打つ。
アーシアも胸壁から落ちただけなら無事だと思うけど、私のせいで余計なダメージを受けてしまった。
一つだけ救いがあるとすれば、敵の攻撃が最終的には失敗に終わったこと。
私は荷物のように男に担がれたまま、そんな逃亡者達に捕らわれながら、森へと逃げていくことになった。
▽△▽△▽
「いま、のは……」
薄暗い中に微かに指す陽の光に私は目を覚ます。
どうやら昨日の闘いの夢を見ていたらしい。
意識がハッキリしてくると体中が痛みの信号を訴えてきて、まともに体を動かすこともできない。
そもそも体を縛っている縄のせいで、健康な状態であってもこれでは自由に動けない。
そして昨夜のシルヴァーノから受けた仕打ちを思い出す。
"恐怖耐性"スキルがなければ、今頃震えて動けなかったかもしれない。
……うううん。スキルがあっても昨日の拷問は私の心を打ち砕いた。
明日……、いえ。今日までなら、なんとか耐えられるかもしれない。
でもあんなのが毎日続いたら、きっと私は壊れてしまう。
魔法の方も相変わらず発動してくれない。
あの時はパニクってたけど、多分これは魔法を封じる状態異常かなんかだと思う。
タイミング的には多分、あの時投げられた短剣。
あれを肩に受けてから、こうなったような気がする。
シャンティアさんが悪魔戦の時に仲間だった人に刺された時も、確か同じような状況になったって聞いたことがある。
(そうなると、自分でこの状態を治すのは無理……かな)
それでも体内の魔力を高めてみたりして、どうにかして魔法封印状態を打ち破れないか試してみたけどダメ。
けど一つだけ発見があった。
私は慶介くんみたいな特殊能力系スキルは持っていない。
だけどダンジョンの祝福を受けて、一つ能動的に使用できるスキルを覚えていた。
"認識隠蔽"
このスキルは魔法を封印された今の私でも使うことができた。
でもこのスキルは使用している間、体力や魔力を消費し続ける。
常に発動し続けることはできない。
北条さんによると、"認識隠蔽"は"認識阻害"の上位にあたるレアスキルらしく、龍之介相手に使用した時は何度も不意を突けたほど、その効果は高い。
でも、さすがにあのシルヴァーノ相手に通用するかは微妙な所。
それに今の私はろくに体を動かせないような状況。
このスキルを使って脱出するにせよ、今は体力を少しでも回復させないと……。
遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声を聞きながら、私は今日明日の内に脱出してみせると強く決意した。




