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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十七章

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第470話 髪飾りのメッセージ


「…………」


 咲良の亡骸を前に、茫然と立ち尽くす北条。

 龍之介らも咲良の傍へと近寄り、そして、微動だにしない咲良に顔を歪める。


「なあ! 一体何があったんだよ!?」


「……数日前。この拠点に貴族派の軍勢が襲い掛かってきた」


 龍之介の悲痛な声に応えたのは信也だ。


「敵の数は千人以上。その中にはあのシルヴァーノもいた」


「――ッ」


 シルヴァーノという名前に北条が微かに反応を見せる。

 ただ何か言葉を発することはなく、そのまま大人しく話の続きを聞く。


「兵力差は歴然だった。だが北条さんの築いたこの拠点の防御は硬く、結局結界も破られることはなかった」


「あの結界がなければ、もっと被害は出ていただろうね」


 結界についてシグルドが補足の説明を入れる。

 実際に敵の侵入経路を絞れたからこそ、あの数の差を押し返すことができた。

 結界が破られていたら外壁からよじ登られてしまい、拠点内は敵で埋まっていたことだろう。


「北条さんが残していった従魔達も大活躍をして、どうにか俺たちは奴らを追い払うことができた。見ての通り拠点もほとんど破壊されず、仲間も全員無事……そう判断してしまった」


 ここで信也が強く悔恨の表情を浮かべる。

 

「だが、次の日になって今川がいないことに気づいた。戦闘のあった日、今川はアーシアと一緒に組んで東門近くの胸壁から魔法を撃っていた。だが魔法攻撃を突破したシルヴァーノらが拠点内に入ってきて、俺たちは進入した敵の対応に追われた」


 信也がその時の経緯を軽く説明していく。

 その説明が終わる頃になって、北条が口を開いた。


「……どうやらアーシアは攫われた咲良を追って、戦闘終了後にひとりで探しに行っていたようだ」


「やはり……そうだったのか」


 アーシアは北条が帰って来た時いつものように飛びつくこともなく、まるで叱られた子供のようにただ咲良の傍で立ち尽くしていた。

 他の人間とは詳細なコミュニケーションが取れないアーシアだが、北条とは契約で結ばれているせいか、言葉ではなくテレパシーのようなものである程度意思のやり取りが出来る。

 しかも最近は北条が"念話"スキルを覚えたので、以前よりも詳細なやり取りが可能になっていた。



「戦闘時はこちらの人数も少なく、拠点各所に配置したことで少人数でばらけてしまった。そこに敵が押し寄せてきたことで、他の場所を気にしてる余裕もなく、今川が攫われたことにも気づけなかった……」


 何事も問題が起こった時は初動が大事であるが、ここで信也を責めるのも酷な話だ。

 何せこの拠点にいたアーシアを除くメンバー全員が、咲良の不在に気づけなかったのだから。


 他にも幾人か行方不明の者がいたら、話も変わっていたのかもしれない。

 しかしたった一人だけ。それもあのような緊急事態のドタバタとした状況であれば、尚の事そのことに気づけなくてもおかしくはない。


「今川がいなくなったことに気づいた俺たちは、すぐに捜索隊を組織した。途中で二手に分かれつつ、森を進んでいった俺たちは野営してる敵兵を発見したんだが……」


「皆が陽動している隙に、最初に偵察した時に目星をつけていたテントに忍び込んだんッス。でも、そこにはついさっきまで人がいた形跡があったのに、誰もいなくて……」


「シルヴァーノも前に出て来ていたので、その時はそこで一旦退くことになった。それから更に二度襲撃を掛けたんだが、今川を見つけることはできなかった。捕らえた兵に聞いた話だと、既に逃げ出した後だったらしい」


 この都合三度の襲撃によって、シルヴァーノ隊は三百ちょいいた兵数が半分近くにまで減らされていた。

 その中にはこの状況に危機感を抱いて脱走した兵も混じっている。


「その捕虜の話を聞いてからは、手分けして森の中を探して回った。だが結局今川を発見することはできず、俺たちは一旦拠点に戻った」


 そこで信也は視線をライオットへと送る。

 それを受けてライオットが続きを話し始めた。



「私達は初日に信也さん達と別れて足跡を辿っていったんだけど、こっちもハズレでね。別の敵集団がいたから殲滅はしたんだけど、そこにサクラの姿はなかった。それで一旦拠点に戻ることにしたんだ」


