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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十七章

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第464話 浮かび上がる被害


「やあ……、どうやらそっちも終わったみたい……だね」


 西門前の戦場に信也達が駆け付けた時、すでに貴族派の軍勢は尻尾を巻いて逃げ出していた。


「エスティルーナが来てから……すぐに、敵が引いていって……ね」


 肩で息をするシグルドは大分消耗をしているようで、それは何もシグルドだけでなく他の面々も同じようだった。


「そうか……。東門の方も残敵の掃討は終って、奴らは森へと撤退していった。戦いは俺たちの勝利だ」


「それは……よかったよ。いやあ、途中妙に強い連中がまとまって襲って……きてね。普通に戦えば問題はない相手……だったけど、それまでの戦いで少し疲弊してたから、少しきつかったよ」


 「ははは……」と笑いながら語るシグルドだが、普段余りこうした弱音を吐かないのを知っている信也は、それだけきつかったのだと察する。


「とにかく、こちらでも生き残りの兵の捕縛をしていこう。それと里見さんは……遺体の収容を頼む」


「……分かったわ」


 〈魔法の鞄〉や"アイテムボックス"内には、基本的に生物を収納することはできない。

 だが死体となれば収納が可能だ。

 戦争で多数の死者が出ると、その後の処理にも多くの時間を要する。

 しかしそれも陽子の"アイテムボックス"によって、迅速に片付けられていく。

 もっとも一時的に収納しただけなので、その後の処理は必要になってくるが。

 ただこの日はもう暗くなってきているし、みんな疲れが溜まっていることもあって、遺体の回収はほどほどに、生き残りの捕縛をしてからその日の作業を終えた。


 この度の戦いについてまとめると、戦いが始まったのが昼少し前で、そこから数時間の戦闘が続いた。

 そして貴族派の軍勢が引き上げていったのが、もう陽が沈み始めた頃。


 戦闘後にはアウラが直々に拠点を尋ねてくることもあったが、皆疲れも溜まっていたので簡単な報告だけをして解散。

 アウラによると、敵兵士の一部が何をとち狂ったのか、明らかに指揮系統が取れてない状態で町に襲撃を掛けてきていたらしい。

 だが警戒態勢にあったので、すぐに襲ってきた者達は制圧されていた。




 そして明けて翌日。


 陽子は朝から引き続き"アイテムボックス"による遺体の回収作業に入り、他のメンバーは拠点内の点検や見回りをしていく。

 あの乱戦の中で、拠点内にまだ隠れ潜んだ敵兵がいるかもしれない。

 一応昨夜もゴーレムによる拠点内の巡回は行われていたが、完全に安全が確認されるまでは避難所にいるルカナル達を出すのは危険だ。


 午前中はそうした作業などが行われていき、拠点内の安全が確認された後にルカナルらは避難所から解放された。


「ふぅ……。あとは西門まわりね」


 拠点内と東門での遺体収納作業を終えた陽子が、最後にシグルドらが戦っていた西門へと向かう。


「うわぁ、これだけの数をシグルト達だけで相手したのね……」


 元々の数が違うので東門まわりほどではなかったが、ざっと見た感じでも百以上の遺体がそこには転がっていた。


「ま、嫌なことはさっさと終わらせましょ」


 心を無にして引き続き作業に取り掛かる陽子。

 と、そこに町の方から客人が訪れる。

 それはエスティルーナやマデリーネ達、それからキリル王子を連れたアウラだった。


「確か、ヨーコだったな。昨日は助力頂き感謝致す」


「あー……、いいんですよ。ここ(拠点)に残って戦ったのは、私達の意向でもあるので」


 敵が攻めて来た際には幾つかの作戦が立てられていたが、実際にその中には相手の数が多いとか、勝ち目がなさそうだと判断した場合は、拠点を放棄して逃げるという作戦も含まれていた。