 その後ライオットは、ムルーダらと一緒に拠点で信也らが帰って来るのを待ち続けていた。

 しかし余りに帰りが遅いので、今度は信也達を探しに行こうかという話が出た頃、拠点にアーシアが帰ってきたという。


「日が昇って皆が活動し始めてすぐの頃かな。アーシアがひとり帰ってきたんだ。姿を大きく膨らませて、その中にサクラを包み込んだ状態のまま……ね」


 その光景にライオットは最初酷く驚いた。

 見た感じだとスライムが獲物を捕食しているように見えるが、アーシアがそのようなことをする訳はないと、それくらいの信頼は拠点メンバーは全員抱いている。

 実際にアーシアはライオットらに気づくと、丁寧に咲良を体内から取り出して、地面に横たえた。

 まるで大事なものを扱うかのように。


「……アーシアが咲良を見つけた時は、すでに虫の息だったらしい。その状態の咲良を体内に入れたのは、再生効果を期待したから……のようだ」


 北条がアーシアから受け取った念を皆に話す。

 アーシアは魔法スキルは幾つも持っているが、治癒系の魔法は使えない。

 しかしその身は"高速再生"や"生命力自然回復強化"スキルによって、非常に生命力豊かだ。

 そこに望みをかけたらしい。


「そうだったのか……」


 従魔とはいえ、魔物であるアーシアが主人の命令なくそのようなことをしたことに、ライオットは驚く。


「それで、アーシアが帰ってきてから少し経った後に、シンヤ達も帰ってきたんだ」


 ここでライオットは会話のバトンを信也へと戻す。


「そこで俺はこのことをエスティルーナに報告した。彼女も初日にライオットらに交じって捜索隊に加わっていてな。詳細が分かり次第教えてくれと言われていたんだ」


 エスティルーナは、初日に探索が不発に終わった後は、一旦アウラの下に戻っていた。

 しかしその後も、咲良のことをずっと気にしていたようだ。


「……このような結果になってしまって残念だ」


 Aランク冒険者であり、あまり異邦人達とも接点がないエスティルーナであるが、咲良の死に深く哀悼の意を示していた。

 それはエスティルーナの隣に控えているアウラも同様だ。


「エスティルーナ達がここに駆け付けてくれたのはつい先ほど。つまり、アーシアが咲良と戻ってきたのもつい今朝方の事だった……ということだ」


 数時間の差はあれど、アーシアが見つけた時にはかろうじて息のあった咲良。

 しかし、信也達も北条達もその数時間の差を縮めることはできなかった。


 幾つものもし~、~ればといった言葉が彼らの脳裏に浮かんでくる。

 だが過ぎてしまった時はもう戻せない。

 それは北条の"時間魔法"をもってしても同じだった。




「……」


 黙って咲良の遺体を眺めていた北条。

 どこへともなく彷徨うその視線がある一か所を捉えると、ハッとしたように北条は咲良の右手の部分に触れる。


「……っ!」


 その冷たく無機質な感触に、一瞬北条の動きが止まる。

 これまで魔物だけでなく、人間の生死に触れる機会が幾度もあった北条だが、今日ほど人の死について自覚させられたことはなかった。


 これまで心のどこかで漠然と咲良はまだ生きているのでは? といった思いを抱いていた北条。

 しかしこの冷たい死の感覚によって、冷や水を浴びせられたかのように咲良の死という事実を受け止めざるを得なくなっていく。


「ちょいと……失礼するぞ」


 小さく呟いた北条は、咲良の硬直した右手を丁寧に抉じ開けていって、手に握っていたモノ(・・)を取り出す。

 死後硬直というのは、時間が経過すれば徐々に解除されていく。それはこの世界でも変わらない。


 握っていたモノを取り出すだけで苦労するのは、それだけ死んでから時間が経過していないことを意味していた。

 そしてそれは少しでも早くダンジョンを脱出していたら、この結末を変えられたかもしれないということでもある。


「…………」


 北条が丁寧に慈しむように取り出したのは、見覚えのある髪飾りだった。

 取り出すのに苦労したということは、それだけ最期の瞬間まで大事に握っていたということだろう。


「北条さん、それは……?」


 恐る恐るといった調子で陽子が尋ねる。

 陽子の隣には泣きはらした由里香と、グッと涙を堪えている芽衣の姿があった。

 芽衣はその髪飾りを見てあの日の事を思い出す。


(あれは……北条さんがプレゼントした……)


 あれ以来、毎日のように大事に身に着けていた咲良の髪飾り。

 これまで芽衣は、その髪飾りを見る度に心にモヤモヤが浮かんできていた。

 けどそうしたことも今後はなくなる。

 なくなってしまう……。


「この髪飾りは、俺が咲良に贈ったぷれ…………ッ!!」


「ちょっと、どうしたの?」


 途中で言葉を切った北条に、陽子が訝し気に問いかける。

 しかし北条は陽子の質問には答えず、少し間を空けてから口元に人差し指を立てて静かにするように促した。


「ちょっと静かにしてくれるか? これには恐らく……」


 そう言って北条は咲良の髪飾りに魔力を通す。

 すると、髪飾りから聞き覚えのある声が流れてくる。



《……える? 私のこ……聞こえる?》



「こ、これって……!」


「咲良の声よね?」


「……そうか! 【リフレインボイス】の魔法か!」


 以前、〈吸魔石〉を手にいれた咲良が、いたずらで龍之介にこの魔法を使って驚かせたことがあった。

 その時のことを思い出す龍之介。



《ごめん……なさい。私はちょっと、もう……ダメ……みたい……》



 咲良の声はハリもなく、その声にはまるで生気がなかった。

 それでも必死に声を絞り出して、想いを伝えようとしている。



《最後に……、北条さんに伝えたい……ことがあります》



 【リフレインボイス】の魔法では、余り長時間の録音が出来ない。

 専用に魔法道具を作れば長時間の録音も可能になるが、普通に魔法を使用しただけでは長くても数分程度だ。

 しかもこの時の咲良は魔力がほぼ尽きかけていた。



《ほんとは帰って……きてから、伝えようと思ってた……んだけど……》



 この僅かの録音の間にも、徐々に咲良の声に力がなくなっていくのが感じられる。

 それでも必死に、あがくように、咲良は想いを告げる。



《好きです、北条さん……。また、生まれ変わっても、あなたの傍に……》



 ――そこで咲良の最期のメッセージは終わっていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 主要メンバー久々の死 ここはあれですか、悪魔から手に入れたアレがこの後の伏線だったりするんですかね
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