 そうしたこともあり、陽子としては町の為というよりは自分達の為に戦ったという思いが強い。


「それでもこの町が救われたのは確かだ。落ち着いたら改めて正式に礼をしようと思っているが、今日ここを訪ねたのは話があったからだ。シンヤは中にいるのか?」


「あ、はい。多分拠点内にいるかと思います。呼んできましょうか?」


「いや、いい。ヨーコも忙しいのだろ? こちらで探すとしよう。中へ入っても構わないか?」


「それはもちろん」


 律儀に許可を求めてきたアウラに了承の返事を出す陽子。

 拠点の中へと入ったアウラ達は、東門近くで作業をしていた信也を発見する。


「これはアウラ様にキリル王子。昨日言っていた話の続きですか?」


「うむ。済まんが代表者を集めてくれぬか」


「分かりました」


 信也は近くにいた者に、パーティーリーダーを会議室へ呼ぶように伝言を頼む。

 そして信也自身はアウラらと共に、そのまま会議室のある中央館へ向かおうと……した所で、東門から何者かがにゅっと姿を現わす。


「のわぁっ……ってアーシアじゃないか。どうしたんだ、その恰好は」


 一瞬驚いた信也だったが、相手がアーシアだと気づきすぐに驚きは去っていった。

 そして、土や葉っぱなどの汚れが体中に付着しているアーシアの様子を訝しく思って問いかける。


「ぷるぷるっ……ぷるるん!」


「ぬ、困ったな。北条さんがいないと意思疎通ができん」


 激しく体を動かしたり震わせたりするアーシアだが、生憎と言葉が話せないので何を伝えたいのかが分からない。


「わかった。後で詳しく聞くから、とりあえずその泥だらけの体を洗ってきてくれ」


「ぷーるるん!」


 信也の指示に少し迷ったアーシアだが、肯定の意思を示した。

 言葉が通じなくても、最低限のイエス、ノーくらいは読み取れるのだ。

 思わぬ乱入者が入ったが、アーシアと別れた信也らはその足で会議室へと向かった。




▽△▽△



「此度の事、誠に感謝致す!」


 会議室内にはアウラと彼女と一緒にきた面々の他に、信也などの各パーティーリーダーに加え、先ほど様子のおかしかったアーシアも混じっていた。


 アウラはメンバーが全員揃うと、まず最初に感謝の言葉を述べる。

 しかしその言葉を向けられた信也たちは、対応に困ったような態度だ。

 陽子同様にあくまで自分達の為に戦ったのであって、この町の為に戦ったのではない、という思いがあったためだ。

 そのことを信也が代表してアウラに伝える。


「確かに其方ら冒険者の立場は平民とは異なる。しかし、父……グリーク卿はホージョーに勲章を授け、客人であることを示していた。であれば、本来は私が其方らを守らねばならなかった」


 今回の襲撃の際にアウラが用意出来た兵力は二百人にも満たない数であり、それを町の幾つかの場所に分散して配置されていた。

 戦の準備期間中に、咲良が"土魔法"で頑張ってはいたのだが、町を覆う外壁は完成していない。

 そうなると町への侵入は容易くなる。


 予めアルザスでの彼らの悪逆非道な行いを聞いていたアウラは、民を守る為に拠点へ援軍を送ることができなかった。

 実際に拠点での戦闘が始まると、散発的に敵の兵士が町になだれ込んできていたのだ。

 エスティルーナを送り出したのは、そのせめてもの代わりだ。


「いえ、それでもエスティルーナを派遣してくれたのは助かりました。敵方には同じAランクの冒険者もおりましたので」


「シルヴァーノか……。あの男を取り逃がしたのは痛かったな」


 実際に相対したエスティルーナが無念そうに口走る。


「それは今悔やんでも仕方あるまい。それより其方らが捕らえた捕虜なのだが……」


 その後は捕虜の扱いに関する話や、被害状況の確認。

 今後の方針などについて話が進んで行くが、途中からアーシアが何かを訴えるかのように体を動かし始める。


「――ということで今度は斥候の配置に注意を払い、引き続き警戒態勢を維持といった所か。……ところでそちらの従魔が先ほどから様子がおかしいようだが?」


「何か訴えたいことがあるようだけど、生憎北条さんがいないとコミュニケーションが取れないので、この後にでも時間をかけて聴取してみようかと」


「そうか。では続いて町の防衛に関してなのだが、引き続き『ジャガーノート』のサクラの力を借りたい。外壁が完成すれば兵を一か所に集中できるので、この拠点へ援軍を送ることもできるだろう」


「ぷるるるるるる!!」


「お、おい、アーシア!?」


 ここでアーシアがこれまでにない反応を示し始めた。

 これまでも明らかに様子がおかしかったのだが、今のはこれまでにない揺れ具合だった。


「今のアウラ様の話に何か意見があるのかな?」


「ぷるん!」


 シグルドが問いかけるとアーシアが「そうだ」というように震える。


「……自分も防衛工事に参加するということかい?」


「ぷるるん……」


 このシグルドの問いには否定のニュアンスが返ってくる。


「となるとサクラの力を貸し出すことに反対ってことかな?」


「ぷるるるん、ぷるるん……」


 今度は否定気味ではあるが、なにかそこに伝えたい意思があるかのようなリアクションを返すアーシア。


「そういった話じゃなくて、サクラそのものに関する話なんじゃねーか?」


「ぷるん!」


 ムルーダが指摘するとアーシアが強く反応を示す。


「今川に関する話? ……そういえば、今日は一度も顔を見ていないな」


「私も見てないような……」


「……僕も」


「…………」



 嫌な沈黙が場を支配する。

 そこで信也は昨日の戦闘の際の配置を思い出した。


「……そういえばアーシア。お前は今川と一緒に俺とは門を挟んで反対()側に布陣してたよな?」


「ぷるん」


「それでシルヴァーノらが拠点に侵入してきた後、俺の方に二人の冒険者が襲い掛かってきた。後に聞いた話では、反対側で魔法を撃っていた今川達の方にも二人ほど向かったらしいが……」


「ぷるるん……」


 そこでアーシアは身体を縮こませるようにして、小さく震える。


「……アーシアの下にも敵は来たのか?」


「ぷるん」


「そいつらは倒せたのか?」


「ぷるるん……」


「……もしかして、今川は奴らに攫われたのか?」


 すでに午前中の状況確認は終わり、『ジャガーノート』側に命を失った者がいないことは確認出来ていた。

 しかし攫われていたとなれば話は別だ。


「……ぷるん」


「何てこった……」



 アーシアの回答を受けて、茫然自失といった顔の信也。

 衝撃の事実の発覚に、シグルドやムルーダらも一様に表情を顰める。


「あの時そこのスライムの体中が汚れていたのはもしや……?」


 アウラが最初東門に現れた時のアーシアのことを思い出す。


「今川を探しに行っていたのか?」


「ぷるん……」


 信也の下には色々な報告が集まるのだが、そういえば戦闘が終わって以降にアーシアの姿を見たとか何かしていたとかいう報告を受けていなかった。

 もしかしたら、夜通し彼女を探し回っていたのかもしれない。


「…………」


 信也の表情には焦りの色が混じっていた。

 そして最悪な事態を想像してしまい、最初に言おうと思っていた言葉がすぐに口から出てこない。

 結局その口から発せられたのは、「探しに行かないと!」というものだった。


「……そうだな。あの乱戦の中でわざわざ攫ったというのであれば、まだ生きている可能性は高い」


 咲良生存の可能性について、付き合いの長い信也は直接口に出すことを避けたが、代わりにキリルが根拠を出してその可能性を提示する。


「私も手を貸そう。構わないか、アウラ?」


「勿論だ、エスティルーナ殿。だが奴らを見つけたとして、敵の数は多い。救出するにしても、人手があった方がいいだろう」


 咲良の捜索にエスティルーナが声を上げる。

 そこへ更にシグルドも口を開いた。


「僕らも当然捜索に加わるよ」


「シグルド……、ありがとう」


「礼なんて言わないでよ。当然じゃないか、僕たち仲間だろ?」


「……そうだったな」


「ならおれ達も――」


 更にここでムルーダも声を上げる。

 しかしこれには信也は難色を示した。


「いや……、ムルーダ。気持ちはありがたいが、ここ(拠点)を空っぽにするのもマズイ。今回は俺たちとシグルトのパーティー。それにライオットらの少数精鋭で向かう」


「――っっ!? そ、うかよ、分かった……。そんなら絶対見つけて来いよな! 絶対だかんな!!」


「ああ」


 暗に実力が足りていないことを指摘されたのだと、ムルーダも気づいていた。

 だからこそ胸の内に悔しい思いが募っていく。

 異邦人達の中では、龍之介の次にムルーダらと接することが多かった咲良。

 当然ムルーダも彼女が今どうなっているのか気が気ではなかった。


「アウラ様、話し合いの途中ですが――」


「分かっている。肝心の捕虜についての話は粗方ついたので、焦る必要はない。心置きなくサクラを探してきてくれ」


「はい!」


 食い気味に答えた信也は、それから早速咲良捜索班を組織した。



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